第40話 決戦

二度目のダンジョン崩壊が起こった日、アキラとマリは箱根の上空にいた。


箱根までのダンジョンは既に消していた。伊東から約千匹、沼津から約三千から四千、富士市から約二千の魔物が東京へ移動していた。飛行隊員の一人が報告に新東京に戻った。


さらに西へ飛び、静岡近く約二万匹の魔物を確認。飛行隊員の一人に報告させるため新東京に戻らせた。


浜松湖の手前で約八万を確認。おそらく名古屋の魔物だろう。既に新東京では戦闘が開始されているはずだ。さらに八万もの魔物が襲ってきては都市防衛もさすがに辛いかもしれない。浜松湖で魔物をできるだけ減らすことにした。


魔物は泳げないことが分っている。水中では沈んでしまい、海底を走っていく。もし断崖絶壁があり登れずにいると、海底で二週間経過し消滅する。だから湖や海では有利になることがある。


鳥の魔物は飛んで超えるので海、湖は関係ない。ハト、カラス、スズメに似た鳥の魔物が二千羽ほど先行してやってきた。どれも人間より大きい。中にはケルベロスみたいな複数の魔物が合体した魔物もいる。


浜松湖の上空でアキラとマリは待機していた。


「マリ、サンダーで一気にケリをつけよう」

「わかったわ」

「神をも恐れぬ、は無しでお願いします」

「ええ、そんなー!ねえ、後生だからやらせて、ねえ」


マリが、上目使いで、瞼をパチパチさて懇願してきた。


「それには弱いんだよなー。ああ、仕方ない。さっさとやってね」

「んふ、ありがとう、アキラ」


「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!サンダー!」

「サンダー!」


マリに合わせて、アキラも「サンダー」を撃った。

広範囲の雷が鳥全体に降り注ぎ、千羽の鳥がすべて湖に落ちた。


「もう一度!」

「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!サンダー!」

「サンダー!」


さらに、水に濡れた鳥の魔物は雷の多重攻撃を受けて、消えるか沈んでいった。

これで千羽!



続いて第二波の鳥たちがやってきた。約三千羽。


「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!サンダー!」

「サンダー!」


さらに同じ攻撃を二回をした。


二十羽ほど生きていた。


「ウインドシールドと再生持ちだね」

「ちょっとは知恵が廻るのね」


「ライトを使うよ」

「ええ、わかったわ」


二人は鳥の魔物が近寄るのを待って、ライトを連発し、さらに奥に進んで、同じくライトを連発した。


鳥の魔物は目がくらみ、墜落していった。湖に落ちた鳥の魔物は、バタバタと羽を動かすが、余計に水に濡れて、やがて沈んでいった。


「やっぱり鳥の魔物は浮遊魔法は使えないか」

「羽で飛べるのに、浮遊なんて必要ないと思うわよ」

「確かに、そうだね」


第二波約千羽を撃破!



