第13話 プール掃除。やっぱり地獄。
さてさて、全員がプールサイドに集合し、プール掃除が始まった。
2年生、3年生の先輩たちは競泳水着、俺たち1年生はスクール水着に着替えての集合だ。
1年生の中にも何人か競泳水着の人がいるな。
経験者なのだろう。
そしてやはり、体操着の人は1人もいない。
いやぁ、眼福眼福。
「では全員で手分けしてプールサイドの清掃を始めるぞ! 手早く終わらせて解散としよう」
部長が大きい声で指示を出すと、各々が掃除用具入れに道具を取りに行く。俺はデッキブラシを手に取った。
頑張ろう、相棒。
俺は
あまり人の多くない所で掃除しよう。
それにしても……
「くっさぁ………」
マスクを持ってこなかったことを心から後悔する。プールサイドは思っていた以上に汚かったのだ。
緑の苔みたいな、海苔みたいなヌメヌメした気持ち悪い物体がこびりついているし、よく分からない謎の液体にも満ち溢れている。
極め付けはその悪臭だ。微かな塩素の匂いとヘドロのような匂いが混ざった最高に最悪な悪臭である。
更衣室が天国だとしたら今のここは地獄だ。
目には良いプール掃除も、体には良くないに違いない。
「…けほっ」
少ししか経ってないのに咳が出る始末。
こりゃあ確かに部長も「早く解散しよう」とか言いたくなるな。
「…ふぅ、ふぅ」
あまり深い呼吸はせず、浅くゆっくりとするように心掛けながらデッキブラシを床に擦り付ける。
あまりにも汚かった床だが、しっかり擦れば白いタイルが姿を表す。
衛生環境は絶望的だけど、この感じなら少しやり甲斐があって良いかもな。
そんな感じでモチベーションを保っていた時だった。
「君スタイルいいね〜、名前は?」
「ほんとほんと、脚長いの良いな〜」
2人の先輩が俺のところに来て話しかけてきた。
っておい! 俺がせっかく綺麗にした所を汚れた足で踏むんじゃない!!
「ありがとうございます」
微笑みながら答えるが、俺の目は笑っていない。
そもそも俺はこーゆー感じのギャルっぽい女子は苦手なんだ。
それに、俺がせっかく浄化した聖域に土足で入り込んだことを俺は許さない。
「藤宮春って言います。よろしくお願いします」
できる限り笑顔を繕ってそう言った。
だが…
「…あれ?」
先輩たちは無言で俺に背を向けて離れて行ってしまった。
3秒くらい前まで目の前にいたので距離はそこまで離れていない。
だから何を話しているのかは聞こえる。
「え、何あいつウザ」
「先輩たちのがスタイルいいですよって言うところだよね」
「それな。わざわざ話しかけに行ってやって損したわ〜」
「わかる〜。あーゆーのに限ってすぐ部活辞めるんだよね〜」
……え?
俺もしかして入部して早々に詰んだか?
褒められたからありがとうと言っただけなのに、それがダメだったと…?
女子の世界では謙遜するのが当たり前で、さらに相手を立てないといけなかったか…。
これは、しくったな。
もしかしたら部活内イジメに遭うかもしれない。
そんな不安に駆られていた時、俺の方にポンと右手が置かれる。
「気にするな。あの
「—! 部長…」
そこには先輩2人の背中を遠くに見つめる部長がいた。
なんて頼もしい!
「あいつらは実力こそあるが自分勝手でな。よく問題も起こしているんだ。まあ、通り魔に襲われたくらいに思っておいてくれ」
「は、はい。分かりました…」
通り魔に襲われるのは結構重症じゃないか?
なんて思っていたら、部長は俺の背中を軽く叩いてから去ってしまった。
彼女なりの元気付けなのかな。
「…はあ」
俺は再び黙々と清掃を開始する。
はあ。女子の世界ってめんどくさいな。
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