第1話 元男、女子校に入学
「うう、行ってらっしゃいシュンちゃん」
「泣かないでよお母さん。仕事なのは仕方ないんだから。じゃ、行ってきま〜す」
涙ぐむ母親の姿を尻目に俺は扉を閉める。
母親はどうしても外せない仕事のために来れないのだ。
そう、入学式に!
俺はこの時を待ちに待っていた。
女子校に入学するこの時を。
俺の家から2駅隣の市には進学校と言われるレベルの女子校があった。
だけどそこは私立で学費が高く、入学すれば決して余裕があるわけではない家計を圧迫することが目に見えていた。
だからこそ俺は小学校、中学校と前世の知識をフル活用して効率的に勉強し、中学一年の時から高校受験対策を始めていた。
その結果、返さなくていいタイプの奨学金を獲得してお得に私立女子校に入学することが叶ったのだ!
「ふふ、ふふふふ」
入学してからのことを考えると変な笑いが込み上げてくる。
だが、既に電車に乗っているのだ。
周りの人から変なやつだと思われないようにしないと。
「……」
いや〜、考えないようにしてても考えちゃうもんだな、高校のこと。
どうしてその女子校に入学したかったかと言えば理由は明確。
未知の体験をしたかったからだ!
よく「女子校は男子が考えているより闇が深い」なんて言われてるけど、実際に体験してみなきゃそれは分からないじゃないか。
元男として、女しかいない女子校は聖域そのものである。そこに足を踏み入れるともなれば、ワクワクしてくるのは仕方ない。
それに、俺は結構かっこいいんだ。
シュッとした輪郭。
167cmと女子にしては高身長。
昔から伸ばした前髪はセンターで分け、サイドはハーフアップに束ねる。
きっと女子校に行ったらモテるんだろうな、という期待を胸に秘めているのだ。
なにせ、前世で俺が好きだったカッコいい系女性配信者が「高校時代、私めちゃめちゃモテたんだよねー」と話していた。
俺も女子でありながら女子にモテるという体験がしてみたい!
そんなことを考えているうちに、気づいたら目的の駅だ。
駅から歩いて5分くらいの所に女子校はあるが、そのわずかな時間ですら周りに自分の存在をアピールすることを忘れない。
胸を張って堂々と振る舞うのだ。
可愛い子がいるかどうかも気になるところだけど、近くを歩いている女子の面々を見てみれば凄い子がいっぱいいた。
二度見するくらいの美人。すごく背の小さい子。たぷたぷ揺れる双丘の持ち主。
うん、最高だ。
「ふふ、楽しみだ」
校門を通り抜け、入学式の会場である体育館に向かう俺の口からは自然と言葉が漏れていた。
* * * * * * * *
「……ここか」
なにも面白くない入学式も終わり、俺は教室に向かう。
1年3組だ。
実は前世では一度も3組になったことがなかったので、何気に嬉しい。
教室に入ると黒板に座席表が貼ってある。
俺の名前——
ん、どうやら出席番号順に並んでわけではないらしい。その証拠に、端の列である俺の近くに阿部さんがいる。
では何順に並んでるんだろうか…?
…まあ、分からないことは放っておこう。
席に着いたら、椅子を引いて気だるそうに座る。
ダウナー系の方がモテると思ったからだ。
おっと、スカートの中が見えないように気をつけないと。
……むしろ見せつけた方がいいのか?
「ねえねえ、あなた名前は?」
ぼんやりしながら考えていると、後ろの席の人が肩をツンツンしてきた。
振り向くと、なかなか可愛い子がそこには座っていた。
校則が緩いとはいえ、髪をピンクに髪を染めていようとは驚いた。
「藤宮春だよ。よろしく」
「わたしは
「う、うん、いいよ」
「やったー!」
すごい勢いで迫ってくる花道さんに気圧されてしまったけど、可愛い子と友達になれるのは願ってもないことだ。
それにしても良い匂いのしそうな名前だな。
「あのさあのさ、今日の放課後何人かで遊びに行かない? 親睦会しよっ!」
「え? いいけど…」
「じゃあ決まりだね! 色んな人誘ってくる!」
そう言って花道さんは仲間探しに出かけてしまった。
いやいや、すごいな彼女。
俺だったら絶対初日からこんなムーブはできない。そもそも自己紹介すら始まってないんだぞ。
同姓しかいないというのもあるのかもしれないけど、行動する人は行動するもんなんだなぁ。
…待てよ?
軽はずみに親睦会の参加を決めちゃったけどこれは正解か?
もっとガードの硬い女を貫くべきかもな…
けど可愛い子たちと遊びたいし…
くっ、難しいなこれは。
「みんな座って〜。ホームルーム始めるよ〜」
そうこうしているうちに、担任の先生が教室に入ってくる。
物腰の柔らかい中年のベテランって感じの女性だ。
立ち話をしていた何人かが座席に戻り、全員が着席したところで再び教師は口を開く。
「さて、私がこのクラスの担任の
黒板に自分の名前を書きながら自己紹介をする。綺麗な字だ。国語の先生に違いない。
「担当は数学です。よろしくね〜」
数学な気もしてたんだよな。
「さっそくだけど、みんなワクワクしてるだろうし自己紹介始めようか。じゃあ名前の順で…阿部さんからいこうか」
こうして、唐突に自己紹介が始まるのだった。
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