13 きさらぎ駅状化現象

**きさらぎ駅状化現象**


止まらぬ時計の針が

静かな歪みを刻む、夜更けの風に乗せて

聞こえるのは誰かの息遣い、空虚な電車の中で


駅名板は文字を忘れ、ただの記号となり

乗り込む者たちの顔は、霧に包まれ、形を失う

「次は、どこ?」と尋ねる声は、

答えぬ運転手の背に吸い込まれるだけ


消えた景色は、戻らない

夜はやけに深く、

車窓を覗くとそこには何もない

見慣れた風景がじわりじわりと溶けていき

奇妙な街並みが入り込んでくる


「行き先は?」

誰も知らない。

時計はもう動かない。

鼓動だけが、静かに響く。

心臓の音なのか、

それとも、異界の脈動なのか


電車は滑るように走り続ける

戻れぬ道を選んだ旅人たちのために

永遠に同じ駅を過ぎては戻り、

きさらぎ駅、次はきさらぎ駅

終わりのないループ、降りることもできぬまま


誰かが囁く、

「ここは始まりなのか、終わりなのか」

声は風に消され、答えはすでに存在しない

目を閉じても、夢ではないことを知る

目を開ければ、影が揺れる


曖昧な形、曖昧な駅、曖昧な時間

足元には線路が無く、進む先も後ろも曖昧

それでも電車は進む、いつまでも


気づけば、誰もいない車内

ただひとつの影が、座席に残るだけ

その影も、いつしか消え去る

きさらぎ駅、何もない場所、ただの記憶

誰も辿り着けぬ、曖昧な終着点


止まらぬ時計の針が、

永遠に進む世界の中で

消えた時が、どこかで始まる

どこかで終わる

それでも、答えは見つからない

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