第39話 ダンジョン攻略
魔法部隊の最初の任務は、関東一円のダンジョンの捜索と攻略だった。
ダンジョンは三か月で深い層ができる。新しいダンジョンが生まれてから三年がたっているので、最深部七層まで完成していることになる。
第二層目は3部屋があり、第三層目は3x3の9部屋、最深部の第七層目では、何と2187個の部屋があり、その内の一部屋にダンジョン・コアがある。どの部屋にダンジョン・コアがあるかはランダムで、通常はしらみつぶしに探すしかない。大変な労力と時間が必要になる。
しかしアキラだけは、ダンジョン・コアと親和性があるのか、魔力操作・魔力探知で場所を探すことが簡単にできた。
アキラが三歳になった時、魔法部隊による初めてのダンジョン攻略が行われた。
魔法部隊は、魔女五名、超人五名の計十名を一班とし、三班で一個小隊となって行動した。
今回はアキラ、マリ、一個小隊が先行部隊として、突入し討伐制圧。続いて小隊が突入し部屋の安全を確保していくという流れだった。
第一層目は、ネズミ六匹だった。第一班に任せたが、超人たちがあっけなく倒した。
アキラは魔力操作を行いダンジョン・コアの位置を探った。そして第二層目に進んだ。
第二層目もネズミだった。十二匹いて、大きさが通常のネズミの倍あり、力も素早さも倍だった。第二班の超人たちが相手をしたが、圧勝した。
ここまで、女の子たちは「きゃー!」「いやー!」「来ないでー!」と散々泣きわめいていた。だからネズミの相手は男の子たちに任せていた。
マリが、呆れたという顔をしていた。
「もう、わめかないで落ち着きなさい!はしたないわよ」
ええ、マリがそれを言う?とアキラはじっと抗議する目でマリを見た。
「な、何よ!私も成長してるのよ」
マリは、アキラの言いたいことに、気がついて目をそらした。
「母は強し」というのを、初めて理解したアキラだった。
第三層目に進んだ。またもネズミだった。三十六匹で大きさは四倍くらいになっていた。第三班の超人たちに任せたが、さすがに数が多く、一人がネズミに噛まれて怪我をした。
マリが号令した。
「第一、第二班も攻撃開始。各自ウインドシールドを展開。怪我をした人は下がって」
ここまでは、ほぼ予想通りだった。そして第四層目から困難さが、急にあがると言われている。ダンジョン討伐隊も通常は第三層までしか潜らなかったそうだ。
「次はからは全員でかかります。入ったら私の周りに集まって下さい。広範囲ウインドシールドを展開、魔物を観察します」
マリが号令し、みな第四層に突入した。
マリがすぐに広範囲ウインドシールドを展開した。
「ミャー」「ミャー」「ニャオーン」と猫の声が聞こえた。
「ゴロゴロ」と喉をならしながら、猫が甘えた振りをして近づいてきた。
「あー、このパターンか」とアキラは、この先の展開が読めたと思った。
しかし、女の子は「きゃー!」と悲鳴をあげた。マリも「きゃー」と悲鳴をあげた。
猫は猫でも、四倍の大きさがあり、しかも真っ赤な目が怪しく光って、涎をたらしていた。全然かわいくなかった。むしろ恐ろしく感じた。
もの凄い数の猫の魔物が一斉に飛びかかってきた。ウインドシールドにバンバン激突しては、一度後退し、再び激突した。
魔物がぶつかってくる度に、「きゃー」という悲鳴が起こった。
アキラは、マリの袖を引っ張て「サ・ン・ダー」と言った。
マリは、ハッとして、大きな声を上げた。
「魔女は、雷魔法を撃つ準備を!合図とともに一斉に攻撃します」
「はい!」魔女たちが答えた。
「では、いきます。三・二・一・撃て!」
「サンダー!」「サンダー!」と詠唱が聞こえ、雷が落ちた。
だが、同時に「神をも恐れぬ不届き者よ!」という声が響き、みんな「えっ?」「えっ?」とマリを見た。
マリも「えっ?」と言う顔をして、周りを見回し、赤面した。
猫の魔物は雷で一掃された。魔石六十個が落ちていた。
マリは、拍手でごまかした。
「みなさん、よくできました」
二十三にもなって、まだ中二病全開か、とアキラは呆れた。
他の者は、どう対応したらいいのか分からず、弱く拍手だけしていた。
第五層目は、犬の魔物だった。柴犬に似ていたが、大きさが五倍くらいあり、本当に怪物と言ってよかった。
広範囲ウインドシールドにドン、ドン、物凄い音を立てて、ぶつかってきた。シールドが持つかな?とちょっと不安になったが、さすがマリのシールドは頑丈だった。
「雷魔法で一掃します。各自攻撃してください」