魔物の本隊がやってきた。

そして真っすぐ浜松湖に突っ込んできた。


「私たちが餌みたいに見えるんでしょうね」

「だね」


そう、魔物にとってアキラとマリは見過ごせないものだった。


魔物の大群は、次から次に湖に吸い込まれていった。

約八万もの大群は全部湖の中からアキラたちを睨んでいた。


「まとめて、サンダーとメテオでやっちゃおうか。サンダーをお願い」

「ふふ、まかせなさい!」


「メテオ!」

「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!サンダー!」


メテオによって、湖表面近くの魔物は水蒸気爆発で打ち上げられ、サンダーで感電し焼かれ、さらにメテオで焼かれた。


「うーん、一割くらいやっつけたかな?」

「でも、湖の下に沈んでるやつには、届かないわね」


「なら、湖から出てくるところを狙おうか」

「そうしましょう」


湖から少し離れたところの上空で待機した。


ぞろぞろと魔物が湖から上がってきて、迫ってきた。


「それでは、マリ、サンダーをお願い。オレはメテオを撃つから」

「わかったわ」


「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!サンダー!」

「メテオ!」


水に濡れた魔物は、連鎖的に雷に襲われ感電し、メテオで焼かれていった。


ほとんどの魔物が焼かれたが、倒れている魔物は水から上がった魔物に踏みつぶされ、消えていった。


「ねえ、今度は私にメテオをやらせて。お・ね・が・い」

「はい、はい、どうぞお好きなように」


「サンダー」

「すべてを焼き尽くす神の業火に、その身を焼かれるがよい!メテオ!」


これを二十回繰り返したところで、ほぼ魔物は消えてなくなってしまった。


「百匹ほど残ってるけど、ウィンドシールド持ちか、再生持ちみたいだね」

「攻撃を続ければ、いずれは削り切れるけど、でも…」


「あと百回、二百回?面倒で時間がかかりそうだね。」

「ええ、魔法部隊でやっつけた方がよいと思うわ。帰りましょう」


「うん、その前に大阪の魔物がどうなってるか、見るだけ見たい」

「仕方ないわね。いいわよ」


二人は四日市へ向かった。魔物は見えず、四日市から伊賀に向かったところで魔物の集団を見た。


「十万はいると思ったけど、二万くらいかな?」

「大阪からだと人の気配が分からくて、四方八方に分かれてるのかもよ」


マリの予想は的中していた。関西から西の魔物、仙台から北の魔物は人間を探してウロウロするばかりだった。


「よし、そういう事にして、急いで帰ろう!」

「日没までには帰りたいなあ」

「うん、最速で帰ろう」


アキラとマリが新東京に着いたのは、日が沈む頃だった。


新東京は、高さ五十メートルの巨大な壁で周囲を覆われている。魔物の侵入を防ぐため四年前から建設が始められ、最近全部が完成した。土魔法によって簡単に壁を造ることができたが、大量の魔石が必要なため建設に時間がかかったのだ。


魔女三万人、超人三万人の魔法部隊、直接戦闘には加わらないが、五十万人の魔法または身体強化が使える市民がサポートとして参加していた。


近郊の魔物の第一波五万、第二波五万、第三波十万を撃破し、第四波十五万と戦闘中だった。討伐は順調そうに見えたので、アキラとマリは司令部に直行した。


「ただいまもどりました」


田所が安堵して二人を迎えた。

「心配はないと思っていたけど、無事でなりよりだ」


「名古屋方面の八万を撃破してきました」

「おお、それは凄い。こちらもその分楽になる。ありがとう」

田所、アキラ、マリは笑顔で握手をした。


「新東京の方は大丈夫でした?」

「怪我人は出ているが、死者は出ていない。」


「ああ、よかった!」

「鳥の魔物が壁を越えて侵入してきたが、大した被害もなく討伐できた」


「光線を撃ってくる魔物はいなかったですか?」

「幸いなことにいなかった。おかげで壁も破られてはいない。今の戦いが終われば、一息つけると思う」

「やっぱり、あれは特殊だったんだ。本当によかった」


アキラとマリは、部屋に戻って、シャワーを浴び、着替えて、食事をしてから、また司令部に向かった。


朝比奈が二人のもとに、走ってやってきた。

「北門に行って下さい。やっかいな魔物がいて苦戦しているとの事です」


二人は顔を見合わせ、うなずいた。

「わかりました」


魔石を補充し、すぐに北門に飛んでいった。


大量の魔物が壁にぶつかって来ていた。その中に、ひと際大きい魔物がいて猛威を振るっていた。体長は二十メートル。熊の体に、熊の頭、大きな角が生えた鹿の頭、鳥の頭の魔物だった。


「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!サンダーボルト!」

マリがいきなり雷魔法を放った。


「あっ、救世主様、よけいなことを!」「退避!」

誰かが叫んだ。


「えっ?」「「えっ?何?」

アキラとマリは素っ頓狂な声を出したが、周りの魔女たちに引っ張られて上空に連れていかれた。


サンダーボルトが命中したと思った瞬間、鹿の角に吸い取られ、角からこちらに向かって雷が放たれた。


「雷無効の魔物か!」

「はい、そうであります」


アキラもマリも渋い顔をした。魔物殲滅の二大魔法 炎と雷、そのひとつが無効化されるのは痛かった。どうりで周囲の魔物の数も多かったわけだ。


「炎は効くのか?」

「残念ながら、今残っているのは、ウィンドシールド持ちで、あまり効果がありません」


「くそ!面倒だな」

「はい、それで大変苦戦しています」


しばらく沈黙が続いたとき、マリがポンと手を打った。


「ねえ、凍らせるのは、どう?動きを止めればウィンドシールドの魔石を破壊できるんじゃない?」

「マリ、今日は冴えてるね!」


ふふん、どうよ、と言わんばかりに、マリは鼻高々に胸を張った。


氷魔法は魔物討伐では使われていなかった。炎と雷が強力で便利すぎたからだ。だから、主に冷凍保存に使われていた。今回の討伐でも氷魔法の魔石はほとんど用意していなかった。


