第22話 火のないところに煙は立たぬ
「う〜〜〜」
疲れた。すっごく疲れた。
帰りのHRを終え、俺は腕を伸ばして机に突っ伏す。
ここまで1週間、何とか生活してきたが、だいぶ疲労が溜まっている。
当初の予定通りカレーやシチューなど数日食べられるものを作って乗り切ってきたが、最近は涼太が飽きたと言ってうるさい。
最近涼太は大人しかったから忘れていたけど、よく考えたらあいつはまだ小学2年生なのだ。
多少の駄々はあって当然。
俺としては、できる限りのことはしてあげたいと思っている。
…よし、今日は肉と野菜を炒めてみるか。
この前病院に行った時に骨折を除いて元気になっていたお母さんからお金はそれなりに貰ったので問題ない。
事故の調査についてもだいぶ進んでいるらしいが、警察には「細かいことはお母さんに聞いてね」と言われた。
俺に直接話してくれたっていいじゃんと思ったけど、向こうもわざわざ俺に報告するほどの暇じゃないんだろうな。
調査の一環でお母さんに話を聞くついでに、判明したことも伝えていたのだろう。
…警察って調査の話とかしていいのか?
当事者だしそういうこともあるのかな。
いや、難しいことを考えるのはやめよう。
そう思った時だ。
「おい、どうしたのだ?」
隣の黒フード黒サングラス黒マスクの変質者が同じく机に突っ伏しながら訊いてきた。
今週初めての登校だ。
「かくかくしかじかで——」
女皇様には話しても良いだろう。
というより、何となく誰かに話したかった。
「——ふむ、そんなことがあったのか」
ざっと説明を終えると、女皇様は少し悲しそうな雰囲気を出した。
顔はほとんど隠れているので表情からは読み取れない。
「…下僕第一号も頑張っているのだな」
「だからその言い方やめない?」
嫌だとばかりに女皇様はそっぽを向いてしまった。
それはそうと、人に話すと少しはスッキリするもんだな。
女皇様はこれでいて聞き役に徹してくれるし、案外いい話し相手かもしれない。
「てっきり胸の大きさを気にしているのかと思ったが、違ったようだな」
「だからそんなに小さくないって!」
やっぱり相手を間違えたかもしれない。
何はともあれ、後1週間。
頑張ろう。
* * * *
水泳部2年生、
ミルクティーやドーナツを食べながら語るのは学校生活での愚痴の数々。
日頃の鬱憤は溜め込まない方がいい。
2人はそう考えていた。
「マジさぁ、川田キモかったー」
「隣の席のやつだっけ? ずっと汗かいてるんでしょ?」
「そうそう! ほんとさぁ、まだ夏前だっていうのにデブは汗っかきだから臭くて臭くて」
「笹木だって香水の匂いプンプンさせてんじゃん」
「ウチはいいの、そもそも良い匂いでしょ?」
軽口を叩き合いつつも、愚痴の言い合いは終わらない。
「川田もそうなんだけどさぁ、アイツと仲良い…なんだっけ、村なんちゃらみたいな奴、アイツもウザイんだよなー」
「へぇ。というと?」
「アイツ、根暗で痩せ型でチビのくせに胸だけはあってさぁ、いつも肩回して『肩凝るなー』みたいな空気出してやがんの」
「ははっ、自分が貧乳だからって妬んでるだけじゃん!ウケル」
「うるさいなぁ、違うから。…宝の持ち腐れだとは思わない?」
「まあ、確かに陰キャが巨乳だとイラつくかも。けど、そーゆー陰キャって結構多くない?
顔も雰囲気も地味なのに胸だけは大きい奴」
「そう、ほんとそう! イラつくわ〜」
「やっぱ妬みじゃん」
違うもん!と頬を膨らませながらミルクティーを吸い上げる笹木の姿をぼんやりと眺めつつ、水瀬は思い出したように言った。
「そういえばさ、イラつくと言えば部活にもいたよね、1年生の」
「ああ、最近来てないアイツね? なんだっけ名前。……藤宮?」
「そうそう藤宮。1年の癖に部活全然来ないし、サボってんのかな」
「根性なさそうだったしそうなんじゃね。スタイルも顔も人当たりも良いけどさ、絶対自分のこと大好きで周りを見下してるタイプなんだよなぁ」
「ああ、分かる分かる。絶対猫被ってるよね」
「それなー。普通にウザかったから最近いなくて良かったわ。このまま辞めちゃえばいいのに」
「『私はみんなとは違うから』みたいな空気も感じたし、ほんと、もうずっと来なくて良いわー」
「わかるー。次来た時は詰めてやろうぜ」
「いいねいいね」
シュンの事情など知らない2人は彼女のことを言いたいように言う。
もっとも、事情を知っていたとしても2人は関係ないことだと切り捨てていたが。
「てかさ、ウチのクラスの———」
2人の
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