マリが号令をかけた。
「サンダー」「サンダー」「サンダー」と詠唱が聞こえ、あちらこちらで雷が落ちた。
マリが、とても小さな声で早口で詠唱した。
「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!」
そして、大きな声で「サンダー!」と唱えた。
アキラは憐れむような眼でマリを見つめた。
「だって、久しぶりなのよ!やりたくもなるでしょ!」
マリが小さくつぶやき、アキラはため息をついた。
犬の魔石は五十個だった。
第六層は猫とネズミの魔物だった。猫はもう豹と言っていい大きさで、ネズミは人間ほどの大きさだった。
例のごとく、マリの広範囲ウインドシールドの中から「サンダー」を放って仕留めた。ただ猫の魔物は、すばしっこく雷を避けるので、一発で仕留めるのは無理だった。思ったより、時間がかかった。魔石は百個だった。
第五層目、第六層はマリの広範囲ウインドシールドがないと、安心して討伐できないと、アキラは思った。
そして、超人たちが手持ち無沙汰で、つまらなさそうな顔をしていることが気になった。終末の獣との戦いで、魔女と超人のペアが絶対に必要だったと考えていたので、アキラは、今後はペアでの訓練が必要だと思った。
マリが号令をかけた。
「次がラストです。魔女と超人でペアを組んで戦います。準備してください」
お!オレと同じことを考えていたのか!ナイス!とアキラは、親指を立ててグッドポーズをした。
マリも、親指を立てて、グッドポーズを返して笑った。
最終層第七層目に突入した。
マリが広範囲ウインドシールドを展開した。中央にダンジョン・コアが浮いていて、その横に魔物が一匹だけいた。
像ほどの大きさがある、三つ首の犬の魔物。まさしく神話のケルベロスだった。ゆったりと起き上がり、こちらを睨むと、グワォーと咆哮した。その威圧感にアキラとマリ以外は足がすくんだ。
そして真ん中の首の額から魔法陣が現れた。炎の魔法陣ファイアだった。ファイアはウインドシールドで防いだが、灼熱の熱さが伝わってきた。腰を抜かして、しゃがんでしまう者もいた。
マリが号令した。
「魔女はウインドシールドを展開、超人とペアになって散開」
「二班、三班は脚を攻撃!一班は中央の首の魔石を攻撃!」
マリが的確な指示を出した。
一班が魔石を攻撃しようとすると、魔物は火を噴いて牽制した。その隙に、二班、三班は脚に体当たりをして攻撃した。魔物は体をひねって、脚で振り払って、反撃した。
二組のペアが攻撃を受けたが、すぐに体制を整えて、戦列に復帰した。一班が頭を攻撃したとき、魔物の脚が止まった。それを逃さずに二班が右前脚に飛びかかり、がっちり動きを止めた。三班がすかさず、右前脚を集中攻撃。ついに右脚が消し飛び、魔物は倒れた。
一班が間髪入れず、魔石を攻撃し破壊した。魔物は大きな咆哮を上げた。
後は、この繰り替えしだった。左前脚も破壊すると、魔物は立つこともできず、転がって避けるしかできなくなった。
マリが号令した。
「いったん離れて!サンダーを一斉に浴びせます」
「三・二・一・撃て!」
「サンダー」「サンダー」「サンダー」と詠唱の声が聞こえ、雷がバンバン落ちていった。
マリが大声で唱えた。
「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!サンダーボルト!」
マリのやつ、とうとう恥も外聞も捨てたか!とアキラは呆れ果てた。
大きな稲妻が魔物に落ち、ついに光となって魔物は消えた!
「やった!」「うおー!」「勝ったわ」
みんなが歓声を上げた。中には嬉しく泣く者もいた。
「たいした怪我もなく、討伐できて良かった」アキラは胸をなでおろした。
アキラはダンジョン・コアを見つめて、しばらく考えていた。
「よし、決めた。ここをトレーニング・ダンジョンにして残そう」
アキラはそう決断し、第四、五、六の魔物の数が二十匹になったダンジョンに造り直した。
こうして迷宮都市のもう一つの名物、トレーニング・ダンジョンが誕生した。
その後魔法部隊の人数は増えていき、実戦経験を積んだ強者も増えていった。
ダンジョンの探索と攻略も順調に進んでいった。
ダンジョン崩壊が起きる年には、関東一円のダンジョンは全て攻略された。
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