第23話 転換点
「あーーー!!終わったーーー!!!!」
中間テストを終え、後ろの花は背伸びをしながら唸る。
俺はテスト勉強をしなかった、というよりも時間がなくて出来なかったが、すでに前世で履修した範囲なので特に問題なく解くことができた。
とはいえ、疲労はもう限界だ。
俺も唸りたいはずなのに、もはや唸る元気もない。
「あれシュン、テスト終わったのに元気ないじゃん?」
「そうだよ、元気も活力もないんだよぉ…」
「そっか〜。じゃあ、これをあげよう」
花はそう言うとスクールバッグからエナジードリンクを取り出した。
あれ、レットプルじゃん。
見た目こそ変わっているけど、この時代にも生き残ってたのか。
自販機では見かけないからてっきり消え去ったのかと思っていたのに。
「いつも飲んでるんだ〜。2本あるから1本あげるよ〜」
「そ、そうだっんだ…。なんか意外かも」
「ふふ、実はカフェイン中毒者なんだ〜」
「気をつけてね…」
俺と目を合わせて話す花の目はガンギマっている。
ああ、可哀想に。
テストのためにエナドリ漬けで勉強していたに違いない。
「じゃ、私もこれ飲んで頑張ろうかな」
「うん!」
俺は貰ったエナドリを開け、一気に飲む。
普段こういうのは飲まないから一瞬抵抗があったが、すぐに慣れて一気飲みできた。
「——ぷはっ。よしっ、行ってくる!」
「行ってらっしゃ〜い」
文字通りエナジー補給完了だ。
何となく元気が出た気がする。
これでこの後の部活も頑張れる!
* * * *
………そう思ってた時が俺にもありました。
「あれ、誰もいない」
部室にはまだ誰もいなかった。
仕方ないので職員室に鍵を取りに行き、部室を開けてエアコンをつけた。
そう、ここの部室はエアコンが備わっているのだ。
流石は私立。尋常じゃなく素晴らしい環境が整備されている。
おかげで今日みたいに少し暑い日も快適に過ごせるというものだ。
そうやってエアコンをつけ、近くの長椅子に座ったのが間違いだった。
「あっ、やばいかも」
座った途端、今までの疲労がどっと湧いて出てきた。
おい、レットプル! お前の力はこんなもんじゃないだろう!!
「…くっ、もうだめ、だっ—」
アニメ風に独り言を呟きながら、俺は抵抗することを諦めて目を閉じる。
少しだけ、そう、少しだけ。
部活が始まるまでの間にちょっと寝よう。
* *
「あれ、みんないないじゃーん」
「ホントだ」
水泳部2年生の笹木と水瀬はシュンに遅れて部室にやってきた。
そして、ある違和感に気づく。
「…あのさ、もしかして今日部活ないんじゃない?」
「…え?」
水瀬に指摘された笹木は少し動揺しながらスマホのカレンダーを確認し、苦笑しながら答える。
「あっ、オフだわ今日。…ああ、そういえば今日は顧問がいないから部活ないって話だったじゃーん。何で早く気づかなかったの水瀬ぇ〜」
「あんただって気づいてなかったんだから同じでしょ。じゃ、さっさと帰ろうか」
「うん………ん? ねぇ、誰かいない?」
「え?」
2人は部室を後にしようとしたところで思い至る。
どうしてエアコンがついている? と。
そう思って2人が部屋をしっかり見回すと、部屋の片隅の椅子に横になる人影を見つけた。
「あれって………藤宮じゃん!?」
「本当だ! でも、なんで?」
「あ、分かった。アイツ先週から来てなかったじゃん? 今日の部活がない話されたの丁度先週だし、このこと知らなかったんだよ」
「グループチャットにも流れてなかったっけ?」
「1年生だし入ってないんじゃね。ほら、ウチら上級生から誘うことってまずないじゃん? 向こうから来ない限りさ」
「ああ、そういえばそうだった」
2人は色々考えながら椅子の上で横になっているシュンに近づく。
「…ねえ、良いこと思いついたんだけど」
シュンの寝顔を眺めつつ、笹木がニヤリと不敵に笑って部屋の一角を指差した。
「なに?…あ、そゆこと?」
「ふふ、そゆこと」
遅れて水瀬もソレに気がついた。
笹木が指差した先にあるのは道具箱。
セロハンテープやホチキスなど、事務作業に使える小道具が入っている箱である。
もちろん、その中には他の物も入っていた。
「じゃじゃーん」
笹木は道具箱から1つのハサミを取り出した。
「ウチさ、いつだったか聞こえたんだよね。藤宮、髪の手入れしっかりしてるんだってさ」
「確かに少し長い割にはサラサラしてるかも」
「でしょ。はは、手間暇かけて手入れしてたものが起きたら無くなってたら、どう思うかな〜?」
「はははっ、あんた最低〜」
「あははははっ」
水瀬の笑顔に見守られながら、笹木はシュンの髪の毛にハサミを向けた。
* * * * *
「———ん、んん」
…あれ、今何時だ?
随分と寝てしまっていた気がする。
でも、周りには誰もいないし、なんなら俺がきた時と何も変わっていないような気がする。
俺は困惑しながらも、横になったままポケットに入っていたスマホを手に取り時間を確認する。
どうやら1時間半も寝ていたらしい。
「あれ、みんな外にいるのかな? いやでもリュックとか1つもないし…」
……もしかして、今日はオフだったりするのか?
俺が休んでいる間にそーゆー話がされていたとしたら筋は通る。
俺はその手の情報を入手する連絡網をまだ手にしていないんだ。
うん、多分今日はオフなんだろう。
二度とこんなことにならないように情報連絡の手段を早急に考えないとな。
とりあえず、もうここにいる必要もないし帰るとするか。
そう思い、椅子から立ち上がった時だった。
俺が立ち上がると同時、パサッと何かが落ちる。
「ひゃっ! ……ん、んん?」
驚いたあまり変な声を出してしまう。
…何だ、これ?
…人の、髪?
「なんでこんなのが………え?」
おかしい。いつものように髪が背中に当たる感覚がない。
俺は焦りながら、後頭部から髪を前に持ってくるように手を動かす。
「…………は? は??」
一瞬、理解ができなかった。
それを認識していても、理解したくなかった。
一体誰が? 何で?
そんな疑問を抱いてもどうにもならない現実がそこには横たわっている。
俺の髪は切られていた。
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