第31話 ダンジョン革命

翌日、アキラとマリは市ヶ谷のダンジョン・コアの前に立っていた。


「ねえ、何する気?」


マリは正直まだダンジョン・コアが怖かった。


「オレとマリを救ってくれたダンジョン・コアだよ。大丈夫、怖がらないで」

「そ、それは、そうなんだけど?何をしたいのか教えて」


「魔物を出現させる魔法陣を書き換えて、魔石だけ出現させるようにしたいんだ」

「えっ、そんな事できるの?」


「魔物の魔法陣はすでにゲットしていて、その構造もかなり理解したんだけど、書き換えるのは難しすぎてできなかったんだ。でもマリならできるかもしれない。」

「やりたいことは分かるけど。できるかどうか分からないわ」


「うん、だから一度だけでいいから試して欲しいんだ」

「でも、やっぱり怖いわ」

「お願い、一度だけ」


そう言ってアキラはマリを抱いてキスをした。マリは一瞬驚いたが、そのままアキラに抱きついた。


「アキラずるい。こんな事されたら断れないじゃないの!」

「ごめん、大好きだよ」

「バ、バカ!一度だけだからね」


マリの心臓はバクバク脈打ち、顔は真っ赤になっていた。


「ちゃんと、守ってよ」

「マリはオレが守る」

「アキラのバカ」


マリは決心して、大きく深呼吸してからダンジョン・コアに触った。


その瞬間吸い込まれるような感じがして、光の空間のなかにいた。


「はぁー、また来たのか。やだなー」

「よし、魔物の魔法陣を見つけて、ちゃっちゃと書き換えてしまいましょう」


そう言って、アキラに教わったように意識を集中していった。


何かに触れた感じがした。その瞬間、無数の魔法陣が現れた。


魔法陣のひとつに触れてみた。すると何の魔法陣なのか理解できた。


「すごい!アキラが言っていたことって、この事だったんだ。アキラが夢中になるわけね」


「魔物の魔法陣はどこかな?」


以前見た魔物の魔法陣を思い浮かべながら探した。


「あった!これだわ。」


魔法陣はすぐに見つかり、それに意識をどんどん集中していった。


「ふむふむ、ここがこうなて、こっちがこうなってるのか」

「だったら、ここを消して、こっちと繋げてと…」

「あー、ちょっと無理があるか。ならここにこれを足して、ここを消して、これとあれを繋げて...」


「よし、できた!わたしって天才?あとは帰るだけだけど、どうしたらいいのかな?」


「出るための魔法陣はないのかな?」


そう思って、いろいろ触ってみたが、見つからなかった。


マリは、だんだん不安になってきた。


「アキラ、引き戻して」「アキラ、アキラ、お願い」「アキラ、助けてー!」


何度も何度も叫んでいるうちに、ふっと意識がなくなった。


目が覚めると、アキラが目の前にいた。


「おかえり、マリ」

「よかった。戻れたのね」


「ねえ、私の体光ってた?」

「うん、光だしたから引き戻した」

「やっぱり、そうか。ひとりでは戻れないのね」


「ところで、うまくいった?」

「たぶん」

「ほ、ほんとうに、凄いよ、マリ」


「そじゃあ、魔物を倒してくる」

アキラはダンジョンに入っていって、すぐ出てきた。


「六時間後に魔石が出るか確かめにこよう」


そして五時間五十分後、ダンジョンの中にアキラたち、田所、目黒、朝比奈が集まっていた。


「あと五分くらいで魔物が魔石になって落ちてくるはずです」


みんな、固唾をのんでダンジョン・コアを見つめていた。


そして魔法陣が現れると、魔石がポロっと落ちてきた。


アキラは大喜びしてガッツポーズをした。

「やった!成功だよ、マリ!」


「驚いた、本当に魔石だけが出てくるとは!」

「これでダンジョンに怯えなくてもすみますね」

「魔石製造機の出来上がりか、ダンジョンも驚いてるだろうな」


「はい、これでダンジョンの脅威も、魔石獲得も心配なしです!」


田所がつぶやいた。

「ダンジョンに革命が起こった」


アキラは大声で宣言した!

「そうです。ダンジョン革命です」



その日のうちに「ダンジョン革命」のことが市ヶ谷基地内で発表された。

次々にダンジョンを見学する人が現れ、ダンジョンの脅威がなくなったことが広まった。


翌日、広場には大勢の人が集まった。


壇上に田所、アキラ、マリがいた。


「みんなも聞き及んでいると思うが、ダンジョンはもう脅威ではなくなった。それどころか魔物のかわりに魔石を生み出しくれるようになった。これはダンジョン革命である。そして、ここにいる二人、アキラ君とマリ君のおかげである。彼らに感謝と拍手を!」


「うおー!ダンジョン革命」「ダンジョン革命ばんざーい!」「やったー!怯えなくて済むんだ!」

「救世主様、ありがとうございます」「救世主様」「救世主様ばんざーい!」


最後は「救世主様、ばんざーい」一色になって会場は盛り上がった。


「えーっと、オレもいるんですけど」


アキラは納得いかない顔で田所を見た。田所は気まずそうに、そっと目をそらした。


その夜、広場でお祝いの食事会が催された。


マリが舞いながら「ファイヤー」と唱え、焚火に火をつけると、歓声と拍手が鳴り響いた。


「乾杯!」


みな合図とともに祝杯を上げた。


マリがアキラのところに戻って来た。


「まだ、すねてるの?」

「すねてなんか、ないから」


アキラは、まだ拗ねていた。


「もう、機嫌直してよ。はい。あーん、して」


マリは笑いながら、アキラの口に肉団子を押し込んだ。


「おいしい?」

「う、うん」


「青春だ」「青春してるな」「いいなー青春」


そんな声が聞こえてきた。


青春より、オレの名は?アキラは心の中で叫んだ。

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