第35話 体育祭—2
開会式が始まる。
生徒はそれぞれの団の観客席に座り、1階の演壇に立つ体育委員長に視線を向ける。
委員長はマイクを片手に、堂々と語り出した。
「ただいまより、開会式を始めます。初めに、校長挨拶。それでは校長先生、お願いします」
委員長は壇から降りて校長にマイクを渡すと、それを受け取った校長が演壇に上がって話し出す。
「えー、みなさん、こんにちは。皆さんの健闘を心より祈っております。頑張りましょう」
あれ、これだけ?
あまりにも短い挨拶だったので拍子抜けしたが、校長はそのまま礼をしてからマイクを委員長に戻したので挨拶は今ので終わりなのだろう。
ここまで短い校長挨拶は初めて見た。
入学式ですらもう少し話していたと思うぞ。
まあ、短いに越したことはないから良いんだけど。
「話、短くてラッキーだね」
「ほんと。びっくりした」
耳打ちしてきたまことも同じことを思ったらしい。
やはり。話の短さは正義だ。
「ありがとうございました。続いて、選手宣誓。各団団長、前に」
マイクを委員長に返しつつも依然として壇上に立つ校長の前に、団旗を握った団長たちが集う。
勿論、我らが部長も青い旗を持ってそこに並び立っている。
いつもより更に堂々としている気がするな。
「「「宣誓! 私たちは、スポーツマンシップに則り、正々堂々と、最後まで戦いぬく事を、誓います!!」」」
団旗を高く掲げながら大きな声で宣誓する団長たちはカッコいい。
いいな、俺も3年生になったらやってみたい。
宣誓を終えた団長たちは、再び委員長の横に整列した。
ちなみに、体育委員長は赤団の団長である。
だけど司会を任されているため、今宣誓をしたのは副団長だったらしい。
最初から別の人を司会にすればいいのに、とか思ったが、まあ色々とあるのだろう。
「続いて、来賓の挨拶です」
団長たちによる宣誓が終われば、来賓による長ったらしい挨拶が続く。
涼しい屋内だからいいけど、外だったら暑くてたまらないな。
ぼーっと聞き流していれば来賓ズの話も終わり、開会式も終わりに向かう。
「—ありがとうございました。それでは、これにて開会式を閉式とします。15分後、9時20分より競技を開始するので、選手はそれまでに準備をしてください」
委員長がそう告げると、2回の観客席は一気にザワつきだし、生徒が席を立ち始める。
さて、俺も準備するとしようかな。
応援の準備を。
俺はリュックからアイテムを取り出す。
「おお、シュンちゃんメガホンなんて持ってきたんだ」
「ふっふっふ。やっぱり体育祭と言ったらコレでしょ。まことも使う?」
「いいの? 使う使う!」
「はいどーぞ」
「どーもどーも」
メガホンを受け取ったまことは紐を首にひっかけて微笑んだ。うん、可愛い。
俺もメガホンを首に掛けるとしよう。
「確か、最初は台風の目だよね」
「うん」
そう。最初はアリスが出場する台風の目だ。
後ろを向いてアリスを見れば、ちょうど準備をしているところだった。
「アリスー、頑張ってね!」
「はい! 頑張ってきます!」
席を立つアリスを俺は手を振って見送る。
…それにしても、来ないな。
「あのさ、女皇様見かけた?」
「じょこうさま…?」
「あ、ごめん。いつも黒いパーカー着てる不審者みたいな子なんだけど…」
「ああ! 時々来るあの子か! うーん、見かけてないかなぁ…」
「そっか〜」
女皇様は桜染の血闘以外には出場しない。
それまでに登校してくれたらいいけど、まさか今日は欠席なんてことはあるのか…?
頼むぞ女皇様!
「——間もなく、最初の競技が始まります。選手は集合してください」
放送は体育委員長から代わり、放送委員に移ったようだ。
委員長の威厳のある声から、柔らかくもハキハキした聞き取りやすい声にチェンジだ。
そんな放送から程なくして、選手たちが入場してくる。
その中には、青いハチマキを頭に巻いたアリスの姿もあった。
「がんばれー!」
俺の声援をきっかけに、会場は声援の嵐に包まれた。
* * * * * * *
気づけば昼休憩。
まことは保健委員会の仕事でどこかに行ってしまったので、今度はいつメンと過ごす。
昼休憩の間は教室に戻ることができるので、俺たちは自分のクラスで昼ごはんを食べていた。
「疲れた〜〜」
「花、大活躍だったもんね。めちゃくちゃ玉入れてたし」
「私も入れてたんだけど?」
「あれ、アタシの目が悪かったのかな? シュンは3個くらいしか入れてなかった気がするんだけどー」
「くっ、よく見えてやがる」
「ははは。シュンの本命はこの後のリレーなんだからそっちで頑張ればいいんだよ」
「ミカも応援してる」
「ありがと。今度こそ勝つから」
ポムにも言われたが、俺は玉入れで活躍できなかった。勝つ気満々だったから出鼻をくじかれた気分だったぜ。
玉入れの結果は4位。
他の競技でも青組は好成績を残せなかったせいで、青組の現在順位は3位だ。
決して悪くはないけど、このまま中途半端な順位を取り続けていたら、1位になることはできないだろう。
だからこそ、得点の高い団対抗リレーでは絶対に1位をとらなければならない。
「そういえば、アリスの騎馬戦も凄かったよね」
「確かに〜。雄叫びあげてたし」
「そ、そうでしたか?」
確かに叫び声みたいなの出していたな。
「おんどりゃぁぁ!」みたいな感じのガチなやつを。
あの迫力で敵の頭からハチマキをぶん取っていくアリスはカッコよかったな。
俺もみんなにカッコいいところを見せないとだな。
よし、午後こそはもっと頑張ろう。
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