第8話 部活動見学—3 —応援部—

水泳部ではその後も過酷そうな筋トレが続いた。

流石に飽きてきたので、タイミングを見計らって抜け出した。

筋トレにランニング、肺活量のトレーニングと多種多様な運動を行っていた水泳部だが、正直気に入った。

決してドMというわけじゃないが。

単に、鍛えた体が成長していくのを感じるのが好きなんだ。ランニングを始めた時も最初は2キロくらい走ったら息切れしていたけど、続けていくうちにどんどんその上限が上がっていって、それを体感出来たからこそ今でもハマっている節がある。

そんな感覚でこの部活でもやっていけると思うんだ。


とはいえ、他にも気になるものは見ておきたい。

というわけでやってきました体育館。

もう少し詳しく言うと、第三体育館だ。

第一から順に数字と共に体育館の規模は小さくなっていき、第一はバスケ部とかバレーボール部とかが、第二は体操部とかバトミントン部とかが、そして第三はチア部こと応援部が使っているという内訳だ。

そもそも三個も体育館があること自体よく分からないのに、第三と言っても小学校の体育館くらいの広さはあるのだからびっくりだ。

流石は私立といったところか。

ほんと良かった。施設費用免除の権利持ってて。


体育館シューズに履き替え、館内に入ったらすぐにそれが目に入った。

百人は超えているであろう群衆が。

「きゃー!可愛いーー!!」とか「なんちゃらセンパーイ!」とか色々聞こえてくる。

こりゃまたすごい人気だな。


ん、あれは花とアリスじゃないか。

人だかりの中、見覚えのあるピンク髪と金髪が見えた。


「やっほー。2人とも来てたんだ」

「あれシュンじゃん。水泳部は?」

「もう見てきたよ。十分見学したからこっちに来たんだけど、すごい人気だね」

「あ、もう見てきたんだ」

「応援部は学校の華ですからね。なにかと公の行事ではオープニングで踊ってますし、時々取材なんかが来るほどなんですよ」

「え、ここチアも強いんだ。自覚無かったけどもしかして部活ガチ勢な高校に入学しちゃったのかな…?」

「うーん、確かにガチな部活も多いけど、普通な部活も多いよ。例えば家庭科部も週2の活動だしね」

「部活による、か」

「そそ」


言われてみれば、確かに彼女たちのダンスは美しいと思う。

体育館のステージ上で踊る姿は人混みもあって鮮明には見えないけど、まったくズレがないのとか、キレッキレだったりするのとか、いろいろと凄い感じはする。


「シュンが来る前に部活の説明をしていましたが、今年は週6で活動するらしいですよ。今年こそは全国大会に出場するんだ!と意気込んでるみたいでしたし」

「あ、そうなの…」


週6かーー。

日曜以外の全部とか言うんだろうなぁ。

この点、水泳部は週4だからまだ優しい。

月、火、木、金の4日だ。

毎日体を酷使し続けると却ってトレーニングの効果が失われてしまうとの理念のもとだそうだが、俺もこの考えには賛成だった。

そう考えると、週6の活動はハードすぎるな。

トレーニングの内容が軽くても、やはりほぼ毎日部活というのはくるものがある。

別にちょっとした興味が湧いただけだし、入らなくてもいいかなー。


そんなことを考えている間も、チア部の人たちはダンスを続ける。

チアリーディング?チアダンス?

細かいことはよく分からないけどとりあえずダンスっぽい何かだ。

シュッとしつつもフリフリした衣装を着てポンポンを持って踊る姿は確かに可愛い。

俺もあんなのをやってみたいとは少し思う。

けど、完全な初心者だし、練習もハードとなるとすぐにやる気がなくなりそうだ。


うん、やっぱりやめだな。


「あれ、もう帰っちゃうの?」

「うん。やっぱいいかなって」

「えぇぇ! 絶対似合うのに!」

「ワタクシもそう思います」

「いいのいいの。もう決めたんだからー」

「そっかぁ〜。じゃあ無理は言わないけどさぁ〜」

「残念です…」


2人とも顔を暗くしちゃって。なんか悪いことした気分になるからやめてくれやい。


「ところでなんで2人はここにいたの?」


俺は体育館の出口に向かいながら、着いてきた2人に尋ねる。


「ああ、それはね」

「ワタクシたちはもう決め終えたので暇つぶしに見にきていたんですよ」

「ってことです〜」

「なるほどね。花は家庭科部って話だったけど、アリスは?」

「ワタクシは手芸部に決めました」

「へぇ、なんかイメージ通りかも」


〝アリス〟と言えば人形のイメージがある。

どうしてだろう?

なんかのゲームにアリスって名前の人形使いのキャラがいたような…?

ま、いいか。


「シュンは水泳部?」

「うん、他に気になるのもないし」

「へぇ〜〜」

「意味ありげに見つめてくるのやめてよね。そーゆーのじゃないから」

「やっぱりあの話気にしてるんじゃん〜!」

「違うから!」


ファミレスで聞いたイタズラの話か。

本当に違うのに。

……まあ、あの話が真実なのだとしたらその内容を突き止めてみたい気もするけど。


「じゃあここは不問としておいてあげよう。それはそうと、みんなで帰ろうよ」

「いいですね」

「いいよ」

「よし。んじゃ帰ろう〜」


放課後の部活動見学は〝◯時まで学校にいないといけない〟みたいなルールはない。

今は4時15分。

まだ夕方には時間がある。

帰りにあそこに寄って行こうかな。

ついでに行けるような感じの距離ではないけど。


俺はまだ明るい空をぼんやりと眺めながら帰路に着いた。

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