第30話 戻った幼馴染

市ヶ谷の一室。

アキラは目を覚ました。見知らぬ天井が見えた。


ここはどこ?オレはどうしたんだ?...ゆっくりと記憶をたどっていった。マリを助けるためダンジョン・コアに入って...魂の魔法陣が見えたんだ。そうだ、マリは?マリはどうなった?


辺りを見ますと、マリが見えた。金髪のマリが!

よかった、成功したんだ、アキラはほっとした。


アキラがつぶやいた。

「よかった」


マリは、アキラに寄り添って、ベッドに顔をうずめて寝ていたが、その声で目を覚ました。


マリが大声でアキラに抱きついた。

「アキラ?...アキラ...アキラ!」


朝比奈が部屋に入ってきた。

「アキラ君が目覚めたの?」



「はい、いま目を覚ましました」


「良かったわね。みんなに知らせてくるから」

朝比奈は部屋から出て行った。


「アキラのバカ、アキラが死んだと思ったとき、私がどんなに悲しかったか分かる?」


「オレだって、マリが死にそうなを見て...マリに生きていて欲しかったから...」


「アキラがいない世界なんて耐えられない。もう無茶しないで」


マリがアキラをじっと見ながら顔を近づけた。泣きそうな顔になっていた。


「う、うん。分かった」


アキラがうなずくと、マリがアキラの唇にそっと口付けをした。アキラは驚き、一瞬ビクッと体を震わせたが、マリの背中に手を回し、目を閉じて抱きしめた。時間が止まったように感じた。


「アキラ、やっと目覚めたか。良かっ...」

いきなりドアが開いて、目黒が入ってきた。


目黒は抱き合て、キスしている二人を見て、「あっ」と小さくつぶやいた。


アキラとマリは急いで離れたが、顔は真っ赤かになっていた。


朝比奈、横浜組、田所がやってきた。


目黒がそっと目をそらした。

「せ、青春中にすまん」


「あらま!」「青春中」「青春真っただ中」「これが本当の青春」


「恥ずかしいから、もう止めて」マリは手で顔を覆い、うつむいた。

「ついに本当の青春がきたー!」アキラは心の中で歓喜した。


「オレ、どれくらい寝てたんですか?」

「一週間」

「そんなにも」


「しかし、よく生きてたな。」

「オレも、死んだとばかり思ってました」


マリはアキラの胸を指さした。

「これがアキラを救ったの」


アキラは、自分の胸を見た。そこには魔石がはまっていた。


「なるほど、これか。マリが死にそうだったから、魔石で身体強化して出血を止めようと思ったんだ」


アキラは胸の魔石を撫でた。


「よかった」「無事でよかった」

みんなが、アキラの肩をたたいたり、握手したりして、部屋から出て行った。


そのあと田所がやってきて、ことの顛末を説明した。アキラ強奪に失敗したことを知ると、三島は降伏した。市ヶ谷の人々に、江田が計画した暴挙であること、江田が死んだことが伝えられ、市ヶ谷の部隊は解散した。田中は意気消沈して市ヶ谷を出ていったなどである。


