第45話 2人の結末

金曜日の放課後。

会議室には校長、教頭、学年主任、生徒指導主任、笹木、水瀬、2人の担任の計8人が集まっていた。

さながら入社面接のように、2人は椅子に座り、その正面に教師陣が一列に座る。


重々しい空気の中、生徒指導主任である佐藤が険しい顔つきで2人に問うた。


「どうして呼ばれたかは分かるよな?」

「…はい」

「…分かってます」


強面の顔をさらに険しくする佐藤を前に、笹木と水瀬は俯いたまま答えた。


「では話してみろ、理由を」


続く佐藤の言葉に2人は沈黙する。

その様子に苛立ちを覚えた佐藤がテーブルを拳で叩きつけると、ようやく2人はポツポツ話し出した。


「…藤宮さんの髪を切りました」

「そうか。で、水瀬、お前は?」

「…私もそれを見て笑ってました」

「そうだよな」


教師陣は手元の印刷物をその都度ペラペラめくりながら、佐藤と2人の会話を聞く。


「だがな、お前たちが今まで行ってきた事はそれだけではないはずだ。違うか?」

「それは…」


言い淀む笹木に、佐藤はある事実を告げる。


「今回の告発は藤宮春によるものだが、それに続くように様々な話が上がってきている。

お前たち、随分と色々やっていたんじゃないか?部活じゃ随分と敵を作っていたようだな」

「「………」」


2人は床を見つめながら固まる。

あまりにも身に覚えがありすぎた。

早く全てを認めて解放されたかったが、2人のプライドがそれを拒む。

そして沈黙を決め込む2人に、佐藤は続けた。


「ああ、よな。『不倫相手を詰める時、その時には証拠が揃っている』って。俺たちだって色々調査したって分かってるよな?」


その言葉を聞き、2人は自分たちの置かれた立場をようやく理解した。


自分たちは完全に詰んでいるのだ。


「証拠が揃っている」という言葉が真実かどうかは分からないが、最早そんなことは関係ない。

自分たちに許されているのは全ての罪を認め、ただひたすらに謝罪することだけ。

言い訳や弁明の余地など、この場に呼ばれた時点で与えられていなかったのだと気づく。


そう悟った笹木は、咄嗟に行動していた。


「申し訳ございませんでした…」


あまりにも滑らかな動作で笹木は椅子から降りて土下座する。

必死に額を床に擦り付け、《《少しでも印象が良くなるように》全力で土下座する。

そんな笹木を見た水瀬もそれに続き土下座して謝罪する。


だが、佐藤はそれを良しとしなかった。


「……はぁ。お前らの安い土下座に何の意味があると思ってるんだ?さっさと椅子に座れ。お前らに求めるのは事実確認だ。これから言うことが事実かどうか答えろ。言うまでもないが、正直に話した方がいいからな」

「「…はい」」


2人は言われた通りに椅子に戻り、再び俯いたまま話を聞く。


佐藤に淡々と自分たちが行ってきたことを告げられ、2人はそれを肯定するしかなかった。

もちろん否定したかったが、ここで否定するメリットなど1つもない。何とか現実を受け止めた2人は、大人しく罪を認める。


「…よし、これで確認は終わりだ。俺たちが聞いた話は全て正しかったようだ。で、何か言うことはあるか?」

「ごめんなさい…」

「もう絶対にやりません…」


涙目で謝罪の言葉を口にする佐藤は、2人の本質を見抜いていた。

こいつらは反省などしていない、と。

浮かべる涙は反省を表しているのではなく己の立場を憐んでいるのだと。


どこまで行っても自分本位の2人に佐藤は現実を見せる。


「……これは俺たちの責任だが、何度かお前たちのこのような話を見逃したことがある。恥ずかしながら、事を荒立てたくなかったからだ」


佐藤はチラリと校長と教頭に目を合わせる。

2人は気まずそうに佐藤から目を逸らした。


「だがな、今回は違う。藤宮の持ってきた証拠、多くの被害者の証言。これを見過ごせばそれこそ俺たちは教鞭を取る資格を失うだろう。幸い、藤宮含め生徒らは警察沙汰にはしないと言ってくれている。…正直、俺たちにとってもありがたい話だが、それ以上にお前たちの方がその意味はよく理解しているだろう?」

「「………」」


睨まれた笹木と水瀬は話の終着点を察し、顔面蒼白で最後の抵抗を試みる。


「…じ、自主退が——」

「自主退学など認めるわけがないだろう?」

「………」


笹木の提言は真っ向から拒否され、佐藤は最後の言葉を2人に告げた。


「お前たち、2人とも学校側からの退学処分だ。お前たちは自ら望んで退学することなど許されていない。どうやら自覚していないようだから教えてやろう。お前たちはなんだよ」

「「……………」」


その言葉に、2人はとうとう泣き出した。

自主退学よりも社会的に重い退学処分。

しかし、いくら泣こうと結果は変わらない。




——かくして数日後。

2人は学校から姿を消した。




* * * * *

「え、あいつら退学したって!?」

「うん!2年の先輩がそう言ってた。藤宮さん目つけられてたし良かったね」

「いやー、良かった良かった!」


笹木と水瀬が学校から消えたという話を聞いたのは俺が学校側に話をしてから1週間くらい経ったころだった。

部室で支度をしていると同級生が教えてくれた。

いやー、良かった良かった。

録音が役に立ったのかな?

後で俺にも先生から報告があるだろうし、そん時に色々と話を聞いておこう。


なんにせよ、これで一件落着だ。 

部活の雰囲気も明るくなるだろうし、楽しんで部活ができそうだ。


俺が部長に2人の話をした時、部長が部員を集めて説明してくれた。

その結果、今まで嫌な思いをしてきた部員が俺に続いてこぞって教員に告発し、今回のような結果に至ったのだ。

今まで嫌な思いをしてきた人はみんな2人の仕返しを怖がって先生に相談することを躊躇っていたようだ。

その反動が一気にきたというだけ。

あいつらの結末は自業自得ということだ。


邪魔な奴は排除され、俺は楽しくみんなと過ごせる。

これで今まで胸の内に渦巻いていたモヤモヤも晴れた。

これからはもっと楽しい学校生活が送れそうだ。







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