第16話 横浜
浄水場を後にして、多摩川を渡り、新横浜まで来た。
途中瓦礫の山で通れない所が何か所もあった。その度に迂回して別の道を探して移動したので、だいぶ時間をロスしていた。
いまアキラ達は、目の前の瓦礫の山を見つめていた。最初の段差を高機動車の前輪が乗り越えられれば、いけそうだったが、あとちょっとでダメだった。
「いったん目黒に戻り、戦車を連れてきた方が良さそうだな」と目黒はアキラとマリを見て提案した。
もう少しで横浜だ。引き返したくない気持ちも分らない訳ではないが、さらに迂回すれば、今日中に着かなくなる。そうなる前に目黒に戻った方が良いと目黒は考えた。
「でも、でも…あと少しなのに…」
マリは諦めきれずにいた。
アキラは、マリの身体強化を最大にすれば、もしかしたら、できるかもしれない、やってみる価値はあると思った。ただマリがスーパーマンになるのを好きではないから、了承してくれるか分からなかった。
アキラはマリの方を見て尋ねた。
「マリ、身体強化で車を持ち上げることができないか試してみない?」
マリは首を横に振った。
「そんなの無理に決まってるじゃない。できっこないわ」
アキラは、重ねてお願いした。
「ね、一度だけ?」
目黒が、アキラの言葉にビックリしていた。
「いや、さすがに無理だろ?高機動車は二トン半以上あるんだぞ」
アキラはなおも食い下がった。
「それでダメなら諦めるほかないよ。だから一度だけ」
「わかった。やってみるわ」
マリも引き返したくない気持ちが強かったから、賛成した。
アキラは、魔力操作でマリを強化していく、いつものようにマリの体全体が光っているのを感じる。さらに、持ってきた魔石の魔力をマリに注入していく。より光が強くなっていく。
しばらく続けていると、マリが「お腹が熱くなって、痛くなってきた」と訴えた。ここが限界だろう、そして最大強化になったようだと、アキラは考えた。
アキラには、マリの全身が神々しく眩しく感じられ、目黒と朝比奈はマリから只ならぬ威圧を感じていた。
「ふうー、やってみるね」
マリが高機動車の前方に手をかけ、グッと力を入れると、前輪が浮き上がった。
目黒と朝比奈が驚愕して、口をあんぐりさせていた。
「嘘だろう!」
マリは、さらに高機動車を持ち上げ、瓦礫の上に前輪を乗せた。そして今度は高機動車の後ろから持ち上げ、押して動かしていく。ついに瓦礫の上に四輪とも乗りあげることができた。
高機動車にみんなが乗り込み、先に進んだ。
目黒が唸った。
「これが最大強化か、本当に人間を超えたな」
アキラが褒めた。
「まるでスーパーマンみたいだった。すごいよ、マリ!」
するとマリが泣き出してしまった。
「馬鹿力なんか欲しくない、スーパーマンより魔法少女になりたいのに」
「ごめん」
アキラと目黒が同時に謝る。朝比奈が、マリの頭を撫でながら、ヨシヨシしていた。
日産スタジアムの前にダンジョンが見えた。
「ダンジョンがある」
アキラと目黒は目を合わせて、うなずいた。
「いや!早く家に行きたいの」
マリはダンジョンからぷいっと目をそらして、寄るのに反対した。マリのおかげで、ここまで来れたのだから、仕方ないかとアキラも目黒も諦めた。帰りに寄れば良いと、みんな思った。
三ツ沢公園まで、やってきた。家は目と鼻の先だ。アキラもマリもソワソワしてきた。
アキラは倒壊した家を見て、肩を落とした。
「やっぱり、ダメだったか」
覚悟はしていたが、やはり涙が出てきた。マリはうずくまって泣きだした。アキラはマリの肩に手を廻すようにして、いっしょに泣いた。
しばらくしてから横浜駐屯地へ向かった。
目黒は横浜駐屯地の前で高機動車を止めた。
「ちょっと様子をみてくるから」
目黒がひとりで中に入っていった。すると建物の中から隊員が出てきた。
しばらくして目黒が戻って来た。
「ここにも五日前にダンジョンが出現したそうだ。それで多くは横須賀に向かったらしい。残ったのは、今いる一個小隊だけだ。」
高機動車の運転席に乗り込み、駐屯地に入っていった。
「魔石は好きにしていいそうだ。というか、ここでは俺が一番階級が高いから好きほうだい出来るぞ。」
目黒は笑っていた、そして感心しながらつぶやいた。
「こういう時のため階級を上げてくれたんだろうな。田所さんは本当に気が利く人だよ」
隊員たちが、ぞろぞろと出てきて、倉庫の方に走っていった。
「さて、俺達は、ダンジョンを消滅させるとしようか」
目黒は大きく伸びをした。
マリは嫌そうな顔をした。
「ここのダンジョンの魔物はどんな奴ですか?」
アキラが尋ねた。
