第34話 終末の獣

三年前アメリカで魔石を使ったエネルギー生成実験が成功し、日本も筑波に研究所を作って研究を始めた。しかし研究は遅々として進まなかった。そんな中、ドイツがダンジョン・コアを利用した、新たなエネルギー生成実験に成功したと発表した。


日本もダンジョン・コアを利用した研究を平行して行うことにした。そこで筑波にあるダンジョンの攻略を開始した。多くの自衛隊員を投入し、ついに最深部に到達するが、魔物たちが強すぎて困難を極めた。業を煮やした政府は、核爆発で魔物たちを焼き払う事を決定した。


その魔物たちはトカゲが主体で再生能力があった。魔物たちは核爆発で焼かれても、ダンジョン・コアからの魔力で瞬時に再生し合体し、ダンジョン・コアを飲み込んだ。核爆発でも殺せなかったため、政府は、このダンジョンを封印した。


ダンジョン崩壊が起こった日、この魔物の中のダンジョン・コアも崩壊を始めたが、自己再生能力のため崩壊は不完全に終わった。当然ダンジョンは残り、魔物はダンジョンから出られなかった。しかしダンジョン・コアは少しづつではあったが崩壊していった。


そして魔物は解き放たれた。


大きさはアフリカ像の三倍もあり、全身黒く、猫、犬、鳥の三つの頭があった。尻尾はトカゲだった。


魔物の本能は人を殺すことだ。人の気配を感じ、まず霞ケ浦に向かった。そこにはいくつもの集落があったからだ。その一帯の人を殺しまっくた。


東京にも人が避難してきて、魔物の噂は瞬く間に広がった。習志野、下志津の軍隊が松戸の軍隊とともにに集結し、残った全兵力で魔物に対抗することとなった。そして市ヶ谷にも協力要請が来た。


アキラとマリが不思議そうに首を傾けていた。

「魔物は二週間で消滅するはずなのに、まだ生きてるなんて変ですね」


目黒も不思議がっていた。

「それは、そうだろうけど。実際生きてるんだから」


アキラとマリはダンジョン・コアから得た知識で知っていた。魔物は魔力でできている。魔力を物質化して魔物ができている。ダンジョン内ではダンジョン・コアから無限に魔力を供給されるから、討伐されるまで消えない。しかしダンジョン・コアがなくなると、自身が蓄えていた魔力でしか生きられない。それがだいたい二週間なのだ。


今回の魔物が知っている知識と違うことに、アキラとマリは一抹の不安を抱いていた。


「まあ、でも一匹だけだ。市ヶ谷、習志野、松戸、下志津で合同で当たれば、それほど被害も出ずに討伐できると思うぞ」

目黒は自信ありげに胸を張って見せた。


市ヶ谷が到着したとき、戦闘がはじまる直前だった。


「なに?あの魔物すごく大きいし、首が三つもあるわ」

「とても禍々しいな」


マリもアキラも想像以上だったので驚いていた。


目黒と朝比奈が気分わるそうに、魔物を見ていた。

「ダンジョン崩壊のとき、あんなのがうじゃうじゃ出てきたんだぞ」

「ええ、生きた心地がしなかったですね」


「あの時は、ちょうど関東地区の精鋭を集めて、富士で大規模演習をしてたんだ。そのおかげで魔物の大群にも、何とか勝てた」

「そうだったんですね」


目黒が目を細めた。

「いよいよ始まるぞ!」



「第一射、撃てー!」

合図とともに、一斉に大砲が鳴って、砲弾が発射された。

多数の砲弾が降る中、魔物は右に左に避けて、直撃を免れていた。


「メテオ!」

マリが唱えると、多数の巨大なファイアボールが魔物に降り注ぎ、その一つが命中した。魔物が大きくよろめき倒れた。


「うおー」「やったー」「救世主様」と喝采が起こった。


「脚を狙え!第二射、撃てー!」


魔物目がけて砲弾が飛んでいき、右前脚が吹き飛んだ。


目黒がガッツポーズをした。

「よし、いい出足だ。魔物の脚を狙えば動きを止められる。止まったところで集中砲火を浴びせるのさ」


「第三射、第四射、撃てー!」

「サンダーボルト」


砲弾と雨が振りそそいぎ、稲妻が魔物に直撃した。。


「すごい!圧倒的じゃないですか!」

アキラは感心して歓声を上げた。


「次弾急げ!一斉砲撃の準備!」


砂埃が消えようとしたとき、魔物が光ったように見えた。


その瞬間、マリが叫んだ!

