第7話 部活動見学—2 —水泳部—
アリスと分かれて校庭にやってきた俺は掲示板に貼られた部活動見学の場所の紙を見る。
水泳部は季節的にまだプールに入れないので、校庭で身体作りのトレーニングをしているようだ。
どうやら、今日は校庭の右上の方でトレーニングしているらしい。
とりあえず行ってみよう。
それにしてもデカい校庭だ。
小学校の校舎の1つや2つ簡単に入りそうな広さをしている。
そんな校庭の端を歩いて行き、おそらく水泳部員が集まっているのであろう所へ辿り着いた。
「君も見学?」
「はい、そうです」
「じゃああっちで待っててね」
体操着姿の先輩が指差す方向には、制服を着た生徒が10人くらい集まっていた。
見学組はあそこで待機ということか。
「分かりました」
先輩にぺこりとお辞儀をしてから、そちらに向かう。
すでに集まってる人の中でもグループが出来上がっていて、俺にはとても割り入ることの出来る雰囲気じゃなかった。
「はぁ…」
自分から積極的にいこうとは思うけど、既成のグループに入り込むのは流石にまだ出来ない。
花とかポムとかなら出来るんだろうなぁ。
そう思っていた時だった。
「……藤宮さん? あ、藤宮さんだ!」
「あ、えっと…」
左から声をかけられ、振り向くとそこには知らない生徒が立っていた。
いや、クラスメイトかも…?
「私は
「ごめん、まだ名前と顔覚えてなくて…。私は藤宮春。よろしくね」
「全然大丈夫だよ。私もあんまり覚えられてないけど、藤宮さんのことは覚えてたの! 美人だし趣味多いしすごいなーって思って!」
「ふふ。いろいろ好きなことあるからね。ありがとう」
六坂さん。良い人だな。ポムたち4人とはまた違う雰囲気の、落ち着いた感じの子だ。
背は俺と同じくらいで高く、腰まで伸びる程長い銀髪をお持ちだ。凛としたその顔も可憐である。
胸は…あんまりないかな。まあ、制服の上からだと相当大きくない限り分かりにくいんだけれども。
「その髪、めっちゃ綺麗だね」
「ほんと? えへへ、嬉しいなぁ。この前染めたばっかりなんだよね。高校デビューってやつ?」
「そうなんだ。私も今度染めるとしたら銀髪にしようかな」
「いいね、似合うと思うよ! おそろいだね」
ニコッと微笑みながら言ってくる六坂さん。
あれ、ちょっと不思議な気分になったぞ今。
惚れられる前に惚れちゃうかも!?
「あ、そろそろ始まりそう」
腕の裾をクイッと引っ張られ現実に引き戻される。
まずい、六坂さん可愛いぞ。
いやいや、今は部活見学に集中しないと。
視線の先、1人の先輩がパン!と一回大きく手を叩いた。部長だろうな。
短髪の、いかにも気の強そうな感じの人だ。
「そろそろ人も集まってきたし始めるとしよう。知っての通り、この時期はプールでの練習ができない。1学期の間はほとんどがトレーニングだ。今日もそう。これを見て、耐えられそうにないと思ったなら入部することはお勧めしないぞ」
ふむふむ。強豪校としては妥当なところだな。そこら辺は陸上部で慣れているから大丈夫だろう。
「見学はいつでも止めてくれて構わない。気軽に構えてくれていていいぞ。では、我々はいつも通りに部活をするので、各々好きに見てくれ」
話を終えて後ろに待機していた部員の方に戻った部長は、指示を出しながらトレーニングを開始した。
一連の様子を見て、六坂さんは何かを思ったのだろうか。
俺の方を無言で見つめてくる。
「怖そうな人だったね…」
「確かにそうかも。けどまあ、運動部の先輩ならあーゆー人も珍しくないんじゃないかな」
「そうなのかなぁ…。藤宮さんは運動部経験者なの?」
「うん。昔から陸上をやってて、中学でも陸上部やってたよ」
「へぇそうなんだー! 通りで体が引き締まってるわけだ」
「え、そんなの分かる?」
「うん! 制服でも、引き締まってる人は引き締まってるって感じがするもん」
「そうなんだ。なかなかユニークな観察眼だね」
「へへ、そうでしょ。…そうだ、せっかくだしシュンちゃんって呼んでいい?」
「じゃあ私もまことって呼んでいい?」
「うん! じゃあ決まりだね! 仲良くしようねシュンちゃん!」
「よろしく、まこと」
また1人友達を増やしてしまった…。
なんて罪深い女なのだろうか、俺は。
……いや、俺がチョロいだけなのか?そうなのか?
「…ねえ、あれ見てよ」
「ん?って、えぇ……」
まことがこの世のものではない物でも見るような目で前を見ているので何があるのかと思えば、そこには上体起こしをしている部員の姿が。それを仁王立ちして見下ろしている部長がカウントしているわけだが、聞こえてきたカウントは102、103と増えていく。
「あれ何回で終わるのかな?」
「200とかじゃん?」
「ひぇぇ、きつ〜〜」
確かにこれはきつそうだ。
これは前世との大きな違いの一つなのだが、筋トレの持続力が男と女では全然違うのだ。
男子であったからこそ分かるが、女子の身体ではそこまで強度の高い筋トレはできない。
したとしても、翌日には全身を痛みが襲う。
自宅での筋トレでは、上体起こしは50回を超えたあたりでキツくなってきたというのに。
「先輩たちめっちゃキツそうじゃん…」
まことの言う通りだ。カウントは120を超えるが、最早ピクリとも動かない人、一回に全力をかけてゆっくり身体を起こす人、涙目の人と散々だ。
可哀想だよ〜、と思っていたら、部長がカウントするのを止めた。
「…123。そんなので1学期が終わるまでに200回出来るようになるのか!? 死力を尽くせ! 全力でやれ!」
「「「「は、はいっ…!!」」」」
なるほど、このスパルタっぷりこそが強豪たる所以とみた。
正直、キツそうだけどやってみたいな。自分がどこまで行けるのか気になる。
こーゆーのを見ると、前世の魂が震えるんだ。
「そろそろ別のところいかない? 私これはキツすぎて無理かも…」
「いや、私は残るよ。もう少し、先輩たちの頑張りを見たい…!」
「あ、シュンちゃんそーゆータイプなんだ。意外と熱血なんだね」
「ふふふ、昔の血が騒ぐんだよ。さあ、私のことは置いていくんだ!」
「あはは。シュンちゃんって結構面白いね。じゃ、また会えたら。ばいばーい」
「ばいばーい」
正面に顔を向けたまま、別れを告げるまことに手を振って返す。
まことと部活見学に行きたい気もする。彼女なら付き合ってくれそうだし。
だけど、もう少し彼女たちの頑張りを見ていたい。俺は筋トレを頑張る人は大好きなんだ!
「がんばれ!」
クタクタの体でスクワットを始める部員を前に、小さい声で応援する。
気づいたら周りの見学者は片手で数えられるくらいに減っていた。
俺は、俺だけでも、あなたたちを見守っているぞ—!!
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