第4話 新宿一番ダンジョン
アキラとマリは新宿一番ダンジョンの前にいる。新宿には百三十四個のダンジョンがあり、都庁前の広場にあるのが新宿一番ダンジョンである。
十六歳の高校一年生が二名参加することが告知されていたので、都庁前は報道陣や観客で混雑し、まるでお祭りのようだった。
広場の中心には討伐隊、アキラとマリ、撮影隊、救護班、さらにスポンサー企業の社長や国会議員も来ていた。両親もいた。その外には自衛隊が待機していた。
アキラとマリは用意された服を着ていた。高校生であることを強調するため、制服に似せた作りにはなっていたが、マリの美貌を際立たせるようなオーダーメードの服だった。
長い金髪とスカートを風になびかせながら、スラっとした長く白い脚で歩き、
アキラはやっぱり緊張してガチガチだった。こんなに大勢の人に囲まれ注目されるのは生まれて初めてだったからだ。しかし、討伐隊の人たちに紹介され、記念撮影をしたり、話を聞いたりしているうちに、緊張は解けていった。
アキラが笑顔でマリに手を振る。そんなアキラを見たマリは無性に嬉しくなり、アキラの腕に抱きついた。すると、女子から「キャー!」という黄色い歓声が上がり、同時に野郎どもから「くそ!」「離れろ!」などのヤジが飛んだ。二人は一瞬驚いたが、すぐに笑顔に戻った。
「来てよかった」
二人が同時に小さくつぶやいた。
「全員集合!」
隊長が号令をかける。討伐隊、撮影隊、そしてアキラとマリがダンジョンの前に集まる。いよいよダンジョンに突入だ。安全だと分かっていても緊張した。
女性隊員がアキラの肩を軽くたたいた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
隊長がウィンクしながら二人を励ました。
「高校生諸君!笑顔だ、笑顔!手を振って挨拶しな!」
「はい。…行ってきます!」
二人は目の前にいる両親たちに大きく手を振って歩き出した。
「ダンジョン討伐ゴー!」
隊長が右手を上げ掛け声をかけダンジョンに入っていくと、観衆から歓声と拍手が沸き上がった。
「おう!」
隊員達が呼応しながら入っていく。
そしてアキラ、マリ、撮影隊が入っていった。ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、引き込まれた。周りが光に包まれていたが、それも一瞬のことだった。気がついたら第一層にいた。
「隊長さん、あの掛け声は、ちょっと恥ずかしくないんですか?」
アキラは笑いを堪えながら尋ねた。
「恥ずかしいにきまってるだろうが!上からの命令だから仕方なくやってんだからな」
隊員がどっと笑う。
「おまえ入隊希望なんだってな?なら入隊したらおまえにやらせてやるよ」
「ええ、それはちょっと… 」
先ほどの女性隊員がアキラにウィンクした。
「隊長、いじめちゃったら、せっかくの入隊希望者が逃げちゃいますよ」
「嫁にも娘にも笑われてるんだぞ、こっちの身にもなれよ!」
さらに笑い声が増えた。
マリがじと目で睨んできた。
「随分と楽しそうね」
オレ、悪いこと何もしてないよな?アキラは納得いかなかった。
ダンジョンの部屋はどれも半球体状のドームのような部屋になっているらしい。床、壁、天井すべてが薄く光っていて、明かりがなくても見える。直径百メートルほどの半球体状の空間で、継ぎ目のない壁が周りを覆っていた。一見するとコンクリートでできているように見えるが、実際は未知の物質らしい。
ここの第一層目の魔物は小さなネズミだ。地球上のネズミとほぼ同じ大きさで、強さも同じらしい。ただ、全身が黒く、額に黒い魔石があり、目が赤く異様に光っていて、すぐ攻撃してくる。リポップ時間は六時間。今回は高校生がいるので一時間前に討伐済みだった。
マリは離れたところでモデル撮影をしていた。
アキラはダンジョン内をじっくり観察していた。壁には四個の門が均等に配置されていて、一つだけ光っていない門があり、それが帰還用の門だ。それ以外の三個は第二層に繋がっている。つまり第二層は三個の部屋があるということだ。そして第一層と同じような構造になっている。
門をまじまじと見ていたら、さきほどの女性隊員がアキラに近づいてきて声をかけてきた。
「初めてダンジョンに入った感想はいかがかしら?」
「あんなに薄いのに、中にはこんな広い空間があるなんて、ほんと不思議ですね」
アキラは目を輝かせながら答えた。
「私も初めて入ったときは同じことを思ったわ。ふふふ、まるでアニメか映画の世界よね」
そして第二層について質問していたが、女性なのに怖くないのだろうか?そう思ったアキラは、ちょっと戸惑いながら尋ねた。
「どうして入隊したんですか?あっ、
少し間を開けて、彼女が答えた。
「こいつをぶっ放すのが快感でね。ふふふ」
銃に頬を摺り寄せながら、うっすらと、笑っていた。
うわーー、この人ヤバい!ど、どうしよう。
アキラが顔を引きつらせていると、急にお尻を蹴られた。
「痛てー、何するんだ!マリ!」
「もう集合の時間よ!早くしないと置いてかれるわよ」
「あらあら、青春してるわねえ」
女性隊員はそう言い残すと、さっと離れていった。
こんな青春、嫌だ、とアキラは思い、
目を離すとすぐ鼻の下を伸ばすんだからと、マリは冷たい目で睨んだ。
アキラは、マリに引っ張られて集合場所に連れていかれたのだった。
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