「みんな伏せて!早く!」


その言葉に、みんな一斉に地面に伏せた。次の瞬間、砂埃の中から一筋の光線が発射された。部隊の四分の一が光線で焼かれ消失した。


魔物は立ち上がっていた。無くなったはずの魔物の右脚は元通りになっていた。


「再生かやっかいだな。それに、あんな光線は見たこともないぞ」


目黒は驚いていた。再生能力持ちは、以前も遭遇したが、攻撃を続けていけば削れていき、時間がかかるが倒すことができた。しかし、光線を撃つ魔物など、聞いたことも見たこともなかった。


「砲撃、一斉射撃。戦車隊も各自砲撃開始。魔物に撃たせるな」

「メテオ!」


物凄い数の砲弾が魔物に降り注いだ。魔物はそれを避けようと、横に大きく飛ぶが、そこへも砲弾が落ち、魔物に当たる。魔物は吹き飛び転び、そこにメテオが直撃した。


アキラはガッツポーズをしてマリを見た。

「やった!」


しかし魔物は平然と起き上がった。


アキラは大声を上げた。

「無傷?嘘だろ!」


マリが叫んだ。

「ウィンドシールドだわ。鳥の頭の魔法よ!私の魔法も防がれてしまったわ」


目黒は冷汗が出ていた。

「くそ!シールドまであるのか!」


前回もシールドを持った魔物はいたが、完全に攻撃を防げるわけではないので、高火力をぶつけていけば、少しづつダメージを与えらた。時間はかかるが倒すことは不可能ではなかった。海上自衛隊のミサイルを何発も撃って倒すことができた。今回のシールドは強力に思えた。それに再生と光線である。目黒は、この魔物が倒せるのか不安になった。


