第56話 みんなで映画を観よう—2

映画を見終えた俺たちはフードコートに来て昼食にした。

流石は夏休みと言ったところか、フードコートは激混みである。

運良く空いているテーブルを見つけられて良かった良かった。


「じゃあ私座って待ってるから、先に2人とも行ったきなよ」

「ありがとルカ。じゃあお言葉に甘えるね」

「行ってくる」

「はーい」


荷物を置いて席を取っておくのも悪くはないが、盗難のことを考えると少し怖い。

その点、ルカがそれを見ていてくれるなら安心だ。

俺とレイカは必要なものだけ持ってそれぞれ昼食を買いに行く。

カレーとかハンバーグとか食べたいけど、一応JKだし、ちょっと物足りないけどドーナツと洒落込んでみよう。きっとみんなもJKらしい物を食べるに違いない。


…そう思っていたのに!


「おかえり〜。シュンはドーナツにしたんだ。レイカは…え、それカツ丼?」

「そう。カツ丼、特盛」

「へ、へぇ〜。山盛りすぎて一瞬何を買ってきたんだか分からなかったよ」

「私も分からなかった…」


俺がテーブルに戻って椅子に座ると、後からレイカがめちゃでかいカツ丼を携えて帰ってきた。

なんだよもう!俺だってそーゆーヤツが食べたかったよ!!

カツが多いのか米が多いのか分からないけど、文字通りの見事な山盛りが顕現している。


「じゃあ私も買ってくるね〜」


今度は俺たちがルカの荷物を見守って昼食を買って帰ってくるのを待つ。

そういえば、前世ではフードコートでご飯を食べる時なんかは料理が完成したら音が鳴って教えてくれる機械を手渡されて一旦席に戻らされたけど、今の時代は機械化が進んだおかげでそーゆーのも無くなった。

単純に作業効率が上がっているからあまり客を待たせることなく料理が提供できるのだ。

前世と大きく生活洋式が変わったというのはないけど、そういう細かい進化は日常的に感じられる。


改めて人間の技術発展力に感動しながらドーナツと一緒に買ったミルクティーを飲んでいると、ルカがうどんを買って帰ってきた。


なんだよ、みんな普通に食べるんじゃんか。

やっぱ俺もカレーにすればよかった。


「お待たせー。結構並んでたよー」

「夏休みだもんね。まあ、みんな揃ったことだし早速食べるとしようよ」

「そうだね。じゃ、いただきまーす!」

「いただきまーす!」

「いただきます」


みんなはそれぞれ買ってきたものを食べ始める。

ルカは麺を美味しそうに啜り、レイカは大きく口を開けてカツを頬張る。

俺は2個しかないドーナツの1個をちびちび食べ始めた。


うぅ、次からはJKっぽさとか無視して好きな物を食べてやるからな…!!


「いやー、怖かったね映画。2人とも大丈夫だった?」

「噂されてたよりは怖くなかったかな。そういえばルカ、隣でめっちゃビビってたよね」

「そこまでビビってはないもん! それを言うならレイカだって震えてたよね!?」

「私は、寒かっただけ」

「真夏なのにそんなわけあるかー!! だったらそんな服装するなよ!」

「あははっ、レイカ震えてたの?」

「……ま、まあ、少しは怖かった、かも」

「ほーら怖かったんじゃ〜ん。まったくー、強がるなよー」


ルカはうどんを啜りながらレイカの横腹をツンツンする。

嫌がるレイカを前に攻撃の手を緩めないルカは、そのまま話を続けてきた。


「それはそうと、そーいえばさ、2人とも彼氏とかいるの?」


なるほど、ここでぶち込んできたか。

女子会といえば恋愛話。

こーゆー話題が出るのは必然だ。


俺も2人のそっちの系の話は気になるし、ノリノリで話題に乗っかる。


「私はいないよ。レイカは?」

「いるわけ、ない」

「へぇ、2人とも美人だからいるかなって思ったのに」

「そーゆールカはどうなの?」

「私もいないよ〜。第一、私は好きって感情がよく分からないし」

「ほうほう」


あー、時々いるよな。自分は恋愛しないけど他人の色恋沙汰には興味津々の女の子。

ルカは見た目だけでなく心までも幼いというわけか…。

いや、自分が恋愛しないのを幼いと表現するのは良くないか。

だけど小学校高学年の女児とかって、自分よりも他人の恋愛話に興味津々なイメージがあるからなぁ…。

これは難しいな…。

まあ、やっぱりルカは歳下の妹みたいに思っておけばいいか。


「てかさ、そもそも私たちって女子校通ってるんだから出会いがなくない?」

「え、シュンってそーゆータイプ?」

「というと?」

「文化祭とかで男子捕まえるのも、悪くない。だけど、ネットで知り合う方が、早い」

「そうそう。レイカの言う通り」

「あー、そゆことね。学校で出会いがなくてもSNSで男と話して、そこで関係を築くって話?」

「そゆこと」

「まあ分かるけどさ、そーゆーの怖くない?私、ネットで知り合った人と会うとか無理だなー」

「そうかなぁ。私は良いと思うけどね。ビデオ通話とかしてれば相手の外見も分かるし」

「私も怖いとは思うけど、そーやって彼氏を作るやり方は理解できる、かな」

「へぇ、そうなんだ」


俺にはそんなやり方はできないな。

そんな行動力もないし、そもそも彼氏を作りたいとも思わない。

それに、彼氏か彼女、どっちかを作らないと死ぬ!ってなったとしたら俺は彼女を作ると思うし。


「ちなみに、レイカはどんな男性がタイプなの?」


ナイス質問だルカ!俺も気になってたんだ。


「うーん、あんまり分かんない」

「え〜。イケメンがいいとか、高身長がいいとか、そーゆーのないの?」

「うーん……。強いて言うなら、背は低い方がいい。あと、歳下が、いいかも」

「へぇ!以外!」

「確かに意外かも。今度私の弟紹介してあげようか?小学2年生だけど」

「流石に小さすぎる」

「ははは、ですよね〜」

「そう言うシュンはどんな男性が好みなの?」

「人に聞くときは自分から言わないとダメなんだぜ?ルカさんよぉ」

「ふむふむ、じゃあ教えてやるよぉ。私はよぉ、高学歴高身長爽やかイケメンがタイプなんだよぉ」

「はははっ、どこを探したらそんな神様みたいな男がいると思って……」

「…ん?どしたの?」

「い、いや、何でもない何でもない」


一瞬だが、俺の脳裏にアリスんとこの居候の顔がチラついた。

高学歴かは置いておいて、あいつは確かに高身長で爽やかなイケメンだ。

だけどアレを知人に紹介するのは色んな意味で罪な気がする。

てか、多分次にあいつと会った時には彼女できてそうだしな。うん、やっぱりあいつの存在を教えるのはダメだ。


「なんか怪しいよシュン〜?実は良い男が知り合いにいるのか〜?」

「いるのかー?」

「いないいない!全くいないから!ほんとに!」

「そ、そっか」


よし、なんとかゴリ押しで誤魔化せた。


「まあそれはさておき、次はシュンの好きな男性のタイプを教えてよ」

「いいよ〜」


よし、ついに俺の番が来たな。


俺は椅子の背もたれに寄りかかり、帽子を深く被り直して俯き気味にミルクティーを一口飲む。

そうして怪しげな雰囲気を作ってから、2人の顔を舐めるように見て言った。


「私ね、正直男性にはあんまり興味ないんだよね。むしろその反対というか〜」

「え…?」

「シュンちゃん…、そういう…!?」


2人は分かりやすく動揺する。

いや、レイカは動揺してる、のか…?

