第24話 苛立ち
「なんで……なんで………」
帰り道、俺の頭にはその言葉だけが渦巻いていた。それにとどまらず、無意識のうちに口から漏れる始末だ。
電車に乗っていると、周りから「あの子の髪バサバサだけどどうしたんだろう?」みたいな視線が集まるが、そんなことはどうでもいい。
状況的に、俺が寝ている間に誰かが切ったとしか思えない。
まさかこれがポムの言っていた〝イタズラ〟なのか?
だとしたら流石に度が過ぎている。
もはや虐めじゃないか。
…女子校だとこのくらいは虐めの範疇に収まらないとか?
いやいや、ここは偏差値も結構高い進学校だぞ。そこまで治安が悪いはずもない。
だとすれば……
「あいつらか?」
電車に揺られながら頭の中に浮かんだのは2人の先輩の姿。
プールサイドの掃除の時にちょっかい出してきた2人だ。確か名前は笹木と水瀬だったか。
あの2人ならこんなことをしなくもない気がする。結構めんどくさそうな性格してたし。
だけど、そうすると彼女たちは俺をずっと狙っていたということか?
俺は部活がオフであるのを知らずに部室に行ってしまった。他の人はオフだってことを知っていたはずだ。
普通ならわざわざオフの日に部室になんてこない。
けど、確かに俺は部室で髪を切られた。
つまり、あの2人は部活に向かおうとする俺をどこかのタイミングで見かけて追いかけてきたんじゃないか?
「あいつ部活あるって勘違いしてんじゃね? そうだ、この前の仕返ししてやろう」みたいなノリで。
最初は予想程度にしか思っていなかったものが、考えるにつれて確信に変わっていく。
絶対にあの2人だ。
そう思うと、段々イライラしてきた。
俺が毎日時間をかけてケアしてきた髪をよくもこんな風にしてくれたな…!
電車の中だから大声は出せないが、家に帰ったら藁人形でも作って五寸釘を打ち付けながら絶叫してやりたい気分だ。
それに、明後日には予定より少し遅れてお母さんが帰ってくるのだ。
こんな髪を見せて心配させたくない。
………こうなったら方向性を変えるしかないか。
俺は大人っぽいイケメン美女を目指していたから髪もそれなりに伸ばしていたけど、こうなった以上、短くして本格的にボーイッシュな感じにしたほうがいいかもしれない。
それなら、せっかくだし髪も染めてみようかな。みんな染めてるし。
そうだなぁ、銀髪にしようかな。
まことと揃えたいからそうするわけではなく、単に銀髪は可愛いしカッコいいと思うからだ。
そんな風に考えていたら少しは気分がマシになってきた。
この際あいつらには感謝しよう。俺にイメチェンの機会を与えてくれてありがとう。
だけど、絶対に許さない。
学校に相談するのは勿論だが、なんなら最近お世話になっている警察の人に相談してやろうか。
何にせよ、この恨みは絶対晴らしてやるからな…!
頑張って退学に追い込んでやる。
多分俺は鬼のような形相をしているだろう。
そんな顔で俺は電車を降りた。
* * *
「お姉ちゃんおかえり! ……どうしたの?」
「ただいま。あはは、これはね、お姉ちゃん友達と喧嘩しちゃってこうなっちゃったんだよ」
「そう、なんだ…?」
若干無理のある説明かなと思ったけど涼太はギリギリ理解を示してくれた。
小さい子は素直でいいね。
「さあ、今日はお好み焼きを作ってあげよう」
「やったー!」
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