光るもの
タナベさんは子供の頃、不思議なものが見えたという。霊的なものかは分からないが、あまり良いものだとは思えないそうだ。
「なんともねえ……それ自体に実害が合ったわけではないんですが……」
彼の話が始まる。
「始めは……ええっと……たしか小学生で低学年だった頃でしたか、ちょっと一年か二年かまでは覚えてないんですけどそのときに初めて見えたんです」
その日、家の中で宿題をしていたときのことでした。目がかゆくて少し痛みもあったんです。そこで目を擦ったんですが、目を開けると小さな光りがいくつか蛍のように自分のまわりを浮いていたんです。
それが見えて翌日のことでした。当時の私には家族が黒い服を着ているなあなんて思っていたんです。留守番を言いつけられ両親そろって出て行き、帰ってきたのは随分後でした。当時は何かあったのかなと思ったんですが、アレは葬式ですよねえ……
そんなことさえ分からなかったんですけど、その後祖父に会っていないのでたぶん祖父の葬儀だったんでしょう。詳しいことは聞きませんでしたがね。
なんとなくなんですが、あの光点を話してはいけないような気がしたんです。見えてはいけないものだと理屈ではなく直感で思ったんですよ。それから小学校を卒業するまで数回見てしまったんですが、毎回喪服を着ていた両親を見て、当時は『これが見えると黒い服を着なきゃならないのかな?』くらいに思ってました。
アレは言わないだけで大人にも見えているんじゃないかと思ったんですけど、そんな感じは全くしないのでたぶん見えていなかったんでしょう。家系的なものではなさそうなんですよね。
それが小学校を卒業してからすっかり見えなくなりました。中学からは制服で葬儀に参加させられるようになりましたが、前触れみたいなものは見えなくなったんですよ。
たぶんそれで良かったんだと思うんです。いまあんなものが見えていたらとんでもないことになったと思いますよ。ただ、一度だけわずかにその力が復活したことがあるんです。
そのときはパワハラ上司に詰められていたんですが、そこでフワッと浮かぶ光が見えたんです。これは……と思っていたらバインダーが飛んできました。真面目に話を聞けと言われ、一応聞いていたんですが、誰に何があるのかまでは分かりませんでした。
結局、その上司が急死したんですよ。パワハラが好きな上司だなって思ってはいたんですけど、どうやら自分も若い頃に随分そういう働き方をしていたらしく、自分も同じ生活をしたので、その結果不摂生が祟ったようですね。
喜びはしませんよ。上司がたとえどんなものであれ、人が死ぬというのは悲しいものです。ただ、それで完全に力が無くなったのか、それ以降は全く見えなくなりました。たぶんそれでいいんだろうとは思うんです。
彼の周囲では今でも葬儀はあるそうだが、その前兆が見えることは全く無くなったそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます