第13話 今後の方針

田所がアキラの前にやってきて、頭を下げた。


「協力に感謝する。これで多くの命が救われる。本当にありがとう」


アキラに握手の手を差し出した。


「頭を上げてください。こんなときです、お互いに助け合うのは当然です」

アキラは、そう言って握手をした。


田所が去ったあと、目黒が近づいてきた。


「何度見ても、不思議だよな」

「ふふふ、すごいでしょう」


「しかし、どういう原理なんだい?」

「分っかりーませーん」



次は水出しのお仕事だ。


目の前に二十リットルのポリタンクが置かれる。それに水を注ぐ。満タンになると隊員が運んでいく。また目の前にポリタンクが置かれ、水を注いでいく。その繰り返しだ。水が出るたびに隊員が驚いたり、感心したり、唸ったりしていた。それを見るのは、結構面白くて飽きなかった。


「ウォーターって言わなくてもいいのかい?」

様子を見ていた目黒が、面白そうに言った。


「ええ、あれは特別サービスです。普通はしません」


「水や火以外の魔法も使えるのかな?」

「ひ・み・つ・です」


「あちゃー。高くつきそうだな。安月給の身には辛いところだ」

「まあ、そこは要相談ということで」


アキラは可愛らしくウィンクした。これでコスプレ衣装と尖がり帽子があれば魔法少女の完成なんだけどなあ、とアキラは少し残念に思った。


目黒がマリの方に近づき手招きした。


「ではマリ君いこうか」

「よろしくお願いします」


マリは頭を下げてから隊長に連れられて部屋を出ていった。よろしくお願いしますね、とアキラは心の中でつぶやきながら頭を下げた。



午前の仕事が終わって、アキラは部屋に戻っていた。


備え付けのユニットバスに魔法で水を貯め、ちょうど貯まったころに、マリが戻ってきた。


「おかえり」

「ただいま」


「どうだった?」

「別に、大したことはなかったわよ」


「そうか。お風呂に水を入れたから汗を流していいよ」

「ありがとう」


そう言って、マリはお風呂場に向かった。


実は、目黒にお願いして、マリに護身術と射撃を教えてもらうことにした。万が一単独行動になったとき、身を守れるようになっていて欲しかったからだ。マリは乗り気ではなかったが、なんとか説得して、しぶしぶ承諾させた。


マリが風呂場から出てきた。


「本当に良かったの?」

「何が?」


とぼけたふりをした。マリが言いたいことは分かっていたから。


「何がって、水魔法よ。まるで水を出すための道具みたいじゃない」

マリが少し怒ったように言った。


「それは昨日ちゃんと話したじゃないか」

「だって…アキラだけが苦労するなんて…」


「横浜に帰るためだ」


その時ドアをノックする音が聞こえた。


「昼食を持ってきました」


「どうぞ、入ってください」


若い女性隊員が入って来て

「30分後にまたに来ます」

と言って敬礼し出ていった。


「食料はまだ、あるみたいだね。よかった」

「そうらしいわね」


「それじゃ、いただこう」

「ええ、いただきましょう」


二人はゆっくりと食事をした。



午後から、またアキラは水出しのお仕事、マリは訓練だった。



夜の会議室に主要幹部が集まっていた。


「では報告を聞くとしよう」


田所が椅子に座り、会議が始まった。


「貯水率は六十%になりました。明日で百%になる予定です」


おおーーっと歓声が上がった。


「たった一日でか?これで水の心配がなくなった」


「水を作るための電気・燃料を他にまわせる」


田所がボソッと小さな声でつぶやいた。

「あの子らの貢献は計り知れないな」


「田中先生と市ヶ谷はどうかね?」

「とくに動きはありません」

「そうか」


全ての部門からの報告が終わったあと、田所が目黒を見た。

「目黒陸曹長、身体強化の報告を」


目黒は起立して、報告した。


「身体強化ですが、すべて部門で金メダリストのスコアを優に超えています。純粋な力勝負では、うちの隊員では歯が立ちません」


目黒が報告すると、「本当か」「信じられん」などと場がざわつく。


「静粛に」田所が場を鎮め。続きを促す。


「彼らの話によると、最大強化の1割とのこです」


「バカな!」場がどよめき、騒然となった。


ひとりの男が挙手した。

「目黒陸曹長、ここは報告の場です。不確かな情報は控えてください」


目黒が頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」


田所が口を開いた。

「目黒陸曹長、一度でいい最大強化を見せてくれるように頼んでみてはくれないかね?」

「誠意努力してみます」


目黒が着席すると、別の男がつぶやいた。

「そこまで頭を下げなくていいでしょうに」


田所がギロリと男を睨んだ。


「彼らは我らが保護すべき民間人、しかもたった16歳。その16歳に我々は救われたのだ。礼節をつくすのは当然ではないか。違うかね?」

「申し訳ありません」男は頭を下げた。


目黒が手を挙げた。


「他に何かあるのかね?言ってみなさい。」

田所が目黒の方を見た。


「はっ!魔石が大量に必要とのことであります。」


「分かった。彼らの要望は可能な限り受ける。必要な物があれば、他に何でも要請してくれたまえ。それから目黒陸曹長、君は明日から准陸尉に昇進だ。あの子たちの後見人になってくれ、頼んだよ。では、解散」


「ありがとうございます!」


ぞろぞろと人が出ていき、目黒が去ろうとしたとき田所が呼び止めた。


「目黒、ちょっといいか」

「はい、何ですか?」


「これから大変と思うが、あの子たちを守ってくれ」

「もちろんです」


しばらく沈黙が続いた。


「情けないものだね、十六歳の子供に頼らざるを得ないとは」

「彼らはもう立派な大人ですよ」


「ああ、そうか、そうだな。呼び止めてすまなかった」

「はっ!失礼いたします」


誰もいなくなった会議室で、田所はじっと天井を見つづけていた。



「目黒隊長、お疲れ様です。会議はどうでした?」

「お偉いさんばかりだから疲れるよ」


「あの子たちはこれからどうなるんですか?」

「どうもならないさ。でも…必ず守る」


「おお、隊長どうしたんです?まさかロリコンに目覚めたんですか?奥さんに叱られますよ」

「あの子たちの後見人に指名されたんだよ。明日から准陸尉だ」


「おめでとうございます!」


目黒と部下は朗らかに笑いながら廊下を歩いて行った。

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