第26話 体育祭……?

俺は今日を楽しみにしていた。

俺の姿を見て、みんなはどんな反応をするのか、めちゃくちゃ気になっているんだ。


花は「え〜!?」って感じで素直に驚くだろう。


ミカも「…え……え?」って感じで普通に驚きそうだな。


ポムは驚きもせず「へぇ、イメチェンしたんだ、いいね」とばかりに褒めてくれそうだ。


アリスは……ん、アリスは?

アリスに関しては普段から何考えてるかよく分からないところがあるし、予想が立てにくいな。


まあいい。全てはみんなに会えば分かることだ。


そういうわけで俺はワクワクしながら教室の扉を開けた。

そのまま自分の机に向かい———同時に教室にいる人たちから凄い視線を感じる。

みんなが俺を凝視していた。


そして俺が席に着いた瞬間。


「えっ、藤宮さんだったの!?」

「ど、どうしたのそれ!?!?」

「全然わかんなかったよ!!!」

「めっっっちゃ似合ってる!!」


そんな声がそれぞれの席から飛んできた。

ほとんどが、というより全員が話したことのない人たちだが、どうやら向こうは俺のことを認知してくれていたらしい。


はは、やっぱり美人は辛いね。一方的に認知されているだなんて。

………やったぜ!!


「あはは、色々あってね」


とりあえず適当に流してみたが、みんな俺の席に来ていろいろ話しかけてくる。

普段は全く話さないのに何でこーゆー時だけは話しかけてくるんだ?

話したいと思ってくれているなら普段から来てくれればいいのに!

…まあ、女子に囲まれるのは悪い気はしないからいいけど。


「髪サラッサラだねー!」

「顔小さいね!」

「似合ってるね!!」

「えへへ、ありがとう〜」


おっと、あんまり褒められるものだからうっかり甘えた声が出てしまった。

ダメだダメだ。

いきなりカッコいいキャラがぶち壊れるところだったぜ。

ギリギリみんなの声量に押し潰されて、みんなの耳には届いていないようだった。


しばらく彼女たちの俺への賛美は続き、そんな中、花が登校してきた。


「——え!? どうしたのそれ〜!?」


俺を見つけるなり、花は大声で驚きながら走り寄ってきた。

同時に、俺の周りにいた女子たちはそそくさと自席に戻ってしまった。


あれ、花道さん、あなた怖がられてます?


「おはよう花。予想通りの反応をありがとう」

「予想通りも何も、絶対驚くでしょそんなの〜。どしたのそれ〜?」

「今度体育祭あるでしょ? 暑いの嫌だし、そろそろ短くしてもいいかなって思って」

「それにしては随分バッサリいったね〜。似合ってるとから良いと思うけどね! それに、染めたんだ?」

「そうそう。みんな染めてるし、せっかくなら私も染めてみようかなって」

「ははーん。少し遅れての高校デビューってやつだねぇ〜?」

「はは、そうかも」


花に続いて、ミカが登校してきた。


「えっ、何、何があったの?」

「ふっふっふ。イメチェンだよイメチェン」

「え、さっきと言ってることちが—」

「イメチェンだよ」 

「—むがっ、口元押さえつけるのやめてよねシュむがっ——」

「……そ、そうなんだ。めちゃくちゃ似合ってて良いと思うよ。触って良い?」

「どうぞどうぞ」


理由なんていくつあってもいいじゃないか。


俺の髪を撫でるように触ったミカは「さらさらだね」と言って席に戻った。

美容室でバチクソに高いトリートメントを使ったのだからそうでないと困る。

ちなみに、そのトリートメントはコツコツ貯めたお金で買って帰った。


「…あれ、そういえばいつもミカとポムって一緒に登校してるよね?」

「うーん、確かに。なんでだろう?…てか、さっきみたいにいきなり手でむがっ——」


いちいち細かいことを言う子には罰を与えよう。

それはそうと、俺と花の会話は聞こえていたらしく、ミカが自席から答えてくれた。


「あいつは今日撮影なんだよ。明日は来ると思う」

「撮影?…ああ、そういえば」


全然話題に出なかったから忘れていたけど、ポムはグラビアモデルをやっているんだったな。

平日に撮影ってこともあるのか。なんかカッコいいな。

今度裏話を聞かせてもらおう。

ついでにおっぱいも揉ませてもらいたいな。


そして最後に登校したのはアリスだ。

だけど、アリスは荷物を置いたらすぐどこかに行ってしまい、朝のHRが始まる寸前にまで戻ってこなかったので反応は聞けなかった。

でも、HR中に目があった時、びっくりしたように目を見開いていたので衝撃を与えることは出来たようだ。

  

