第33話 魔女とスーパーボーイ

大災害後、日本に取り残されたアメリカ人が大勢いた。ジョンとボブもそうであった。彼らは横田基地に配属されたアメリカ合衆国空軍所属の兵だ。大災害を生き残り、横田基地で救助を待っていたが、待てど暮らせど救助は来なかった。

業を煮やした二人は、東京のアメリカ合衆国大使館に行くことにした。


東京の壊滅は想像以上で、あれほど奇麗で栄えていた街が見るも無残になっていることに驚きを隠せなかった。

アメリカ合衆国大使館を目指していた途中で、魔法で水を出す救世主と呼ばれる少女が市ヶ谷にいることを耳にした。気になったし、水も無くなったので市ヶ谷に寄ることにした。


市ヶ谷の救世主は、本当に魔法で水を出す金髪の美少女だった。さらに驚いたのが「ダンジョン革命」だった。ダンジョンが魔石製造機になっていることだった。そしてそれをなしたのも魔法少女だった。日本はアニメが現実になる、本当に不思議な神秘の国だと彼らは思った。


大使館は壊滅していて、本国と連絡できないことを知ると、彼らは横須賀へ向かった。横須賀海軍基地に着いたとき、避難救助を待つアメリカ人が多くいた。その人たちの救助のため空母が数日後には到着することになっていて、ジョンとボブは歓喜した。


空母が到着し、空母の艦長はジョンとボブから横田基地の様子を聞いた後、市ヶ谷の話を聞いて驚愕した。すぐに本国に連絡した。本国の返信は


「魔法少女を確保せよ」


だった。


「君たちには魔法少女確保の作戦に参加してもらう。これは命令だ」


「命令って、俺たちは海軍じゃない。あんたらに命令される筋合いじゃない」

「ようは十六歳の少女の誘拐だろ!そんな非人道的なことできるか!ふざけるな」


「陸軍、空軍は壊滅し、今や海軍が全権を掌握している。君たちは我々の指揮下にある」


「俺たちは、そんなこと承諾していない。契約違反だ」

「それなら、俺たちは軍をやめせてもらう」


「なら君たちは命令違反で逮捕拘束、軍法会議で処罰されることになる」


「な、横暴だ!」


「だが、もし承諾してくれたなら、二階級特進と今後の生活が約束される。どうかね」


「くそったれが、わかったよ。やるよ」


こうして、またアキラとマリは災難に巻き込まれることとなった。


合衆国海軍のヘリが市ヶ谷基地の近くを飛んでいた。五か所のビルの屋上に、それぞれ隊員を降ろした。そして近くの公園に隊長とジョンとボブを降ろして飛び立っていった。隊長たち三名は一般人の恰好をして、市ヶ谷基地に向かった。


基地内でジョンとボブは分かれ、魔法少女を探した。マリが建物の裏にいたのを発見したジョンはすぐに隊長を呼んだ。

マリは、並べてある、たくさんの桶に「ウォーター」と唱えながら次々と水を出していた。桶に水が貯まると洗濯が始まった。


隊長は魔法少女を見て驚いた。

「本当に魔法があるとは」


そしてマリに近づいていった。


「こんにちわ、お嬢さん。お会いできてうれしいです」


隊長はつたない日本語で挨拶し、笑顔で握手を求めた。


「は、はい。こんにちわ」


マリも手を差し出した。最近は見知らぬ人が、救世主の噂を聞いて、市ヶ谷にやってくることが増えて、いきなり挨拶されることも多かった。アキラも傍にいたから、そんなに警戒していなかった。


隊長はマリの手を強く握って、ブンブンと握手し、そして笑顔で去っていった。


「何っだったんだろう?」

マリは首をかしげたが、すぐに気を取り直して、桶に水を注いでいった。


隊長はマリの手に、紫外線を当てると発光する特殊な蛍光塗料を塗りつけたのだ。特殊部隊員がビルの屋上から、隊長と握手をする金髪の少女を確認した。そして少女の行動パターンや行動範囲を調べ始めた。少女が空を飛んで建物の最上階に入っていくのを見て、驚いた。


隊長は、その後ジョンとボブに連れられてダンジョンにやってきた。多くの人が並んで待っていた。三十分後に入場できると言われ整理券を渡された。まるでアトラクションだなと隊長は不思議な気分になった。

時間が来て、ダンジョンに入った。あと五分で魔石が現れるとアナウンスがあり、人々はざわつきだした。そして時間になったとき、魔法陣が現れ、中からポロっと魔石が落ちてきた。誰かが「ダンジョン革命だ」と叫ぶと、拍手喝采が起こった。


「本国がどうしても欲しがるわけだ」


隊長はハァーとため息をついて出ていった。正直少女誘拐などしたくなかった。しかし命令なので逆らえなかった。アメリカ合衆国は魔石を使った新エネルギー生成システムの建設に取り掛かっていたのだ。国家再建、文明再建に絶対必要だと考えたのだ。だから魔石製造機を作れる少女を手に入れたかった。


夕方作戦会議が行われた。

「魔法少女は建物の最上階で寝泊まりしている」ことをボブが聞きつけ、隊員が「飛行して最上階と地上を行き来していた」と報告した。


「本当にクレイジーな女の子だな」


隊長は作戦を説明した。

「今夜、屋上から侵入し、催涙ガスとスタンガンで確保し、離脱する」


「これで俺たちの仕事は終わりだ。帰らせてもらうぜ」

ジョンとボブは、ヘリの場所に戻っていった。


深夜、マリは、ヘリの音で目を覚ました。アキラは寝ていた。

「やけにヘリが飛んでいるわね」


マリは外を見ようと、ガウンを着た。


その時ドアが破られ、煙が充満し、人が侵入してきた。


「アキラ!」

マリが叫んだ。マリの手は発光していて、男がマリ目がけて飛びついた。


アキラはガバッと起き上がったが、催涙ガスでむせた。


くそ、またかよ!


