曰く付きトンネルと霊
ヨシキさんが大学生だった頃の話、地方の大学に通っていた彼は仲間を集めて酒盛りをしていた。
当時の大学生の酒盛りに加減などあるはずもなく、男友達だけしか集められなかったので『つまんねー』なんて言いながら全員がゴクゴクと酒を勢いよく飲み干していた。
曜日は金曜、翌日のことを考えなくていい連中だけでの集まりは、それはもうひどい酔っぱらいの集まりになった。
しかも、加減をして女を乗せようなんて目的もないため、ただ酒を潰れるまで飲むという飲み会になっていた。
いい加減眠気が来そうになったところで、ここが地元の一人が言い始めた。
「なあ、この辺に幽霊が出るって評判のトンネルがあるんだがいかね?」
退屈をしていた酔っぱらいたちには渡りに船の提案だった。
「途中で女がいねーかな」
「吊り橋効果ってヤツ?」
「そーそー、なんかよさそうじゃん?」
そんな馬鹿馬鹿しい言葉をあげながら全員でアパートを出てその友人の案内の通りに幽霊トンネルまで向かった。夜風は涼しかったので多少酔いが覚めてしまった。そこで近くにあったコンビニに寄り、トイレを借りてからそれぞれ一本ずつ酒を買って店を出た。まだ店外にゴミ箱があった頃で、全員プルタブを開けて一気に飲み干しゴミ箱に空き缶を捨てた。
そうして景気づけをしてトンネルについた。そこは真っ暗なトンネルで、携帯電話を持ってきていたヤツがLEDを光らせて中を照らした。真っ暗で清潔とは言い難いが歩けないことはなさそうだ。
全員並んでトンネルの中を進んでいく。車が通るものではないので精々すれ違うのも自転車くらいの狭さだ。そこを少し歩くと明かりが見えてきた。そこに全員で行くと、隣の町の出口が見えた。何もおかしなことは起きず、ただ隣町に着いただけだった。
その場の全員が期待外れだという顔をしたが、ヨシキさんは『まだ帰りがあんだろ? 何かあるかもよ?』と何も起きないだろうことを理解しつつ場を盛り上げてトンネルを帰っていった。
当然と言ってしまえば当然なのだが、何かあったわけでもないトンネルに幽霊など出ず、トンネルを何もなく抜けると、街灯の下に集まって、全員が服に手形くらい付いてないかと確認したのだが、そんなものはどこにもなかった。
期待外れだったな、などと言いつつ帰ろうとした。そのときにあることに気がついた。
「なあ、あの辺にコンビニがなかったか?」
「ん? ああ、酒買ったとこか」
「そういやあったな」
しかしそこは完全に駐車場になっており、コンビニは影も形も無い。そこで地元のヤツが言う。
「何言ってんだよ、こんな隅っこにコンビニなんて建てるか? コンビニなら町中にあるだろ」
それはごもっとも。ここから先にはトンネルくらいしか無い。では一体自分たちは何を見たのだろう?
「酒……買ったよな?」
「買ったろ……」
「俺……飲んじまったよ」
全員が恐ろしいものを見てしまったように固まった。しかし幽霊がいたわけでもないので帰宅した。
その翌日、酒に強いヤツまであり得ないほどの悪酔いをして一日ロクに動けなかった。一日ひどい目に遭ったのだが、一体何を飲んで酔ったのかさっぱり分からないそうだ。二日酔いした中には、今まで大量に飲んでも二日酔いなど経験が無いと公言していたヤツも酔っていた。一体どんな酒を飲んだのか、あのコンビニで買った銘柄だけは思い出すことが無かった。
結局、トンネルでは無くコンビニの幽霊を体験した話だそうだ。
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