田所は深く頭を下げて、謝った。

「私のせいで、こんな事になってしまい、申し訳ない」


「いえ、もうすんだことです。マリが無事なら、それだけで何も言うとこはないです」

「そう言ってもらえて助かる。ありがとう。ゆっくり養生してくれたまえ」

「はい」


田所は、また深く頭を下げて部屋を出て行った。


「アキラ、お腹がすいたでしょ。食事をもらってくるわね」

「うん、お願い」


マリは笑顔で部屋から出て行った。それをアキラはじっと見つめていた。


「よかった。本当によかった」


アキラの頬を涙がこぼれて流れていった。



翌日、アキラは外に出て、走ったり飛んだりしていた。


「アキラ、無茶しないで」

「わかってるって。でも、この通り全然平気」


アキラは楽しそうに前転、後転、宙返りをした。


「この体すごいね!すごく軽く動くし、力がみなぎってくる」


「わかったから。もうそれくらいにして」


マリが魔法を発動して、飛んでアキラを捕まえた。


「わあ、マリは飛行魔法を使えるようになったんだ」

「そうよ、魔法少女になったのよ」


マリはアキラと一緒に上昇し、手を挙げた。


「霧よ、我が周りを覆いたまえ、ミスト!」


「うわー、マリってほんとうに中二病だったんだ」アキラが小さくつぶやいた。


「何か言った?」


霧がアキラたちの周りに広がると、やがて消え、虹が出た。


「虹だ」「虹だ」「救世主様」「救世主様、虹をありがとう」

歓声が沸き上がった。


「救世主様は恥ずかしいから止めてって、何度も言ったんだけどね。全然止めてくれなくて、もう諦めちゃった」


アキラがぼそっとつぶやいた。

「そんな中二病みたいな事やったら、そうなるよ」


「何か言った?」

「いえ、何も」

マリはアキラを睨んで、アキラは目をそらした。


「ここって、市ヶ谷だよね」


「そうよ。田所さんが、ここの司令も兼ねることになったの。それにここが便利なんだって」

「へー、そうなんだ」


「あっ、そう言えば、貯水槽に水を貯めないといけないんだった」

「なら、早くやっちゃおう」


マリとアキラは、そのまま飛んでいった。


貯水槽につくと、マリは貯水槽の手前で一回転し、手を伸ばして叫んだ。


「水よ出でよ。ウォーター」

「えっ?こんなに離れた距離でもできるの?」

「ふふふ、この距離なら魔石に触れなくてもできるのよ。どう?すごいでしょ?」


マリが自慢げに胸を張った。大きな胸が上下に揺れ、アキラの目は釘付けになった。


「ど、どこ見てるのよ!エッチ!」

「いまさらじゃね?」

「アキラのバカ」


マリは両腕で胸を隠して、顔を赤らめた。


周りにいた人たちは、羨ましそうに何か言いたそうにしていた。


「青春って言ったら、殺すわよ」


マリが周りを睨みつけた。


「救世主様が怒った」「救世主様がお怒りだ」「怒った救世主様もかわいい」


「もう止めて」


マリはアキラに抱きついて飛んで離れて行った。


うん、かわいい。アキラは心の中でつぶやいた。



翌日、アキラとマリは広場で鬼ごっこをしていた。


二人は十メートルくらい離れていた。


マリが優雅に手招きする。

「鬼さんこちら、手のなる方へ」


「いくぞ!三・二・一・ドン!」


アキラが合図とともに地面を蹴って一気に駆け寄り、一瞬のうちにマリを捕まえた。

キャッと可愛らしい声を上げたときは、捕まっていた。


「私の頃よりスピードが上がってない?」

「うん、かなり上がってると思う」


マリは目を真ん丸にして驚いて、アキラは自慢げに笑っていた。


マリが空中に、しかも二十メートルも上がって、手招きした。

「これなら、どうかな?」


アキラがどんどん自己強化していった。

「よーし、待ってろよ!」


アキラの輝きがものすごいことになっていて、マリは驚いた。

「うそ!魔石なしで最大強化!?胸の魔石!」


そしてアキラがジャンプした。ロケットのようなスピードでマリに向かって飛んで行き、マリが気がついた時には捕まってしまった。そのままさらに上昇し、そして落ちていった。


二人とも悲鳴を上げた。

「うわー、落ちるー」「きゃー」



あわや地面に激突と誰もが思ったとき、地面すれすれで何回かバウンドして着地した。


マリが涙目で怒った。

「アキラのバカ、なんでいつも考えなしなの」



「ご、ごめんなさい。それにしても今のはなんだったの?」

「ウインドシールドよ」


「すごい!いつ覚えたの?」

「体が元に戻ったときのダンジョン・コアの中でよ。いつの間にか覚えたみたい」


「それじぁあ、今度はマリが鬼ね」


アキラが離れて、おいで、おいでと手招きした。


マリが全力の飛行魔法でアキラを追った。しかしアキラのスピードには全くついていけなかった。マリはだんだん腹立たしくなり、終いには「サンダー」と唱えてアキラの周囲一帯に雷を落としてしまった。雷に打たれ、アキラは失神して、数メートル転がり倒れた。


マリがアキラに走り寄った。

「アキラ、ごめんなさい。わざとじゃないの。わざとなんだけど」


「わざとだったんだ」「ちょっとひどいね」「救世主様、わざとするんだ」


マリは声のする方をキッと睨みつけると、みんなサーッと逃げていった。


アキラが起き上がった。

「ひどいよ、マリ」



「ごめんなさい、アキラ。わざとじゃないの…わざとだけど」


どっちだよ、アキラは心の中でつぶやいた。


その日の午後、アキラたちは新しい部屋に移った。

建物の最上階の部屋だった。途中の階段が全部塞がっているので、上階にいけるのはアキラとマリしかいなかった。安全面でも良いからと、最上階を勧められたのだ。荒らされてなくて、とても奇麗な部屋で快適だった。


ソファーで二人はくつろいでいた。


アキラは握っている魔石をじっと見ていた。


「どうしたの?アキラ」


「ああ、さっきウォーターでお風呂に水を貯めてみたけど、以前よりも集中しないとダメみたいで、結構疲れたんだ」


「それ分かる気がする。私すごく魔力操作がうまくなったけど、逆に身体強化が下手になったわ。身体強化すると、すぐお腹が痛くなってダメなの」


「やっぱり、この体は身体強化に向いていて、マリの体は魔力操作に向いているんだ」

「みたいね。私は魔法少女に憧れたのもあるかもね」

「はは、それは面白いね。確かにオレはスーパーマンに憧れてたもんな」


二人は笑った。


「マリ、飛行魔法や雷魔法、炎魔法の魔法陣を魔石に書いてくれないかな。魔法陣の起動は問題なくできるから、そしたら魔法も使えるから」

「いいわよ、でも無茶しないでよ」

「わかってる」

「どうだか」


二人は、また笑った。

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