「再生に、シールドに、光線って、いきなりボス戦かよ」

「また光線を打ってくるわ。みんな伏せて」


真ん中の犬の頭に魔法陣が浮かび上がった。次の瞬間光線が発射されたが、同時に複数の砲弾が命中した。魔物はよろめき、光線は、ずれた。


しかし光線によって部隊の一部がまた消滅した。


「終末の獣だ」誰かが、叫んだ。


「終末の獣」「終末の獣」「終末の獣」

あちらこちらで恐怖に似た叫びが広がった。


アキラはじっと魔物を見ていた。


「さっき弾があたった?」

「光線を出すときは、シールドは消えるみたい」


「マリ、よく分かるな」

「魔力の流れから、どんな魔法を使うかわかるわ」


「よし、マリ。光線を打つ直前で合図してくれ」

アキラはそう言って、身体強化して瓦礫をひとつ持ち上げた。


「わかったわ」

アキラの考えが分かったマリはうなずいた。


「三、二、一、今よ!」


マリが合図すると、アキラは最大身体強化で瓦礫を投げた。魔物が光線を発射しようとした瞬間、瓦礫が物凄いスピードで、犬の魔物の額の魔石に命中し、魔石が砕けた。


魔物が大きいくのけ反り、光線は出なかった。


アキラとマリはガッツポーズをした。

「やったわ!もう光線は出せないはずよ」


その時信号弾が上がった。


「全員、伏せろ!ミサイルが来るぞ」と大きな声が聞こえた。


空からミサイルが飛んできた。魔物は大きく後退し、避けようとしたが、ミサイルが魔物を追撃し命中した。


もの凄い爆音と爆風と砂埃が起こった。


「海上自衛隊のホーミングミサイルだ。まだ残ってたのか。あとは集中砲火を浴びせれば…」

目黒が目を細めた。


マリが大声を上げた。

「だめ!シールドで防がれているし、再生もしてるわ!鳥頭がシールドで、尻尾が再生魔法を使ってる!」


「目黒隊長、オレとマリでシールドと再生を破壊します」

「ちょっとアキラ!」


「ここでやらなきゃ、全滅だ。マリはオレが守る」

「わ、わかったわよ」


アキラは近くにあったバズーカを手に取って、マリを抱きかかえた。

「マリ、上空から狙う。飛んでくれ!」

「わかった」


アキラが身体強化を使い猛スピードでダッシュし地面を蹴る、それに合わせてマリが飛行魔法を使い飛びだした。まるで大きな鳥が飛んでいるようだった。


「救世主様だ」「救世主様が飛んでる」

市ヶ谷部隊から歓声が上がる。


「一斉砲撃!撃てー!」


砲弾の雨が魔物に降り注いだ。まだ完全に再生していないのか魔物は動かず、砲撃を受けた。しかし攻撃の度によろめき倒れたが、壊れた体は次第にもとの姿に戻っていった。


「鳥頭のウィンドシールドは強力だわ」」

「マリの風魔法であいつのシールドをなんとかできないか?」


「できるかもしれない」

「なら鳥頭ににつっこむ!」


「わ、わかった。やってみるわ」

「よし、いけー!」


マリは自分たちにウィンドシールドを展開し、鳥頭に突撃した。アキラたちはシールドに当たって停止した。

マリが風の流れを調整し、魔物のシールドと逆方向から風を当てた。次第に鳥頭のシールドが弱くなった。

アキラが鳥頭の魔石に狙いを定めた時、魔物が動き出した。


尻尾が大きく動いて、アキラたちを打ち払った。アキラたちは遠くに吹き飛ばされ、地面に激突した。


「マリ、大丈夫か?」

「うん、平気よ」

マリがウィンドシールドを展開し、アキラが身体強化した体でマリを守ったのだ。衝撃はあったものの、二人は無事だった。


グォー!魔物が大きく吠えて、アキラたちの方に体を向け、アキラたちを睨んでいた。


「やべー、マリ、上空に避難だ」


そう言うや否やアキラはジャンプし、マリが飛行魔法を使った。すでに魔物が突進していた。魔物の前腕がアキラたちに振り降ろされる直前、アキラたちは上空に逃れた。


「危なかったわね」「ああ、間一髪だった」

マリとアキラは冷汗をかいていた。


次の瞬間、砲撃音が鳴り一斉砲撃が魔物に届いた。爆風がアキラたちにも届き、アキラたちは吹き飛ばされた。しかし怪我はなく、空中で止まった。


「近くで爆発に巻き込まれると、ビビるね」

「耳が痛いわ」


アキラとマリは魔物を見た。無傷だった。


「ウィンドシールドで攻撃が届かないわ」

「くそー、鳥頭を何とかしないと…しかし、動きを止めないと近づけない」


「いったん、戻りましょう。対策を考えないと」

「うん、そうだね」


そのとき信号弾が上がった!


「マリ、もっと上空に退避だ!」

「わかった」


アキラとマリは空高く飛んでいった。遠くからミサイルが飛んでくるのが見えた。


魔物は大きく前に飛んでミサイルを避けようとしたが、ミサイルは追尾して魔物に当たった!魔物は爆風で吹き飛ばされ、地面に横たわった。


「今だ!マリ、突っ込め!」

「いくわよ」


アキラたちは、急降下して鳥の頭に激突した。マリがウィンドシールドを中和すると、アキラが鳥の魔石に狙いを定めバズーカを撃った。!


「届けー!」


魔石が割れ、鳥がギャーと鳴いてウィンドシールドが消えた。


マリは全力で飛んで戻っていった。それと同時に一斉砲撃が始まった。大砲や戦車が攻撃を続けた。ありったけの砲弾を撃っていた。


アキラたちが、戻ってくると大歓声が沸き上がった。


「二人ともよくやってくれた。これで魔物を仕留められるはずだ」


目黒や他の隊員が出迎えてくれた。


砲撃が止んだ。


「砲弾がなくなったか」


目黒が砂埃の方をみた。


「やったか?」


マリが叫んだ。

「また再生してるわ」


砂埃が消えると、ボロボロの魔物が横たわっていたが、次第に再生が始まっていた。


「目黒さん、ミサイルはないんですか?」

「分からん」


アキラはマリを抱き上げ、叫んだ。

「マリ、サンダーを撃ちながら、接近して尻尾を破壊する!」

「ちょ、ちょっと。無茶よ」


「もう、オレたちしかいない!無茶でもやるしかない」

「あーもう、わかったわ」


アキラとマリは魔物目掛けて飛んで行った。魔物が起き上がろうとした。


「サンダーボルト!」


雷撃が直撃し、魔物はまた倒れた。


「よし、尻尾に突っ込め!」


アキラたちが尻尾に突撃しようとした時、魔物は上半身を起こし、アキラたちに被さるように襲い掛かった。


「うわ!」「きゃー!」


アキラたちは避けようとして地面に激突して、二・三回バウンドした。魔物はそのまま地面に倒れたが、体を捩じってアキラたちに向きを変えようとした。アキラが地面を思いっきり蹴り、尻尾めがけて飛んだ。そして魔物が起き上がるよりも早く、尻尾の先端につかみかかり、魔石を殴って破壊した。


