第29話 休日の過ごし方 —花の場合—

体育祭を1週間後に控えた土曜日。

花は目覚まし時計を鬱陶しげに叩き、目を擦りがらベッドから身体を起こす。


「…んん」


時刻は午前9時。

いつも通りの時間だ。

休日は夜11時に寝て朝の9時までたっぷり寝る。それが花の生活スタイルだった。


顔を洗い、歯を磨いて髪の毛を櫛で梳かす。

その次にパジャマを脱いで、オーバーサイズのTシャツ一枚に着替える。下には何も履かない。

そのほうが楽だし、だからこそのオーバーサイズのTシャツである。


身支度を終えたら朝食を取る。

自営業の両親は朝早くから仕事をしているため、自分で食パンを焼いてジャムを塗って自室で食べる。ココアと一緒に食べるのが最近のブームだった。


「〜〜♪」


花は鼻歌を歌ながらSNSを漁る。お気に入りの投稿を見つけては片っ端から保存していき、後でのんびりとそれを見返す。

特に注目しているのは美容関係のものだ。


最近、花は少し落ち込んでいた。

それは自分の周りの人間がみんな美肌だからだ。ポムは仕事の関係上人一倍美容には気をつけているし、ミカも頻繁にポムと化粧水やパックの話をしているのを耳にする。

アリスはもともと肌が綺麗だし、シュンは美容関連の話はあまりはしないが、きめ細かい張りのある肌をしている。


では自分はどうか。

間食が多いせいか、少し肌がペタつくようになってしまった。最近では小さいニキビが出現し始めている。

1人の乙女として、それは耐えられないことだった。

故に花はSNSを漁る。

美肌になるためには何が良いのかを知るために。


そうしてスマホと向き合うこと数時間。

気づいたら動画サイトで動画を見てしまっていた花は、時計が午後1時を指しているのを見て疑問に思った。

いつの間にこんなに時間が経っていたのか、と。

つくづく、スマホを見ているとすぐに時間が経ってしまう。

とは言え、現代を生きる女子高校生としてそれを手放すことは出来ない。流行に乗り遅れることは許されないのだ。


「…ふわぁぁ〜」


しかし、さすがに何時間もスマホの画面を見ていたせいで花の目は疲労を溜めていた。

自然と漏れ出たあくびに従い、花はベッドに横になる。


そうして横になりながら再び寝落ちするまでSNSを眺め————夕方に目覚める。


「……やっちゃった〜」


寝ぼけ眼で5時を指す時計を眺めながら、花は予定と違う結果に戸惑う。 

1時間くらい昼寝したら起きるつもりだったのだが、4時間も寝てしまった。


「やっぱ疲れてるのかなわたし…」


最近は、毎日放課後にいつものメンバーで体育祭に向けて練習していた。

アリスやシュンが思っていたよりも本気マジであり、練習も本格的だったので慣れない花は苦労していた。

しかし、練習を言い出したのは自分であるので「もうやめようよ」だなんて言い出せなかった。


そんなわけで全身に疲労が溜まっていた花は、起きるのを諦めて再び眠りについた。

一度目が覚めたとは言えまだ眠いままだったので、意識が微睡まどろむまでに時間を要しはしなかった。


そして再び目を覚ました時——


「………えぇ!?」


夜の8時を示す時計を前に、花は悲鳴に近い叫び声をあげた。


「ほとんど寝てたら1日終わっちゃった…」


 

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