「分からん。彼らは怖くて入ってないそうだ」
ひとりの隊員に、ダンジョンのところまで案内してもらった。
「本当に消せるんですか?」
その男の隊員はいぶかしんでいた。
目黒は胸を張って答えた。
「まあ、見てな」
「オレが主役だよ?あんたが胸張ってどうすんの?」とアキラは心の中で突っ込でいた。
アキラはマリを見て、
「嫌なら、外で待っていてもいいよ」
と優しく言い、目黒が
「そうんだな。無理しなくていいよ」
と付け加えた。
マリの顔がパーっと明るくなった。
アキラが笑顔で手を振って、ダンジョンに入ろうとしたときだった。
マリがアキラの腕をつかんだ。
「ちょっと待って、私もやっぱり行く」
マリが睨んでいた。
「アキラ、ひとりで触ろうと考えいるんでしょ!ダメだからね」
しまった、バレたか、アキラはそっと目をそらした。
「そ、そんなことないわ、ホホホ」
アキラは笑ってごまかした。
「目を離すとすぐ、これなんだから!アキラのバカ!」
マリはアキラの頬をつまんだ。
「これは青春なのでしょうか」
後ろの男がつぶやいた。
誰だよ、あんた!とアキラは心の中でつぶやいた。
結局四人で入っていった。
中に入るが魔物が見当たらなかった。変だな思いつつダンジョン・コアの方に歩いていくと、後ろから「にゃー」という鳴き声がした。振り向くと猫の魔物6匹。可愛らしく、甘えてきた。猫の魔物は最初は甘えた振りをして、油断したところで襲ってくるのだ。「ダンジョン討伐ゴー!」を見ていたので、アキラは知っていた。
マリが「可愛いー」と手を差し出したので、「マリ、ダメだ」とアキラが言うや否や、魔物はシャーと鳴いて毛を逆立てて、マリに噛みついてきた。
マリは驚き、思わず手で振り払う。猫はギャと一鳴きして光となって消えた。
一斉に猫が襲ってくる。目黒が盾を構え、朝比奈が銃で撃ち、1匹を仕留めた。アキラもファイアボールを撃ち、1匹仕留めた。マリは「キャー、来ないでー」と叫びながら、腕を振り払っただけで三匹を倒した。実にファインプレーだった。
「マリ、おみごと!」
アキラが褒めた。
「もう、やだー」
マリが泣きだした。
そして前回と同様にダンジョン・コアを叩き、消滅させた。
今回も魂の魔法陣は見つからなかった。目黒も朝比奈もダンジョンの中に入れなかった。
「ダンジョンを消していただき、ありがとうございました」
横浜駐屯地の隊員が次々に握手を求めてきた。
その夜、横浜駐屯地の隊員といっしょに夕食をとった。
アキラがウォーターで水を出し、ファイアで火をつける。
「魔法だ」「魔法少女だ」「天使だ」「女神だ」
隊員たちは絶賛した。さらにアキラはゆらゆら舞いながら、ウィンクや投げキスをしたりした。
「うぉおおお!」「最高!」「もう死んでもいい!」
歓声と拍手が鳴り響いた。
マリはサッとアキラを抱き上げ、睨みつけた。
「私の体で、遊ばないでよね」
「これが青春かあ!羨ましい」と誰かが大声で叫んだ。
「そうだ、これが青春だ!」とアキラも叫んだ。
「アキラのバカ!」
マリに怒られてしまった。
その夜、横浜の隊員たちは、目黒に行くことを全員一致で決めた。
翌朝、 横浜の隊員たちは、魔石、武器、弾薬、重火器、燃料、食料を集めて目黒に向けて出発した。
アキラたち四人は、横浜国立大学に向けて出発した。
大学には、ほとんど人がいなかった。横浜駐屯地にダンジョンが出現したため、みんな別の所に逃げていったそうだ。
魔石を回収して、日産スタジアムに向かった。
日産スタジアムのダンジョンは、ハト十羽が襲ってきた。すばしっこくて、アキラのファイアボールはいとも簡単に避けられた。朝比奈が銃を撃って、やっと二匹に当たった。しかしマリが銃でバン、バン、バンと次々に倒していった。凄い動態視力だった。
「ふう、今回はハトで良かった」
マリが泣かなかったので、良かったとアキラは思った。
マリの機嫌が良さそうだったので、もしかしたら許してもらえるかもとアキラは思った。
「もっと情報を得たいのでダンジョン・コアにひとりで入りたいけど、ダメかな?」
「ダメに決まってるでしょ。約束わすれたの?」
けんもほろろに断られた。
仕方なく、さっさとダンジョン・コアを壊した。
結果は同じで、今回も魂の魔法陣は見つからなかった。目黒も朝比奈もダンジョンの中に入れなかった。しかし、少しずつ新しい魔法の知見を得ることができ、アキラは少し嬉しかった。
目黒に帰る途中で横浜の小隊と合流し、無事目黒に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます