すごい話だ

@DojoKota

第1話

色々な人々の中の私。泥を食べてたのだろうか。泥だらけだらけである〈私〉の口の中の話である。「すべて」について考えていた。バス停留所はそういうことを考えるのにうってつけだ。しかしながら、私は駅の電車の出入りする場所に立って本を読んでいる最中であった。〈私〉の口の中は泥だらけであるのであるが。泥だらけだらけだらけ。くらげが泳いでいた。と思ったら透明人間がカツラを被って出歩いているだけであった。空気中にくらげが泳いでいるのかと思ったが透明人間のファッションが流行し始めている最中の秋ごろであるらしかった。などと、読んでいる本の内容と目の端に映る人々の風景とをごちゃまぜにして私はただ黙然と描写するのであった。描写だ。描写。描いている。言葉によって。言葉だったな。これは。などとおもったりした。バスがやってきた。バスがやってきた。すべての日本人がそのバスに乗車して行った。そしてそのバスは、運転を再開して道路の上を走って行った。駅のホームから見えるバスのロータリーを私は凝っと眺めていた。そしたら、そのような光景が広がっていた。バスは道路の上を走って行ったので、もうあたりには人間がいなくなっていた。それは、すごい光景であった。電車がやってきた。ので、私は乗るんだ。電車に乗った。電車はAIで運転されていたので人間が運転していなくても動くのだった。あのバスは一体どこへ向かっていくのだろうか、と私は考えるでもなく考えないでいたところふっと思い至った。すごいところへ、向かっているのだ、ろう、なあ、とあのバスは、きっと、すごいところに向かっているのだろう、と私には、「わかった」思わず声に出しているほどであったけれども、さあいっぺんに手持ち鞄を投げ捨てたところ、私はどさりと電車の中のソファはないんだけど座席にどかりと横になって空を見上げようとしたら天井に吊り革広告がぶら下がっているので揺れていた。「すべての日本人へ」私はとりあえずことばにしてみた。沁みた。言葉が心に沁みた。「すべての日本人へ、かあ、しみじみ」と私は思ったんだ。思ったことを言っていた。思ったことを言ってみたら言ってみたことが文字になって書かれていた。私は私の手帳を開いていた。手帳に私の指先が文字を書いていた。「珈琲を飲みたい」と私は喋っているのやら思っているのやら書いているのやらわからんわなあ、と思った。電車が走っている。風景を見つめようと思って座席にしがみついた。座席と座席の間から風景が見えた。窓ガラスが全て破られていた。風が、とても、吹いていた。街は、ずっと、線路だった。なので、線路が街を、ずっと走っていた。もう、誰もいなさそうな街であった。豆腐ビルとでも名付けたら良さそうなほどであった。こんな世界に誰がした、などと思わなくもないわけではなく思わなかったので雲が浮かんでいたのでそれを眺めていた。雲が、動いていた。風が、吹いていた。雪が降っているわけではないんだけれども、すごく、雪、みたいな雲だった。手を伸ばせばさわれそうな気分になる時がある雲とか遠くにある建物とかに。その時に感じられるのか臨在するのか立ち現れるのかわからない性質の質感がぐわっととてもある雲で、しかもその雲にもしも触ったならば、とても冷たいとても巨大な雪の塊のようだ、と感じる私だった。私は指を伸ばした。私の指が伸びた。風が掻い潜った。風が青くなっていた。風が私の指をまだらに青くゆらゆらと染めた。しかし、雲は掴めないようだった。すごい雲である。なぜ掴めないのかといえば、遠いからである。なぜ遠いのかといえば、遠心力である。地球が回転していると、雲が延伸力で凧揚げ的に空に舞い上がるのだ。理科の授業を一度だけ受けたことがあり、そういうことには私は、「詳しいんだ」と呟いた。駅に電車が止まった。駅のホームには、人間が立っていた。人間が乗り込んできた。なんでやねん、と思った。なんでやねんねんねんねん、と思った。「こんにちは」とカマキリに似た少女が呟いた。俺は思わず「ああ」と言った。少女は私改ていえば俺の隣に座った。どう言うことだ。ドキドキした。お前は誰だ、など思わなくもなかったが、もしかしたら、俺の知り合いかもしれない、と思っていたらどうやら知り合いだった。「えへへ」と少女が笑ったのである。ああ、これは間違いなく、見知った仲なのであろう。「私たちは爆弾である。しかし、旅の途上である」と少女が言った。「はい、そうですか」などと俺が答えていると、「この時を待っていたんだ」だって、少女が言った。すごい話だ。

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