まことは体調不良で休みらしい。

せっかく同じ髪の色になったから見せたかったのに残念だ。

女皇様もいつものようにいない。

中間テストは受けていたけど、やっぱり授業はこないんだな。

なんか寂しいな。


「——じゃあ、今日も一日頑張りましょう」



* * * *

「あ〜、お腹空いた〜」


昼休み。

花が菓子パンを頬張りながら喋る。

今日は聞き取れるな。


「行儀悪いよ」

「ポムだけじゃなくてミカちゃんまでそんなこと言うようになっちゃって〜」

「お行儀悪いですよ」

「アリスまで!」


相変わらず賑やかなことだ。

それはそうと、今日はポムがいないので椅子が足りている。

ミカが俺の上に座る必要もない。少し悲しいぜ。


「ところで体育祭、どの種目に出るか決めましたか?」

「え、何の話?」

「朝のHRで先生が言っていたアレですよ。『種目表を見て参加したいやつを決めてね』ってやつです」

「ん、ああ、それね。そうだなぁ、まだ決めてないなぁ…」


決めるもなにも、たった今聞いた話なのだから決まっているはずがない。

もう少し先生の話は聞くように心掛けるとしよう。


「わたしは玉入れと綱引き出ようかなーって思ってるよ」

「ミカは槍投げと走り高跳び」


え、なにそれ!?

前者と後者の差が激しすぎるが、後者に至ってはもはや陸上大会のそれじゃないか。


「2人ともいいですね。ワタクシは騎馬戦とか、台風の目とかに出ようかと思ってます」

「大風の目か〜。わたしアレ苦手なんだよね。毎回わたしだけ走るの遅くてみんなに迷惑かけちゃうの〜」

「確かにチームプレイは大変だよね。そーゆーの、ミカも苦手かも。だから槍投げとかがいいんだよね」


…やっぱりミカだけ陸上大会の世界に入り込んでいるんじゃないか?


そう疑問に思った俺は黒板横の掲示板にあるという種目表を見に行く。


……そこには確かに槍投げも走り高跳びもあった。それどころか、100メートル走とか走り幅跳びとかもあった。

やっぱりこの学校、どこかネジが外れてる。

その証拠に、わけの分からない種目が載っていた。


「あのさ、〝桜染の血闘さくらぞめのけっとう〟って何…?」

「ああ、それね」


俺の質問にミカが箸を止めて答えてくれた。


「この学校、むかーしは桜の名所だったらしいの。だけど戦の時代に入って多くの血が流れ、流れた血が大地に染み込み、それを吸い上げた桜がその花を赤く染めたっていう伝説があるんだよ」

「へー、面白いね。けど、それがどうやったら競技になるの?」

「じゃあ競技の説明をするね。競技は一対一で行われる。それぞれが全身真っ白のタイツを着て、好きな武器を選ぶ。もちろん殺傷能力は皆無の武器だよ。で、その武器はいろんな種類があるんだけど、全部衝撃が加わるとその部分に赤いインクが漏れだす仕組みになってるの。武器を相手にぶつけてそこにインクを付着させ、試合終了までの間に塗られた面積が少ない方が勝ちって競技なんだよ。

ほら、少し伝説に似てるでしょ? だからこの競技は〝桜染の血闘〟って言われてるの」

「そうなんだ…」


そこまでピンとくることもないが、言いたいことはわかる。

白いタイツを桜の花に、赤いインクを血に見立てているのだろう。 

もっとも、競技が伝説に似ているからそう呼ばれているのではなく、伝説にちなんだ競技を作った結果それが生まれたというのが正しい解釈ではありそうだ。


まあ、所以はともかく面白そうではあるな。


「なんかそれ楽しそうだね」

「興味があるんですか?」

「うん、結構あるかも」

「いいじゃん。出なよ〜」

「考えてみる」


桜染の血闘、か。

考えたやつは厨二病に違いないけど、内容自体面白そうだ。

体育祭に適しているかはさておき…。


よし、真面目に検討してみるか。

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