その直後、尻尾が大きく動き、アキラたちは地面に叩きつけられた。魔物がアキラたちに前足を振り下ろした。


「させるか!」「ウィンドシールド」


マリがウィンドシールドを三重に展開し、アキラが身体強化を最大にして、前足を受け止めた。


「マリ、サンダーボルトを!」

「サンダーボルト!」


雷撃に打たれ、魔物が大きくのけ反った。


「逃げるわよ、アキラ」

「わかった」


マリは、上空に避難した。


「アキラ、大丈夫?顔が青いわ」

「へへ、魔力を使い果たしたみたい。すごくしんどい」


信号弾が上がった!


「よかった。まだミサイルがあったんだ」

「なら、戻りましょう」


アキラたちが戻るとき、ミサイルが飛んできて魔物に命中した。


アキラたちは、さらなる大歓声で迎えられた。


目黒がガッツポーズをした。

「凄いぞ、よくやった。これで勝てる!」


「ええ、死ぬ気で頑張りましたから」

アキラは魔石を手に取って魔力の補充を始めた。


みなが砂埃の方をみた。砂埃が消えると、ライオンの倍くらいの大きさの猫の魔物が現れた。


「魔物は、体を削られると、小さな魔物に変化するんだ。これで、この銃でも何とかなる」

目黒は銃を構えた。


「銃撃戦よーい!」

全員が銃を構えた。


その瞬間、魔物が猛スピードで走ってきた。「撃てー!」の合図が聞こえたときは、すでに前線の中央に入っていた。


銃を撃つ間もなく、次々に隊員が薙ぎ払われ、踏みつけられ、噛み殺された。


アキラは、さらに別の魔石も手に取って、両手で魔力を注入していった。最大強化を超えて、なお続けた。体に激痛が走るが止めなかった。


「アキラ、何してる?」

マリは、その光の強さに驚いた。


「あいつは、オレでないと止められない」

「ダメ、これ以上したら体が壊れるわ」


そのとき、人々の悲鳴が近くで聞こえた。気がつくと、目の前に魔物がいた。


マリは恐怖で動きが止まった。しかしアキラは目にも止まらぬ速さで、魔物に飛びかかり、魔物をくい止めた。


「マリはオレが守る」

アキラは叫んだ。


目黒が真っ先に動いて、魔物の体に銃を突きつけ、乱射した。グォー、魔物が雄たけびを上げ、肉片が散らばり、その破片は光となって消えたいった。


そのとき魔物の尻尾が目黒の体を貫いた。


「あ、あとは…頼ん・だ・ぞ」

「目黒さん」「隊長!」みんなが叫んだ!


目黒は血を吐いて、倒れた。


朝比奈が、横浜組が、銃を魔物に押し付け、銃弾を浴びせ続けた。


魔物が暴れた。アキラが渾身の力で抑え込んだ。


「くそ、体が痛い。でもマリのため、みんなのため、目黒さんに答えるため、負けない!」


ギャオー!魔物が大きな叫び声を上げ、力なく脚をついた。すると魔物の胸の奥で何かが光出し、急激に熱くなった。


アキラは、ヤバいと思った。「こいつ自爆するつもりか?」


マリの方をチラッと見て、次の瞬間には魔物を抱いたまま猛ダッシュして離れていった。


「アキラ、やめて!」

マリが叫んだ。


魔物はどんどん縮んでいき、魔物の中で胸の奥の魔石は、虹色に輝きだし、そして高温を発し始めた。

「小さなダンジョン・コア?」


熱い!焼ける!痛い!アキラの手は焼け溶け、魔物と混ざり合ったようになっていた。魔物を離すこともできなかった。もうマリから離れることしかできない。


「マリ、ごめん!」

「いやー!アキラ!」


魔石は壊れ、光りとともに衝撃波が辺りを襲った。マリは衝撃波で吹き飛ばされた。


辺りは静寂に包まれた。


マリは立ち上がると、急いで飛行し、アキラのもとに駆け寄った。


しかし、そこには何も残っていなかった。


「アキラ、アキラ、アキラー!」

マリは泣き崩れた。


あるのは、マリの悲痛な叫びだけだった。

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