アキラは目を閉じ、息を止めて、意識を集中した。後ろから一人迫ってきたので、裏拳で吹っ飛ばした。右の奴に蹴りを入れて吹き飛ばした。そのまま左の奴に回し蹴りを浴びせた。


マリを探した時、窓ガラスが割れた音がした。特殊部隊員がマリをスタンガンで気絶させ、担いで窓を割って飛び出し、待機していたヘリの梯子に飛び移ったのだ。そして急速に離脱していった。仲間を置き去りにして。


アキラは、去っていくヘリを見て、その手際の良さから、プロ中のプロだと感じた。飛行魔石をバッグから取り出し、侵入者の一人を抱えて、窓から下に降りた。


目黒がやってきた。

「何があった!」


アキラが怒鳴った。

「こいつらにマリを攫われました」


目黒は、侵入者の装備を見て、目を細めた。

「アメリカ海兵隊の特殊部隊だ。なら横須賀だ!たしかアメリカ第七艦隊の空母がきていると報告があった」


「今から追います」


アキラは急いで部屋に戻り、ありったけの魔石をバッグにつめて、横須賀に向けて飛び立った。


マリはヘリの中で気がついた。体を縛られ、口はガムテープを貼られていた。


マリは必死に叫んでいた。

「アキラ、助けて!」


アキラは必死に魔力操作をしてヘリを追っていた。

「マリはオレが守る」



夜明け前、ヘリは空母に到着した。そしてマリは、空母の艦橋に連れてこられた。


「あなたを合衆国へお連れします」と艦長が言った時、


「未確認飛行物体が急速接近」と報告が入る。


ドーンという音とおもに人が甲板に降ってきた。


「アキラ!」マリが叫んだ。


甲板に少年が立っていた。


「少年?飛んできた?バカな」艦長は驚き、「捕まえろ!抵抗するなら殺しても構わん」と叫んだ。


戦闘態勢のサイレンが鳴り響いた。


銃を構えた兵士が次々に甲板に現れ、アキラに銃口を向けた。


「投降せよ」


という言葉が発せられるや否や、アキラは目にも留まらぬ速さで一人の兵士に駆け寄り、海に投げ飛ばした。そして、その近くにいる兵士を次々に海に投げ飛ばしていった。あっという間に兵士全員が海の中だった。


「ば、化け物!撃てー!」艦長が震えて号令をかけた。


次々に、新しい兵士が銃を撃ちながら出てきた。だが、アキラは平然と立っていた。


アキラは笑っていた。

「マリのウィンドシールド、まじすごいな」


銃声が鳴り止んだ。


「弾切れかい?」

アキラは後ろを向いてヘリに近づいていった。そしてヘリを持ち上げ海に投げ入れた。


「スーパーボーイ」誰かがつぶやいた。


アキラはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、兵士に近づいていった。

「それいいな。気に入った」


兵士たちが後ずさりした。


「マリを返せ!」


アキラが気迫を込めて怒鳴り、足で甲板を打ち抜いた。バキッと音がして甲板にひびが入り、空母が揺れた。兵士たちはその気迫と揺れに腰を落とした。


アキラは艦橋を見上げた。


そしてアキラは浮遊して、艦長の目の前で止まった。


「マリを返せ!」


「う、撃て」と艦長が叫んだとき、アキラは窓を割って艦橋に飛び込み、艦長を吹っ飛ばして、マリを奪い返していた。


周りをギロリと見回すと、みな銃を捨てて両手を上げた。


アキラは大声を上げて、艦橋から飛び出していった。

「二度とオレのマリに手を出すな!」


マリが顔を赤らめて、嬉しそうにアキラを見た。

「二度とオレのマリに手を出すなって、アキラって大胆ね」


「そ、それは…え、えーっと...」

アキラは急に恥ずかしくなって、しどろもどろになった。


「ふふふ、ありがとう、アキラ」

マリはギューッとアキラにしがみついた。


「さあ、帰ろう、マリ」

「アキラ、ちょっと待ってくれる」


「何?」

「あたし頭に来てるの!やっちゃっていいでしょ?!」


マリが怒り心頭になっているのが分かり、アキラは凄い寒気を感じて震えた。

「えーっと、お手柔らかにお願いします」


マリは手を挙げて叫んだ。

「神をも恐れぬ不貞の輩よ。その身に雷神オーディンの怒りを受けよ!サンダーボルト!」


大きな稲妻が艦橋に落ち、花火と火柱が立った。


「うわー、中二病全開じゃん」アキラは小さくつぶやいた。


「何か言った?」

「いえ、何も」

マリがチラッとアキラを見、アキラはそっと目をそらした。


「それでは、最後の締めをしましょうか!」

「えっ?まだやるの?」


マリがニヤリと笑い、アキラはハラハラした。


「すべてを焼き尽くす神の業火に、その身を焼かれるがよい!メテオ!」


空中に巨大なファイア・ボールが次々に空母の周囲に降り注いだ。辺りは爆音と水蒸気爆発が起こり、海がうねって、空母が左右に大きく揺れた。


「ふう、すっきりした。さあ、帰りましょう」

「う、うん。お願いします」


アキラとマリは市ヶ谷へ空を飛んで帰っていった。


その一部始終を原潜が録画していた。


「破滅の魔女とスーパーボーイ」


後にアメリカ合衆国海軍で、彼らはそう呼ばれるようになった。

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