データ放送
その晩、タンバさんは適当なポッドキャストを聞きながら寝ていた。目が開くが、金縛り状態で目が覚めた。動くことが出来ず布団に寝たままスピーカーに耳を澄ませた。ノイズがザーザーと鳴っていると思ったのだが、よく考えるとアナログのラジオならともかく、WEBのストリーミングで放送がノイズになる事はおかしい。放送が終了したなら無音になるか次の番組に行くはずだ。
おかしいなとは思いつつ、今の金縛りの方が問題だと思っていると、ポッドキャストを流していたスマートスピーカーから音声が流れてきた。
『この放送はデータを音声に変換してお送りしています』
はて? いつの時代だろうか? 今時音声回線を使ってデータを流すようなことをする好事家がいるとでもいうのだろうか? そりゃあ昔はラジオ放送にデータを載せていた時代があったことも知っている。しかしこの時代、しかもWEBを通じて流しているのだからデータならそのままサーバに置いてダウンロードさせれば良いじゃあないか。
何故わざわざそんな回りくどいことをしているのか疑問に思っているうちに少しだけ頭が動いた。時計を見ると深夜二時を指しており、丑三つ時頃だろうかと思っていたら記憶が無くなった。
そのまま目が覚めると昨日のことが夢だったのかは分からない、ただ、時刻だけははっきり覚えていたので今週も流れるなら録音してみようと思った。
休日にジャンクショップに向かい、モノラルのカセットレコーダーを探し、動作するものを買うと、それとまだ未開封のカセットを一つ買って帰った。
一週間後の深夜、録音の準備をして寝たところ、目が覚めたときにはしっかりカセットは半分くらいまで回っていた。上手く録れているといいのだがと思いつつ再生をしてみた。この前のザザーというノイズの後に『この番組はデータを音声に載せています』と放送終了の音声まで入っていた。
それを昔の技術を使って音声からデータ化すると、予想外なことにそれはバイナリではなくテキストだった。ひとまず記録したdata.txtをメモ帳で開く、そこで背筋に氷柱を差し込まれたような気分になった。そこには録音データ全てを使って呪詛の言葉が入っていた。タンバさんも呪いなどに詳しいわけではない。ただ、それでも所々に『呪』『殺』『怨』という文字は読むことが出来た。不気味でしかないのだが、どうしたものか分からない。テープの方はゴミ捨て場に捨ててデータの方をどうするか考えた。
むろんこの不気味なデータを残しておくことも出来る。ただ、これを残しておくとなんだか良くないことが起きるような気がしたので、そのテキストファイルを暗号化してクラウドに放り込んでおいた。ローカルからは削除したのできっと問題はない、そう思うことにした。
「それから何かありましたか?」
私の問いに曖昧に頷いたタンバさんは、『しばらく後にネットで通信障害が出たことくらいです』と言った。
なお、そのデータを受信したポッドキャストは結局それ以来どこかで聞くことは出来なかった。
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