第12話 女子更衣室。それは天国。

ポムとミカの家は近い。歩いて5分で着く距離だ。

だから家から駅までの道も、駅から学校までの道もいつも一緒に登校している。


普段なら他愛もない雑談をしながら登校するが、今日は少し違った。


「…なんかさ、最近のシュンって距離感近いよね」

「確かにミカにはよく絡んでるかもね。もしかしたらミカみたいなタイプの子が好きなんじゃないの?」

「えっ…」

「はは、なに照れてんの。友達としてってことに決まってんじゃん」 

「照れてないしそんなの分かってるよ!」

「そりゃどうだか。まあ確かにシュンは結構女子校でモテるタイプの顔してるし、ちょっと照れるのは分かるけどね」

「そうなんだよ〜。…あんただから正直に言うけど、実は結構ドキドキするんだよね」

「この前の反応見てたら誰でも分かるわそんなの。それにけっこうMだもんねミカ」

「そーゆーの隠すために口数減らして冷静キャラやってるのに…」

「いくら冷静を装っても結構ポンコツなのは隠せないぜミカさんよぉ」

「いいでしょ別に!」


ぷくりと頬を膨らませるミカを横を、ポムは軽く笑い飛ばした。


* * * * * *


「ばいばーい」


帰りのHRホームルームが終わり、後ろの花に挨拶した俺はそそくさと教室を出た。

なんたって、今日はプール掃除なんだ!


2日間の仮入部を終え、水泳部の入部届を担任に渡した俺は正式に水泳部員となっていた。

仮入部は大変だった…。

ずっと筋トレだったけど、1日目の筋肉痛が2日目に治るはずもなく、激痛の中俺は頑張った。

そして正式に入部となる今日、さっそくの活動はプールの清掃だった。

プール開きはまだまだ先だけど、直前の清掃だけだと大変だから今のうちに一回清掃しておくらしい。

面倒くさいことこの上ないが、それでも俺は喜べる。

なんと、水着で掃除するという話なのだ!

つまりそれは数多の女子の水着姿を拝めるということ!

最高だ。


体操着でも構わないらしいけど、毎年誰一人として体操着で掃除する人はいないらしい。

体操服に汚れがつくと洗濯するのが大変だという理由らしいが、本当にそれだけか…?

これは匂うぜ。


「こんにちは」

「あら、早いわね。荷物はあそこにおいてね」

「分かりました」


校舎から少し離れたところにある水泳部の部室に着くと、1人の先輩が中にいた。

この学校にしては珍しい、黒い普通の髪、着崩さない制服、何も辺なものも着けていない、真面目なお嬢様って感じの人だ。

全然名前は分からん。

そんな先輩が指さすのは棚の端の方。一年生は隅に荷物を置けとのことらしい。

運動部ならではの厳しい上下関係は馴染みがあっていい。


屋内プールと部室は少し離れているので、移動には外を経由する必要がある。

だから部員は荷物は部室に置き、必要な物だけを持って移動するのだ。

ちょうど先輩も荷物の整理が済んだみたいで、向こうから「一緒に行こうか」と誘ってくれたので共に行く。


「えっと、お名前聞いてもいいですか?」

「ああ、自己紹介がまだだったわね。ここの部活はみんなで集まって歓迎会とか自己紹介とかしないから、生活の中で覚えてね。私は六坂日向ろくさかひなた。あなたは?」


ん、六坂…?

もしかして

 


「藤宮春です。よろしくお願いします。あの

もしかして、まことのお姉さんですか?」


水泳部の見学で知り合ったクラスメイト。

あれ以降も時々話す、銀髪の美少女の姉なんじゃないか?


