第14話 図書塔

入学してから早くも2週間。

そろそろ学校生活にも慣れて…くるわけがなかった。


「うわぁぁぁぁぁ」

「どうしたのシュン、足バタバタさせちゃって〜」

「か、身体がぁぁぁ…」

「あ〜、部活大変なんだっけ?」

「うん、まーじでキツイ。本当にキツイ」


水泳部、思っていた何倍も魔境だった。

大体3時間ほど部活の時間があるが、その間、ずーーーっとトレーニングなのだ。

ランニングから筋トレまで色々繰り返す。

身体はとうに筋肉痛で悲鳴を上げ、疲労感は常に全身を包んでいる。

正直ここまでとは思っていなかった。

くっ、強豪の力、舐めてたぜ…!


「でも今日はオフなんでしょ?」

「うん…」

「じゃあ図書館でも行ってみたらどうかな?」

「図書館?」

「うん。ここの図書館はすっごいからきっとリフレッシュできると思うんだ〜」

「そうなんだ、図書館ねぇ…」

「6時まで開いてるはずだし、のんびりできると思うよ。じゃ、わたしは部活に行ってきまーす」

「ばいばーい」


別れを告げる花に手を振り、俺もそろそろ行動しようかと考える。

ふむ、まだ3時半か。

確かに図書館でのんびりしてみるのは良いかもしれない。

ということで俺は教室に貼ってある地図を見て、図書館の位置を確認する。

なるほど、第一体育館の横の建物か。


「行ってみますかー」


自席に戻って荷物をまとめる。

いつメンの4人はみんなスクールバッグを使ってるけど、俺は頑としてリュック一択だ。

可愛さのスクールバッグよりも利便性のリュックである。


よし、準備完了。


「——ん、シュンどっか行くの?」

「図書館に行ってみようかと。ミカも一緒に来る?」

「あー、ミカはいいかな。活字読むの苦手なんだ」

「私が読み聞かせしてあげてもいいよ」

「周りに迷惑でしょ」

「くっ、そうかもっ…!」

「そうだよ!」


最近ガードが硬いなミカは。

仕方ない、1人で行くとしよう。


* * *


「お、おお…」


何事もなく俺は図書館にやってきた。

うーん、これは図書館というよりも図書塔とでも呼んだ方が良さそうな建物だな。

馬鹿でかい円錐型の建物である。

地面からしばらくは筒状、そこからしばらく上に進むと途中から少しづつとんがっていく感じだ。

体育館は2階建てだが、それよりも遥かに高い。4階建てくらいかな。

そう予想しながら中に入ってみる。


私立だからか、当たり前のように自動ドアが設置されている。この学校の大抵の建物はそうだ。驚かなくなってきた自分が怖い。

そして入り口すぐの壁に掛けてあった掲示板に貼られている館内図を見れば、5階まであることが分かった。

何をどうしたら5階まである図書館を作ろうと思うのか甚だ謎である。


「…あー、そーゆーことね」


疑問に思いながらもしばらく館内図を見ているとあることが分かってきた。

それぞれの階ごとに並んである本のジャンルが分かれているらしい。

1階は歴史書や伝記、参考書。

2階は絵本や児童文学。

こんな感じで階ごとに整理されている。

そして肝心の館内の構造だが、なかなかユニークだ。


やはり外観の通りに円の形をした構造。

その円の中心に螺旋階段があり、それが五階まで伸びているのだ。

上を向いたら天井、つまり上の階の床が見えるが、天井も高いため不思議と圧迫感はない。

本棚の並び方もシンプルだ。

円を思い浮かべた時、中心の点から円周上に向かって半径を描いてみる。その半径が本棚だ。

螺旋階段を中心にして半径を描くように本棚は綺麗に並んでいる。


「よし、四階に行ってみようかな」


案内によれば4階にはライトノベルや漫画が置いてあるらしい。

めちゃくちゃ行ってみたい。

よし、行こう。



そう思い、階段を登り始めて1分。


「はぁ、はぁ…」


めちゃくちゃ疲れますわ、これ。

自動ドアはいいからエレベーター設置しろよ!


そんな文句を頭の中で叫びつつも、なんとか4階までたどり着く。


「…ふぅ」


額の汗を拭いながら本棚の間を歩いて行き、目当ての本を探していく。

あいうえお順に本が並んでいるおかげで探すのは少し楽だ。

そうして探すこと数分。


「——あった!」


ライトノベル、『転生したらスライムだったヨ』だ。

前世で流行っていたラノベだが、俺はこの作品が完結する前に死んでしまった。

この前ネットでとっくにこの作品が完結していることを知ったので、機会があったら読みたいと思っていたのだ。

まあ、当たり前のことだよな。

俺が死んだ時には物語の終盤だったのだから、逆に30年も続いていたらびっくりだ。


「これと、これと、これと——」


俺は前世の記憶を探り、まだ読んでいない巻を片っ端から手に取る。おそらく、この5巻分で合っているだろう。

手だけでは持てず、腕に抱え込むようにして俺は『転生したらスライムだったヨ』を近くの机に運ぶ。


「よいしょ、っと」


まずい、勢いよく置きすぎてボンっと大きい音がなってしまった。

近くに座っている人に迷惑だったかもしれない。


「あ、ごめんなさ——あれ、まことじゃん」

「シュンちゃん! ? 珍しいね図書館にいるなんて」

「たまたまだよ」


珍しいこともあるもんだ。

そこには銀髪美少女こと六坂まことが座っていた。

彼女とはクラスでも最近ちょくちょく話す。

最近は好きなグミの話で盛り上がった。


「隣いい?」

「もちろんもちろん! おいでおいで」


ぽんぽんと隣の椅子を叩くまこと。

うん、可愛い。


「じゃ、お邪魔しまーす」

「いえいえー」


そうして俺はまことの隣で『転生したらスライムだったヨ』のページを捲り始めた。

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