第2話 ダンジョン討伐ゴー!

日本だけでも一万個以上のダンジョンがあり、自衛隊だけでは対処しきれなかった。そこで政府は民間企業でもダンジョン内限定で銃火器を使用可能とする法律を可決した。こうして「ダンジョン討伐隊」が誕生した。


隊員を募集するために「ダンジョン討伐ゴー!」という番組が毎週放送されるようになった。

注目度を上げるため毎回タレント、歌手、芸能人、有名人に参加してもらった。魔物を倒し、魔石をゲットすると参加者が勝鬨かちどきを上げ、その安全性と高収入をアピールする、という流れだ。

「ダンジョン討伐ゴー!」は大人気となり、多くの討伐隊が生まれた。しかし足りなかった。当初年齢制限が二十歳歳だったが、すぐに十八歳になった。それでも足りなかったので十六歳に引き下げようと政府は画策していた。


アキラは「ダンジョン討伐ゴー!」の大ファンだった。

毎週欠かさず観るし、録画して何回も観返していた。今も観ていた。


父が母に向かって尋ねた。

「西園寺さんのところは何かあったのか?今日も会ってたんだろう?」


今度は母がアキラに尋ねた。

「お昼いっしょに食事をしたけど、とくに何も。アキラはマリちゃんから何か聞いてないの?」


アキラは「ダンジョン討伐ゴー!」を観ながら答えた。

「別に何も」


「心配だわ。明日聞いてみるわね」

母はそう言って夕食のあと片付けをした。


アキラも隣が気にはなったが、今は「ダンジョン討伐ゴー!」に夢中になっていた。


危険と隣合わせだが富と名誉が得られる。これぞ漢のロマンだ。ダンジョンの最深部にはダンジョン・コアがあるらしい。それはどんな姿をしているのだろうか?想像するだけでワクワクしてきた。

高校を卒業したら、絶対ダンジョン討伐隊に入ろうと決めていた。そして、そのときマリに告白しようと考えていた。


マリの家を訪れたのは、テレビ局の社長、モデル事務所の社長、国会議員、ダンジョン討伐隊のスポンサー企業の社長、父の会社の社長など錚々そうそうたる顔ぶれだった。

今回の企画は十六歳の少年少女を参加させても安全であることをアピールするものだった。成功すれば、マリはタレント、モデルとして華々しくデビューを飾り、テレビ局もバックアップするので将来は約束されたようなものだ。


「娘と相談しますので、明日まで待ってください」

マリの父はそう言って、関係者に帰ってもらった。


「マリ、話があるので降りてきなさい」



翌日マリは、朝早くからアキラの家の玄関でアキラが出てくるのを待っていた。


「いってきまーす」

アキラがドアを開けると、マリが立っていた。


「うわ、脅かすなよ」

「おはよう、アキラ」


「どうしたんだよ、こんなに早く」

「うん、ちょっとね」


マリが歩き出した。アキラが後ろからついていく。いつもならマリの方から話しかけてくる。アキラには、どうでも良いような話ばかりで、最近それが鬱陶しかった。しかし今日は沈黙が続いた。


アキラが痺れを切らした。

「昨日の夜、何かあったのか?」


あの物々しい数の車のことが思い出された。


「あのね。「ダンジョン討伐ゴー!」っていう番組に出てほしいって」


それを聞いて、アキラはビックリした。


マリは悩んでいた。アキラが反対したら断わろうと思っていた。


「凄いじゃないか!」

アキラが大声でマリに迫って、肩をつかんできた。

「羨ましい。オレも出たい」


マリは、その言葉にビックリした。そして怒りが込み上げてきた。


「私のことは、心配じゃないの?」


マリは思わずアキラの顔面に平手打ちをくらわせてしまった。しまったと思ったけど後の祭りだ。


「アキラのバカ!」


大声で叫び、走っていった。


アキラは無言でうつむいていたが、やがてとぼとぼと歩きだした。


アキラが校門に入ると、同級生がやってきてた。


「アキラ、左の頬ぶたれたのか?すごく腫れてるけど大丈夫か」

何かを察して、同情の眼差しでアキラを見た。


「さっきマリにぶたれた。ひどいと思わないか」


それからアキラはぶたれるまでの経緯を話して聞かせた。


「それはアキラが悪い」

「えええ、そうなのか?」


同級生は、アキラの鈍感ぶりに呆れて、


「女の子が魔物討伐なんて、好きなわけないだろう。おまえに止めて欲しかったんだよ。アキラの気持ちも分かるけど、ここは謝ったほうがいい。」


とアドバイスした。アキラは左の頬を触って、まだ納得しきれてなかったけど、一応謝ろうと考えた。



マリが教室でひとり沈んでいると、同級生がやってきた。


「九条君とまたケンカしたの?」

「あんな奴ことなんか、もう知らない」


マリはプリっと怒りながら、そっぽを向いた。


「そんなこと言ってると、ほかの子に取られるかもよ?」


マリはグワッと振り向いた。

「あ、あんな奴、あんな奴なんか・・・」


マリはだんだん泣きそうになっていた。

それを見た同級生はマリに尋ねた。


「これは重症ね。何かあったの?」

「じつはね・・・」


マリは先ほどの事を説明した。


同級生は、憤慨していた。

「ほんと、男ってデリカシーにかけるわね。断れば?」


マリはまだ決めかねていた。

「でも、パパの仕事のこともあるし・・・」


「なら、こういうのは、どう?」

同級生はマリの耳元でささやいた。


昼休み、アキラは例のごとくダンジョン討伐隊を眺めていた。

マリが後ろから近づいてきたが、アキラは無言だった。


「さっきは、ごめんなさい」


アキラは振り返らず答えた。

「オレも悪かった」


「そんなに好きなの?あれが」

「うん」


マリは、アキラとダンジョンを見比べていた。

「アキラも参加できるように頼んであげようか?」


アキラが満面の笑顔で振り向いた。

「ほ、ほんとか!嘘じゃないよな?」


思わずドキッとしてしまった。アキラのこんな笑顔を見たのはいつぶりだろうか?


「そのかわり、わたしのお願い聞いてくれる?」

「おう、なんでも聞くよ。」

「約束よ。」


二人は並んで校舎のほうに歩いて行った。

アキラは、仲直りでき、「ダンジョン討伐ゴー!」にも出れることになり、天にも昇るほど歓喜していた。

マリは、どんなお願いをしようか悩み、いっぱいお願いしてやるんだからと胸を躍らせていた。


その夜、アキラも参加することを条件に承諾したのだった。

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