第3話 ダンジョン討伐前

翌日、アキラとマリ、そして両親はテレビ局に招かれた。学校と両親の会社には、政府から欠席届が出されていた。


マリの父は、心配そうにマリを見た。

「マリ、今からでも断っていいんだよ。父さんのことは心配しなくていいから」


マリは笑顔できっぱりと返事をした。

「もう決めたから」


マリの母がため息をつく。

「やっぱり心配だわ。アキラ君、マリのことお願いね」


アキラは力強く返事をした。

「はい」



「衣装合わせを始めます」

スタッフの合図とともに専属のデザイナーが動き出した。部屋にはいろんなサイズ、デザインの学生服がたくさん並んでいた。採寸のあと、次から次へと服を着せられ、スタッフの意見が飛び交う。


テレビ局とモデル事務所の社長が両親のところにきた。

「こちらが契約書です。後ほどサインをお願いします」

契約書を広げ、説明が始まった。


「今から撮影を行います」

隣の部屋に案内された。テレビ局のスタッフが忙しく走り回っていた。


「化粧をしますね」

「オレもですか?」

アキラがキョトンとした顔をした。

「君は、まず髪の方から整えようか」


テレビ番組の告知の撮影が始まった。マリがいろんなポーズをとる。パシャパシャとフラッシュが光る。


「はい、次はくるっと廻って、そう笑顔でこっちを向いて」


長い金髪がゆれ、白くスラリとした脚がスカートから伸び、優雅に手でポーズを決める。碧い瞳と長い睫毛でウィンクすると、ほぉーと、どこからともなくため息がもれた。まるでプロのモデルだ。誰もが見とれていた。


「マリちゃん、ますます美人になったわね」

アキラの母が褒めた。


「あら、アキラ君も素敵じゃない?」

マリの母が褒めた。


次はアキラの番だった。


「はい、笑って。うーん、まだ硬いな。ほら、リラックス、リラックス」

アキラはガチガチで、作り笑いをしながら必死になっていた。


「もう、うちの子は、どうしてこんなにドンくさいのかしら」

はぁとため息混じりにアキラの母は父を見る。


「おまえの息子でもあるんだぞ」

アキラの父もため息交じりでアキラを見た。


「次は二人で並んで」


マリがアキラの腕をつかんだ。上目使いの笑顔でアキラを覗く。アキラはドキッとした。

「お、いいねえ。さすが幼馴染だ。君も笑顔、笑顔。そう、そう、なかなか似合ってるよ」



「これで撮影を終わります。ご苦労様でした」


「はぁ、疲れた。もうやだ」

アキラは椅子にどかっと座った。


「アキラったら、緊張しすぎ」

マリは笑っていた。


「マリは凄いな」

「フフフ、驚いた?」


マリはアキラの目の前でクルっと一回転してみせた。スカートがふわりとめくれ上がった。すかさずスカートを抑え、顔を赤らめた。


「見、見たわね」

「見、見てないよ」


アキラも顔を赤らめていた。


「アキラのバカ」

マリがアキラの両頬をつねった。


「いてて、オレのせいじゃないだろ」


「青春してるねえ」

どこからか声が聞こえた。


これが青春というやつか、小さくアキラはつぶやいた。


「何か言った?」


マリがプリっと頬を膨らませた。今日のマリはコロコロと表情が変わった。こんなマリを見たのは、久しぶりだった。さっきまでの疲れも吹き飛んだ気がした。


その夜、「ダンジョン討伐ゴー!」の特別告知が放送された。十六歳の少年少女が参加する、しかも二日後に。放送されるや否や、ネットでは大論争が巻き起こった。別のところでは、金髪美少女と幼馴染のことで話題沸騰していた。


翌日早朝、家の前には報道陣が押しかけていた。二人と両親たちは迎えに来たリムジンに乗り込み、市ヶ谷の自衛隊基地に向かった。ここはダンジョン討伐隊の訓練施設にもなっていたのだ。


ダンジョン討伐隊の社長が両親のもとへやってきた。


「報道陣がお騒がせして申し訳ありません。本日は当方でホテルを用意させております。明日はホテルから直接会場へご案内しますのでご安心ください」


「こちらが契約書です。後ほどサインをお願いします」

契約書を渡し、内容の説明を始めた。



「君たちは、こちらに」

アキラとマリは別室へと案内された。マリは朝早く起こされ、報道陣にもみくちゃにされて既に疲れていた。


「早く帰りたい」

「始まったばかりじゃん」


マリはげんなりしていたが、アキラは実際の訓練が見られることに興奮していた。


ビデオを観ながら討伐について講義が開始された。アキラはワクワクしながら観ていた。それを見て、マリは無性に腹立たしくなった。


アキラの手を思いっきりつねった。


「いて、なにすんだよ?」

アキラが驚いてマリを見た。


「あんたのせいなんだから」

「はいい?」


マリはそっぽを向いた。


ごほん、咳払いが聞こえた。

「ここでは、青春は控えるように」


ええ、これは青春じゃないだろう?アキラは納得がいかなかった。


その後、射撃場に連れていかれた。銃の取り扱い方の説明を受け、実際に撃つ訓練になったとき、アキラの興奮は最高潮に達した。マリの気分は最低で、嫌々ながら従った。


アキラが的を狙って何発も撃つ。生き生きと楽しそうに撃っている。


断ればよかった。こいつのせいで、こんなことになったのだ。マリは許せない気がしてきた。


ゆっくり銃口をアキラに向けた。辺りが一瞬凍り付く。異様な気配にアキラはマリの方をちらと見て、冷汗がでた。


教官がゆっくりとマリの銃を取り上げた。

「それは青春ではないよ」


ちょっと待て!そんな話じゃないだろう、アキラは憤然とした。


全ての工程が終わり、最後に司令官らしき男がやってきた。


「明日の討伐には優秀な者が選ばれております。我々自衛隊も外で待機しておりますので、どうかご安心ください」

そう両親たちに挨拶し、去っていった。


そしてリムジンに乗り込んだ。到着したのは超一流ホテルだった。


最上階のラウンジに案内された。

「本日はこちらにお泊りください。外にはお出にならないようお願い申し上げます」

さすがVIPルームだ。その豪華さに家族一同目を真ん丸にしていた。


「すごーい。東京が丸見えよ。横浜のお家はあっちかな?」

マリはきゃっきゃと騒いでいる。機嫌が治ってよかったとアキラは思った。


下には都庁広場が見えた。会場設置が進められている。明日はいよいよダンジョン討伐だ。アキラは武者震いした。

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