第25話 バージョンアップ!

「ただいまー!」

「「おかえり!!」」


今日はお母さんの帰ってくる日だ。

タクシーで帰ってきたお母さんを、俺と涼太は玄関を開けて出迎える。


松葉杖をそれなりに使いこなしている様子を見て少し安心した。

だが、お母さんは俺の姿を見るなり目を丸くした。


「………え?」


まあ、そうだろうな。

この前病院に行った時は今まで通りだったもんな。


お母さんは玄関から上がることなくその場で立ち尽くして言った。


「…髪、どうしたの?」

「これはね、せっかくだしお母さんを驚かそうと思って。どう?似合ってる?」

「…うん、似合ってるけど、随分といきなりね」

「少ししたら体育祭もあるし短くしておこうかなと思って」

「そっか」


俺は普段から独断で勝手に行動するタイプではない。だからこそ、お母さんは余計に動揺したのだろう。

いずれにしても、黒髪ロングだったのが銀髪ショートになっていたらそりゃあびっくりするか。

幸い、髪はどうにもならないレベルで切られていたわけじゃなかったので、ショートにすればそんなことをされたなんて微塵も感じない風にはなっている。

正直、美容師さんの腕もあって出来栄えにはかなり満足している。


「まあまあ、早く上がりなよ」

「そうね。改めて、ただいま」


お母さんはようやく家に上がり、多い荷物をリビングに置いてテーブルのもとに座った。


この家に俺と涼太以外の人間がいるのはいつぶりだろうか。

約2週間なのに、凄く長く感じる。


お母さんは一息つくと、正面に座った俺と涼太に頭を下げた。


「まず、心配させてごめんなさい。本当に、本当にごめんなさい」


謝罪の言葉を口にして顔を上げたお母さんの目には、今までに見たこともないほどの力が宿っていた。

「いいよ、お母さんのせいじゃないし」と言いかけた俺の口は、「うん」と小さく言うに留まった。


「じゃあ、改めて説明してくれる?」


俺がそう言うと、お母さんはしっかり頷いて語り出した。


「あの日は、シュンちゃんがお友達を迎えに行った後に町内会の人が来て、用事があるから来て欲しいって言われたから行ったの。そしたら結構めんどくさい問題が起きてて、話し合いをしてたら結構時間が経っちゃってたのよ。だから、ついでにと思って夕食に使う材料をスーパーで買って帰ってたら事故に遭ったの…」


実は、俺はこの話を病院に行った時にすでに聞いていた。だがその場に涼太はいなかったので、俺の認識の再確認と同時に涼太に聞かせる目的もあった。

しかし、これから尋ねる話はまだその答えを知らない。


「で、相手側との話はどうなってるの?」

「それはもう、完全にこっちの要求が通ってるわ。飲酒運転も確定してるし、ドライブレコーダーの映像でも100%向こうが悪いことが分かってるからね。いろいろ込みで慰謝料はたんまり貰えるわ」

「そっか。よかった」


涼太はいまいちピンときていない感じだが、俺としては一安心だ。

慰謝料の話は難航するというイメージがあったが、向こうがお母さん側の要求を呑んでいるなら問題はないだろう。

お母さんの心労が増えることもなさそうで良かった。


「じゃ、重々しいのも嫌だからこれでこの話は終わりね」

「分かったわ。ありがとう」


俺の提案にお母さんは苦笑気味に頷いた。


これで少しづつ今までの生活が戻ってくるのだと思うと、少し気が楽になってきた。

とはいえ、家事や料理など今のお母さんには満足にできないから、そこはもちろん俺がサポートする。

涼太も手伝うと意気込んでいるし、今までの日常を取り戻すのは案外近いかもしれない。


「じゃあ私は少し上にいるから、なんかあったら呼んで」

「はーい」


お母さんには早々に別れを告げ、俺は自室に向かう。

ベッドに横たわるなり、腕を組んで考える。


「ふぅ…」


さて、アイツらをどう始末してくれようか。


パッと思いついたのはアイツらの髪も俺と同じように切ってやろうということだが、これじゃあアイツら同じだ。それはいけない。

では警察に相談するというのはどうだろうか。

いや、これもあんまりやりたくない。

何度か警察とは電話をしたし、お母さんからも少しは警察とのやり取りを聞いたけど、結構面倒くさいのだ。当たり前だが形式ばっていて、時間も取られる。

そしてなにより、圧倒的に証拠が足りない。切られた髪の写真は撮ってあるが、それだけでは自作自演と疑われる可能性がある。


ならば、証拠を集めてから行動を起こすのはどうだろうか。

例えば、俺の方からアイツらが俺に再び悪さをするように仕向けてその証拠を集める。

それを武器にしてアイツらを脅すんだ。

次にまた悪さをしたらこれを学校側に見せるからな、と。


……いや、甘いな。

証拠を集めたらアイツらには何も言わずに学校に提出してやろう。

学校としてはネームバリューのためにも警察沙汰にはされたくないはずだ。

であれば、学校側は俺の要求をそれなりに呑んでくれるだろう。

例えば、アイツらの退学処分とか。

呑んでくれなかったら俺は警察に言うと騒げば良い。その時点では証拠も集まっているだろうし、逆に俺が名誉毀損で訴えられることもないはずだ。


あれ、我ながら結構良い案なんじゃないか?

もし知り合いに弁護士とかがいたらそこら辺の知恵は貸してくれるんだろうけど、残念ながらそんな知り合いはいない。

ネットで情報を調べても良いけど、この時代のネットは俺の時代のそれに比べてさらに情報量が多くて、情報の取捨選択が難しい。 


だからこそ、俺は俺の力でアイツらをぶっ潰す。

今の状況もあって、親には絶対に心配をかけたくない。話すのは全てが解決するその瞬間で良いだろう。


よし、明日からの俺は復讐とカッコ良さの為に生きるレベルアップした俺だということをアイツらに見せつけてやろう。

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