第14話 身体強化

翌朝、アキラは水出しへ、マリは訓練へと向かった。


「マリ、がんばってね」

「うん、アキラもね」


そう言って二人は別れた。


アキラは目黒に伴われ、魔石が保管している部屋にやって来た。ダンジョン崩壊前は自衛隊も独自で魔石を集めていたのだ。


アキラは、部屋いっぱいの魔石を見て感嘆した。

「けっこう数がありますね」


「もっとあったけど、研究用に筑波に送ったからね」

目黒が残念そうに答える。


「筑波か、やっぱり魔石を使った新エネルギーですか?」

「そのとおりだよ。成功したという話は聞かなかったな」


「目黒の近くだと他はどこに保管されてます?」

「一番近くは三宿駐屯地だな。あと市ヶ谷と習志野。市ヶ谷には関東最大の保管庫がある。羽田にも輸出用の保管庫があったはずだが・・・」


アキラは少し考えてから、目黒を見た。

「三宿のを全部貰ってきてください。水と交換でもいいですから。それから、この近辺に落ちている魔石も拾ってもらえませんか?」


「三宿へは先ほど輸送隊が出発した。魔石拾いは、たぶん無理だ。人手がない」

目黒は渋い顔をしながら答えた。


「はい、わかりました。では、三宿だけでも。さて水出しをしましょうかね」


アキラは、そう言って、いくつかの魔石を選び出した。実は昨日の水出しで、手持ちの魔石をだいぶ使ってしまったので、補充したかったのだ。


「よし、オレはマリ君の訓練を見に行くとするか」


目黒とアキラ、踵を返して出て行った。



マリは訓練場にいた。


殴ったり蹴ったり、そんな野蛮なことはしたくなかった。アキラにはやってたけど、それはアキラが悪いからで、好きでやっているわけではなかった。でも今は、アキラと約束したから、渋々やっていた。


昨日より体が軽い気がした。右ストレート、左フック、蹴りなどイメージ通りに体が動く。光のイメージトレーニングのおかげかな?と思った。


横でいっしょに訓練していた男たちの顔は、引き攣っていた。


「昨日より速くなってないか?」

目黒も顔を引き攣らせて見ていた。


「中村、手合わせしてみたいって言ってたよな。寸止めでいいからやってみろ」


「はっ、ぜひ、お願いします」


中村は空手四段で、全国大会で優勝したこともある強者だった。ここ目黒では一番強いと言われており、本人も自負していた。昨日は任務で外に出ていたため訓練に参加していなかった。

あとで十六歳の子供に全員が負かされたと聞き、敵討ちを希望していたのだった。そして、先ほどのマリの動きをみて、本気でやらない負けると思った。


「では、始め!」

目黒の合図で開始された。


中村が自慢の高速の突きを出した。よし、決まった!と思った瞬間、目の前が暗くなり、気絶した。


「勝負あり、それまで」

目黒が止めた。


あまりのことに、みんな唖然としていた。中村が突きを出した瞬間、中村が後方に吹っ飛んだのだ。マリのほうは微動だにしていなかったように見えた。


「訓練はもう不要だな」

目黒は、そう思った。


マリは、ゴメンなさい、ゴメンなさいと体をくねくねさせ、おどおどしながら謝っていた。


遠くから見ていた田所が「これで1割か」と驚愕していた。

目黒は唸るようにつぶやいていた。

「もうすぐ人間を超えるなかもしれないな」



午前の仕事と訓練がおわり、二人は部屋にもどっていた。


「どうだった?」

アキラが尋ねると、マリは嬉しそうに

「明日からは、来なくていいって言われたわ」


「えっ?何かあったの?」

アキラはビックリして尋ねた。


「何もしてないわよ。向こうが勝手に当たってきて、勝手に吹っ飛んだだけ。怪我して気絶したけど」

マリは、自分は悪くないもんと、ぷいっと横を向いた。


アキラはぽかーんとしていた。


「射撃も今日で終了。もう百発百中よ!」

マリがこともなげに言った。


アキラは引き気味に返事をした。

「そ、それはおめでとうございます!」


予想以上に成長しているのに驚いたのだ。


「あーあ、早く魔法をやりたいなあ」


マリは、アキラの方を流し目で見ながらつぶやいた。

アキラは、気持ち悪いと思ったけど、口に出しては言わなかった。


「なら午後からは、光のイメトレしたら?」

「えー、つまんない。ねえ、アキラといっしょにウォーターやらせて、やらせて」


マリがくねくねしながら、ぐいぐい迫ってくる。

「わ、わかったから、もう止めてええ」


アキラが悲鳴をあげた。


コンコン、ドアをノックする音が聞こえた。

「お食事をお持ちしました」


「どうぞ」


いつもの女性隊員が入ってきて、

「青春ですね」

と笑顔で出て行った。


オレの本当の青春を返せ!と心の中で叫ぶアキラだった。



午後、マリはアキラにくっ付いていた。


貯水槽に直接水を注ぐ。


マリはアキラの手に自分の手を載せて、

「ウォーター、 ウォーター、 ウォーター」

「ウォーター、 ウォーター、 ウォーター」


何度も唱えていて、うるさくてかなわなかった。


アキラは、恨めしそうな目でマリを睨んだ。


「な、なによ。雰囲気を出してあげてるのよ。それに、もしかしたら魔法も使えるかもよ」

マリは気まずさそうに、アキラを見た。


「なら杖を貸すから、やってみて」

アキラは杖をマリに差し出した。


マリは嬉しそうに杖を振りながら、

「 ウォーター」「 ウォーター 、ウオーター」「 ウーオーオーター」

などと叫びながらやっていたが、何も起こらなかった。


「アキラのバカ、意地悪!」

マリがしゃがみこんでしまった。


アキラは、はぁーっとため息交じりに、マリの頭を撫でながら謝った。

「ごめん、悪かった。オレの手を握って、光の線のイメトレしよう」


「青春っていいな」と後ろから聞こえた。


青春って疲れる、とアキラは思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る