第52話 第2回プール清掃
今日は2日ぶりの部活だ。
夏休みが始まってからというもの毎日のように部活があったので、2日間の休みがあるだけでも超嬉しかった。
おかげで一昨日はアリスと遊べたし、昨日はゲームをしたり、買うだけ買って読んでなかったラノベを読んだり出来た。
しっかりリフレッシュすることができたし、今日からの1週間、また部活を頑張っていこう。
「おはよー長瀬さん」
「おはよう!」
部室には既に何人も部員がいたが、その中でも最近よく話す
童顔で背は低く胸もない、まるで中学1年生のような子だが、妹ができたみたいで俺は結構彼女のことが好きだ。元気いっぱいなところもグッドポイントである。
そんな彼女は俺が挨拶すると笑顔で手を振り返してくれる。
俺はそんな彼女の隣に行って準備を始めた。
「長瀬さん、今日はプール掃除だけど水着持ってきた?」
「そりゃあ忘れないよ〜。ま、スク水なんだけどね」
「そっかそっか。長瀬さんはスク水か〜」
「藤宮さんもでしょ?」
「ふっふっふ。実はね、私競泳水着買ったんだ」
「え! もう買ったんだ!? 私も早く買わないとかなぁ」
「ネット注文だと届くまで数日かかるからね〜。私は今日着れるようにちょっと前に買っておいたんだ」
「そうなんだ! 後で見せてね」
「もちろん。…よし、準備できたしプール行こうか」
「おっけ〜」
話しながら手提げ袋に荷物をまとめ終えた俺は、長瀬さんと一緒にプールへ向かう。
そして更衣室に入ると、既に何人かの先輩が着替えている所だった。
流石と言うべきか当たり前と言うべきか、みんな裸を曝け出して着替えている。
もちろん恥ずかしがって体を隠している人もいるけど、ほとんどの人が裸を見せている。
互いの胸を揉み合っている光景を目にするのは何度目だろうか…。
もっとも、いくら見ようと飽きることなどないのだが。
いいぞ! もっとやれ!! どんどんやれ!!!
「…藤宮さん着替えないの?」
「はっ…! 着替える着替える!」
危ない危ない。うっかり先輩たちを見つめて立ち尽くしていた。
それにしても…
「どうしたの? ……あ!今絶対失礼なこと考えてたよね!?」
「いやいや、色々ちっちゃくて可愛いな〜とか思ってないから」
「思ってるんじゃん!も〜、私だって少しは気にしてるんだから…」
着替えの途中、下着姿の自分の胸に視線を落とす長瀬さん。しょんぼりしてて可愛い。
撫でやすい位置にある頭を撫でそうになったけど、何となくやめておく。
よし、色々と満足したし俺も着替えるとしよう。
「…いいよね、藤宮さんはスタイル良くて」
「そう?」
俺は制服を脱ぎつつ「分かる。私のスタイルいいでしょ」とか内心思いながら答える。
「そうだよ〜。身長高い人って痩せ気味のイメージがあるけど、藤宮さんは肉付き良いし、出るとこ出てるし、ほんと羨ましいよ…」
「……ほら、まだ高1だしさ、きっとここから成長するよ!色んな意味で!!」
「だといいけどねぇ…」
悲しげな表情の長瀬さんは俺の体を上から下まで舐めるように眺める。
対する俺はスク水に着替え終えていた長瀬さんの体を見るが、やっぱり貧相な身体だ。
だけど、良く言えばロリ体型とも言える。
安心するんだ長瀬さん。俺はそんな子もいけるタイプだぞ!
そんなことを思いながら俺は一瞬裸になって競泳水着に着替えた。
「おおー!かっこいいね!」
「どう、似合ってる?」
「めっちゃ似合ってるよ!やっぱりスタイル良いとかっこいいなー」
「へへ、ありがと」
俺が買った競泳水着は膝のちょい上くらいまで丈があるタイプだ。
本当はハイカットのエロいやつを着たかったけど、この前見た時に先輩たちがみんなこのタイプのやつを履いていたから俺もそれに合わせておいた。
ま、エロいやつも買ってあるんだけどね。
あれは家で着て楽しもうと思う。
「待たせちゃってごめんね」
「大丈夫だよ。じゃあ行こっか」
準備が完了した俺たちはプールサイドに向かった。
* * * * *
水の抜かれたプールに入り壁の汚れを道具で落とす2年生の幾人かが心の中で考える。
藤宮春と仲良くなりたい、と。
1年生が入部してから既に1学期を消費しているわけだが、未だに仲良くなれていない後輩は多い。
入部当初に自己紹介をしないという妙な伝統も1つの要因となってはいるが、それ以上に人数が多いということが大きな原因だった。
各学年10人以上いるので、部活中は同級生と話していれば寂しいことはない。
これが各学年3、4人しかいないとなれば学年の隔たりなく会話せざるを得なくなるかもしれないが、生憎この部活ではそういうことにはならない。
実際、2年生で藤宮と関わりがあるのは六坂日向ただ1人だ。
それだけ、学年を隔てた友好関係を築くのは難しいことであった。
とは言え、水瀬、笹木の2人がいなくなったことで部活の雰囲気は格段に良くなっており、以前よりも後輩に話しかけに行くハードルは下がっている。
だが、それでも藤宮春という後輩に話しかけるのは先輩たちにとってハードルが高かった。それは、自分では彼女と釣り合わないと考えてしまうからだ。
藤宮春は誰が見ても「美人だ」と評価するような美貌を持っている。
凛とした顔立ち、長く綺麗な脚、しなやかな腕、滑らかな曲線を描くボディライン。
同性でも惚れ惚れしてしまうような姿を見て、無意識のうちに2年生たちは気圧されてしまっている。
これが同級生であったならばあまり意識することなく話しかけに行くことが出来ただろう。実際、遠くでは4、5人の1年生と藤宮は仲良く掃除している。
だが、先輩と後輩という関係は、非常に絶妙な距離感を両者の間に生んでしまうのだ。
上下関係の薄い部活ならまだしも、水泳部はそこら辺に厳しい。
だからこそ、その距離感は他の部活のそれに比べてより大きく存在する。
そんな微妙な関係にあるからこそ、自分より圧倒的に優れた後輩に話しかけにいく勇気が中々湧いてこなかった。
仲良くなれたとしても、その際にはどこか距離を感じる後輩と引け目を感じながら同じ時間を過ごすことになる。
——それでも。そうだったとしても。
彼女ら2年生は何とかして藤宮春と仲良くなりたかった。それは3年生、つまり最上級生になった時の自分の立ち位置のために。
多くの部員を抱く部活の上級生にとって大切なのは、どれだけ多くの部員から高い好感度を得ているか、ということだ。
高ければ高いほど部内での立場は上がり、好感度の低い上級生は他の上級生の影に隠れて過ごすことになる。
その点、藤宮春は癌を除去した功績に加え、体育祭でも部長と共に活躍を見せている。人を惹きつけるその美貌については言うまでもない。
そんな後輩と仲が良いという事実は、今後の上級生同士のポジション争いにおいて大きなアドバンテージとなる。
既に六坂日向が藤宮との関係を構築しているが、彼女はそういう話に興味がないタイプなので障害にならない。
だからこそ、そういう話に敏感な2年生にとっては「自分が最初に仲良くなるんだ!」と心の中で躍起になっていた。
しかし、いざ行動するとなるとやはり緊張してしまう。
そんなジレンマに苦しみながら壁を磨き続ける2年生たち。
そんな中、1人の2年生がブラシ片手に藤宮の元へと歩き出した。
「「「——!!」」」
瞬時にそれに気づく他の2年生。
彼女たちも、最初の2年生に続いて藤宮の元へと歩いて行った——
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