なんか目がキラキラしてるような気もするけど、きっと気のせいだろう。


なんにせよ俺の言いたいことは伝わってるっぽい。


「どちらかと言えばって話だけどね」

「そ、そうなんだ…」

「…困ったことがあったら、ぜひ、話して」


2人とも、異なる反応をしてくれる。

顔を赤くしてはにかむルカと、若干ノリノリな空気を放つレイカ。


ちょっと変な空気になっちゃったな。

なんとかしないと。


「ま、まあ、今は2人とも友達だと思ってるし、中々それ以上の感情にはならないから安心してね!? 安心って表現が合ってるかは分からないけど…」

「えっと、つまり私もシュンのことは友達だと思ってて良いってことだよね…?」

「うん、そうそう」

「よかった〜。本気で好きとか言われたらびっくりしてたよ〜」

「そうだよねー。あははは…」


ふう、危ない危ない。

これは一か八かの賭けだからな。

ドン引きされるか、相手に俺という存在を意識させることができるかのどちらかだ。

こうは言っているが、多分ルカはそこまで引いていない。じゃなきゃこんなに耳が赤くならないはずだ。

レイカもまんざらでもなさそうな感じだし、意外といけるのか……?


俺は新たな可能性を見出しつつ、その後も続く女子会を楽しんだ。


 

* * * *


「またね〜!」

「ばいばーい」

「また、明日」


俺たちはショッピングモール最寄りの駅で解散した。

昼食を食べたら少し買い物をして、そのまま解散だ。俺は2人と逆の方向の電車に乗るのでその場で別れた。

ホラー映画も面白かったし、2人とも結構ノリが合う。また今度遊びたいな。


「今は3時か。帰ったら4時くらいかな〜」


時間はたっぷりあるし帰ったら宿題でもしようかな。そのあとは最近買ったミステリー小説を読んで〜。

と、このあと何をするか考えながら電車に揺られているとスマホに通知が来た。

花からだ。夏休み中は全然連絡を取ってなかったし久しぶりだな。


俺はちょっと驚きながらLIMEを開いてみる。


『ねえねえ、海で遊ぶ話なんだけどさ、知人が経営してる旅館が近くにあるんだよね。せっかくだし泊まりで行くのはどう?特別に安くしてくれるってさ!』


マジかよ!泊まりで海とか最高かよ!

もちろん賛成だ。


『めっちゃいいじゃん! 是非そうしよう!!』


そう返信するとすぐに既読がついた。


『よし、じゃあみんなにも伝えるね〜』

 

猫のスタンプと一緒にそんな返信が送られてきた。直後、グループLIMEの方にも先ほどと同じような内容のメッセージが飛んできた。

一応誰かに前もって確認を取っておきたかったのだろう。その気持ちは分かる。

俺をそれに選んでくれたのは嬉しいな。


しばらくしてグループLIMEにもみんなからの返信があった。


『いいねいいね〜。アタシいろいろ持ってくわ』

『いいね。楽しみ』

『いいですね!ワタクシも何か持っていきます!』


3人も賛成か。なら決まりだな。

あとで女皇様にもこの話を伝えておこう。

…いや、女皇様もこのグループに追加すればいっか。みんなも文句は言わないだろうし、そうしよう。


〈シュンがダークネスを追加しました〉

『あれ、ダークネスちゃんじゃん〜』

『確かに入ってなかったね!ナイスシュン!』

『この際追加しようと思ってね。女皇様やっほー』

『え?え???』

『シュンがいきなり追加したせいで焦っちゃってるじゃん笑 やっほ〜』

『ダークネスちゃん、今度みんなで行く海、近くの旅館に泊まることになったから覚えておいて〜』

『ん!? え?ええ!?』


はは、女皇閣下はだいぶお焦りの様子でいらっしゃる。

まあ、ちょっとすれば状況整理もつくだろう。

そう信じ、俺はスマホを閉じて心地よい電車の揺らぎに身を委ねて目を閉じた。









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