「よし、みんなを集めてくれ。どの小隊がどの魔物を担当する決めておいてくれ。ボスはオレとマリアがやる」


すぐに連絡係の魔女隊が散らばった。


しばらくして北門担当の全部隊が集合した。


「今から、水と氷魔法で魔物を凍らせる。素早くウィンドシールドを中和してウィンドシールドの魔石を破壊、上空に退避。合図とともにメテオをありったけ、ぶつけろ!」


「おう!」「いくぞ!」「救世主様とともに」「隊長とともに」と声があがった。中には「アキラ様とともに!」という声も聞こえた。


マリが声がした方を睨みつけた。

「そこ!お静かに!」


一瞬で辺りが静まり返った。


「ほほほ、では、まいりましょう。ア・キ・ラ」


うわー、みんなドン引きしてる。士気が下がらないといいんだけど、とアキラは思った。


上空に到達して、まずアキラは最大レインを発動させた。


「レイン」


「この世を恐怖に貶める邪悪なるものよ。氷の女王スカジの裁きを受けよ!ヘルアイス!」


マリが、中二病全開で詠唱した。

完全に吹っ切れてるな。もう、どうでもいいか、とアキラはため息をついた。


魔物たちが凍って、動かなくなった。

全部隊が一斉に魔物に突撃した。

アキラとマリもボス魔物に突撃した。


アキラとマリが二人がかりでやれば、ウィンドシールドは一瞬で中和された。アキラが鳥の頭ごと魔石を破壊し、上空に浮遊した。しばらくして、全隊員が上空にやってきた。


アキラが手を大きく掲げ「メテオ」と叫ぶと、「メテオ」「メテオ」「メテオ」と呼応し、大量の巨大ファイアボールが流星のごとく降ってきた。


「すべてを焼き尽くす神の業火に、その身を焼かれるがよい!メテオ!」

ひと呼吸遅れて、マリのメテオも炸裂した。


ほとんどの魔物が光となって消えた。残るは数十匹の瀕死の魔物と、全身がボロボロになったボス魔物だけだった。


「マリ、鹿頭に突っ込むよ」

「わかったわ」


ボス魔物は、ゆっくりと起き上がり、鹿頭から雷の魔法陣が現れた。


「させるか!」

アキラたちが猛スピードで、鹿頭に激突し、頭ごと魔石を破壊した。


ボス魔物は、体を大きくのけ反らせ、地面に倒れた。


そこに、すかさずアキラは、攻撃を加えた。


「サンダーボルト!」


続いてマリも詠唱した。

「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!サンダーボルト!」


巨大な稲妻が二つ、魔物に落ち、燃え上がった。


「やったか?」

「まだね」


その時魔物が光って、熊の魔物に変身した。


アキラはマリを放り投げた。そしてウィンドシールドを展開して、魔物に体当たりをした。


「キャッ、何!アキラ!」

「今度こそ、終わりだ!」


アキラの拳が熊の体を突き破った。グォー、熊は一鳴きして倒れ、光となって消えていった。


アキラはみんなに手を振った。


「うぉー、やったー!」「隊長ばんざーい」「アキラ様、すてき!」「隊長、すてき!」

歓声が沸きあがた。


マリが飛んできて、アキラを睨んだ。

「ア・キ・ラ」


アキラは、笑顔でマリを見た。

「たまには、肉弾戦をやってもいいでしょ?」


マリはアキラの両頬を思いっきり、つねった。

「無茶したらダメって、いつも言ってるでしょ」


アキラは目をそらした。

「ご、ごめんなさい」


上空へ飛行していき、辺りを見廻した。戦闘はほとんど終わったようだった。


「帰りましょう、アキラ」

「そうだね。じゃあ、みんな後のことは任せたから」


「はっ、わかりました。隊長、救世主様、ありがとうございました」

隊員たちは敬礼した。


アキラとマリは司令部に向かった。


最後は楽しかったなあ、アキラはのんきに喜んでいた。

アキラの人気が上がってる、これからもっと気を付けないと、マリは内心気が気でなかった。



司令部では田所が待っていた。


「ごくろうさま。どうやら片付いたようだね」

「はい」

「これも全部君たちのおかげだ。改めて感謝する」


田所が頭を大きく下げて礼をした。


「やめて下さい。まだ残ってるんですから、気が早いですよ」

「はは、そうだったね。」


翌日の明け方、西から三万、北から八万の魔物が襲来したが、それも午前中に殲滅された。その後は百から二百くらいの魔物が時々現れたが、即討伐された。そして二週間が過ぎた。魔物は完全に姿を消した。

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