「ん、クラスメイトなのかしら。そう、私はまことの姉よ」


どうやらビンゴのようだ。


「そうでしたか。奇遇ですね」

「そう、ね…」


別に辺なことを言ったつもりはないが、日向先輩の顔が少し曇った気がする。

もしかしてあんまり姉妹仲が良くないとかかな。

詮索はしないでおこう。触らぬ神に何とやらだ。



ちょっと気まずい感じで歩いていると、やがて見えてきたプールのある建物。

外見は体育館とほぼ変わらず、入り口もほとんど同じ造りだった。

入り口を抜けてそのまま一本道を正面に進むと屋内プールに着く。

その一本道の途中、左手にある扉が更衣室の扉だ。


日向先輩が開けてくれたのでペコリしてから先に更衣室に入った。


「おお…」


思わず声が漏れる。

中学の時の倉庫を改造したのかと疑問符が出るような粗末な更衣室ではなかった。

市民プールの更衣室のような、しっかりした設備がそこには広がっていた。

入り口の小ささからは想像できない広さだ。

床には吸水性の良さそうなタイルが敷き詰められ、アメリカの学校のロッカーのような大きいヤツがいくつも壁に並んでいる。

それも1つの壁に並んでるだけじゃなくて、部屋の中央にも背中を合わせてそれらは並んでいるのだ。

向き合うロッカーとロッカーの間にはプラスチック製の長椅子が置かれていて、本当に市民プールにでもやって来たのかと思ってしまうほどだ。


「凄いわよねここの更衣室。私も初めて見た時は感動したわ」

「しますよねコレは。びっくりしました」

「ふふ、分かる分かる。じゃあ、みんな来る前に着替えちゃおうか」

「みんな来ると都合悪いんですか?」

「…ちょっと恥ずかしいじゃない?」

「ああ、なるほど」


日向先輩は同性同士でも恥ずかしいのか。

中学の時から俺は少し胸が大きかったから、むしろ俺は周りに見せつけるようにして着替えていた。

小学校の時は全身を隠せるやつを上に着て着替えていたけど、中学ともなると着ない人がほとんだったし。


「じゃあ私はあっち向いてますね」

「ありがとう、気を遣わせちゃったかしら」

「いえいえ」


そう言い、日向先輩と反対のロッカーを使うようにする。

だが、まさか本当に先輩に背を向けて着替えるわけがないだろう。


俺は制服をゆっく〜り脱ぎ、先輩がワイシャツのボタンを外しきる瞬間を、カンニングするかの如く横目で待つ。

俺がゆっくりブレザーを脱ぎ、ゆっくり丁寧に畳んでいる間に先輩はワイシャツのボタンを下から外していき——


「—!?!?!?」


さ、さらしだと!?!?


一瞬声が出そうになったのを全力で抑え込み、何事もなかったかのようにロッカーを見つめながら俺もワイシャツのボタンを外し始める。

一瞬先輩がこちらを向いた気がする。もっと気をつけないと。


そう反省している間に先輩はさらしを解いていき———2つのスイカが現れた。

そう、スイカだ。

めちゃくちゃデカくて張りのある、丸い形の最高峰の胸だ。

さらしから解放された瞬間のプルンッて感じの揺れを拝めたのを幸運に思おう。

確かにあの大きさの胸はコンプレックスに思う人もいるだろうな。

だからさらしを巻いて大きさを誤魔化しているのだろう。本当に誤魔化しきれているのかは怪しいが。

もしかしたら中学のときにイジられて、それがトラウマになっているとかいう可能性もある。

うん、決して触れないでおこう。


「じゃあ先に行ってるわね」

「分かりまし…た……!」

「ん?」

「いやなんでも」

「そう」


先輩が声をかけてきたのを良いことに、俺は正面から先輩に向き合った。

そこには溢れんばかりの巨乳を封じ込む、競泳水着姿の先輩が立っていた。

破壊力が高すぎて一瞬固まってしまった。

これはエロい、エロすぎる。


…落ち着け俺。俺だってそれなりにエロいはずだぞ。


先輩は更衣室を出て行った。

俺はまだ競泳水着など買っていないのでスク水に着替える。

全身に張り付く生地の感覚に少し興奮する。

男の体では味わうことのなかった感覚だ。


そして俺は壁に掛かっていた鏡の前に立ち、

そこに映る自分の姿を眺める。


「……足りない。全然足りない…!!!」


それなりに胸はあるつもりだったが、スク水を着ると押さえ込まれてしまってそこまでのエロスが誕生しない。

そう考えると日向先輩はやはり異常だ。

俺はカッコよくなるだけじゃなくて、もっとエロくもならないとダメだな…。

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