16 中秋の名月

空に浮かぶ円、手に届かない夢の残像

いつからそこにいたのか誰も知らない

ただ、いつもその夜には、ひんやりとした風が吹く


群青の海に揺れる銀の波紋

言葉にならない何かが胸に降りてくる

影と光の境目、曖昧なその場所に

人々は足を踏み入れたがる


街の灯りも、誰かの声も

すべてが遠くに霞んでいくその瞬間

そこにいるのはただ、私と月だけ

静寂に包まれた宇宙の端に立つような感覚

それが夢か現か、誰も知ることはできない


ひとつの問いが浮かぶ

あの光は、誰かの思い出なのか

それとも、まだ見ぬ未来への合図なのか

答えを求めて、目を凝らすが

月はただ黙って、何も教えてくれない


そして雲がその姿を隠し、

今度は私が月を追いかける番だ

どこに行けばいいのかもわからないまま

道なき道を歩み続ける

その行き先は、もう誰にも知られていない


名月は遠く、そして近く

手のひらで感じるその冷たさは、

見えない何かに触れているような感覚

けれど、掴もうとするたびに

すり抜けていく幻


私はただ、静かにその姿を見つめる

中秋の夜の長い旅路の果てに

答えのない問いだけが残る

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