元男子高校生、イケメン女子になる

餅わらび

第1章 1年生1学期編

プロローグ 目が覚めたら女子だった

「なあ、この後どうする?」

「駅前のゲーセン行こうぜ」

「おけまる」


男子高校生たるもの、放課後の遊びには全力を尽くさなければならない。

そんな持論を現在実行している男子高校生こそ、まさしく俺——鈴木ハンスだ。

名前は……俺がハーフだから変な感じになってる。


「けどよハンス、昨日もゲーセン行ってなかったか?」

「確かに行ったけど、クレーンゲームで欲しいやつが取れなくて。バイト代、口座から下ろしてきたから今日こそは取ってやるんだ」

「クレーンゲームは闇だぞ…」


そんなこと分かってるよ!

だけど俺はサメのぬいぐるみが欲しいんだ!


俺は後ろを歩く友人——佐藤の方に首を向けながら小走りに進む。


それが全ての原因だった。


「闇だろうがなんだろうがゲットするものはゲットするんだよ! 早く行こーぜ」

「—! ハンス待て!!!」


佐藤に叫ばれ、気づいた。

俺は赤信号を渡っていた。


「あっ—————」


気づいた時には遅かった。

身体が動かない。

全てがスローモーションに見える。

走行していた車が急ブレーキを踏む音が頭に響く。


キキィィィという甲高い音が聞こえたと思った直後、俺の身体は宙を舞った———。



* * * * * * * * * * * * *


「………」


ん、んん。

なんだろう、この感覚は。

長い眠りから覚めるような、ぼんやりとした感覚だ。


「…………」


あれ、俺はどうなってる?

確か佐藤とゲーセン行こうとして、車に撥ねられて……。

 

じゃあ鏡に映ってるこの幼女は?


「…………………」


壁にかけられた鏡に映るのは1人の少女。

その後ろに俺の姿があるわけでもない。

腕を動かそうと意識すれば、鏡に映る少女の腕は同じように動いた。


これはつまり、ソーユーことなのか!?


「…あ、あ〜〜〜」


声も出せる。体も動かせる。鏡に映る人間は少女以外に誰もいない。


なるほど。どうやら俺は死んで、女子に生まれ変わったらしい。

それも前世の記憶を持ったまま。


「…けどなんで?」


ふと漏れ出た声はやはり幼い少女のそれ。

聞き慣れた低い声じゃないことの違和感が途轍もないが、不思議と抵抗はない。

それよりも、なんでこのタイミングで俺の意識が覚醒したのかが気になるところだ。

なにせ、俺の感覚では車に轢かれてからそれほどの時間が経ったようには感じていない。

昼寝して目を覚ましたくらいの感覚だ。

少し考察してみよう。


まずは少女の体を俺が乗っ取った説。

魂とかオカルト的なことは信じてなかったけど、実際にこうなってみると信じざるを得ない。

とすると、死んで俺の体から抜け出た魂が少女の体を乗っ取ったとは考えられないだろうか…?

年齢は…4歳くらいかな。4歳の少女に魂が乗り移って、そのタイミングで俺の魂が少女の体の中で目覚めた。もともとあったはずの少女の魂はどこかに行ったのかな…。

科学的根拠もクソもないけど、これならギリギリ理解できる。


もう一つは、もともと少女に生まれ変わっていた可能性だ。

輪廻転生的な概念に基づき、俺は死んで女子となった。けど赤ちゃんの時はまだ意識が不安定で俺の前世の記憶が覚醒せず、それなりに成長してきたこのタイミングでふと覚醒したという可能性。

こっちのがありそうな感じがするな。


考えられるのはこのくらいかな。

何はともあれ、俺は生まれ変わったのだ。それも女子として。

前世に思い残すことがないことはない…いや、思い残すことしかないが、なってしまったものは仕方ない。

いつか家族の元に出向いてみたら驚くかな?


俺はこの体で、女子として、精一杯生きていこう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る