噛み合わない二人
アユムさんはゲーム制作を趣味にしているそうだが『やっぱ一人で作った方が楽ですよ』と言う。彼は絵も音楽もシナリオもスキルが高いわけではないが、少なくとも人の軋轢がないので気楽なものだと言う。
「いやぁ、始めはサークルでやってたんですけどね、揉めに揉めて下手をしたら流血沙汰になりそうだったので解散したんですよ」
彼は気楽にそう言う。その理由というのが何とも悲惨なものだった。
プログラム担当でプログラムを書くのとシナリオの書いてきた分をスクリプトにするのが役目だった。ゲームエンジンなんて便利なものは無く、一応ノベルゲームエンジンはあったが、ライセンス関係が何かと面倒なものだった。
そこでスクリプトエンジンを作ればタダだろうと、フリーのライブラリを使って軽く作って、それを拡張していった。
それに伴いサークル化し、シナリオ担当と音楽担当、グラフィック担当が集まり当時の制作体制となった。
意外と簡単に人数が集まったので皆でああでもないこうでもないとゲーム談義をしたりしながらゲーム制作は進んでいった。そのときグラフィック担当にはシナリオ担当と、どのようなグラフィックが必要かすりあわせてもらっていた。
制作もいい感じに進んでおり、シナリオ担当がこういう演出が欲しいと相談してきたので実装しておくと言い、ソースコードに手を入れているときに連絡が来た。どうやらグラフィック担当とシナリオ担当が揉めていると音楽担当が困り果てて全員をボイスチャットに呼んだらしい。
ボイスチャットに入ると、文字以上に炎上しており『言われたとおりに書いた』『そんなわけないだろ』という応酬が繰り広げられていた。どちらも落ち着かせて話を聞くと、今回は学園ラブコメで行こうと話が決まっていたのに、グラフィック担当がキスシーンに廊下の角から見ている男を描いていたり、手を繋いで歩くデートシーンに刃物を持って歩くチンピラが後ろの方で描かれていたらしい。
しかし問題は、二人の担当の話し合いをボイスチャットに任せていたことだ。どちらも指示はきちんとしたといっているのだが、ログが残っていないので二人がどんな話し合いをしたのかが不明だ。
一応シナリオから考えるにその画像はラブコメに似つかわしくないのでグラフィック担当が間違っているような気がするが、何か行き違いがあったのかもしれない。二人に念入りに話を聞くと、昨日の深夜に書き足してくれとシナリオ担当がボイスチャットをしてきたらしい。そんなものが必要なのかと思ったのだが、ここまで急いで言うのだから必要なのだろうと思い大急ぎでレイヤーを一つ足して書き足したそうだ。
しかしシナリオからは、昨日はデスマーチだったので夜はずっと寝ていた、そんな指示は出していないと言い張る。
結局それが原因でサークルは揉めて瓦解をしてしまった。
何故そんな奇妙な現象が起きたのかは不明だが、シナリオ担当にそんな悪意があるとは思えないので不幸な事故だと思っている。
「これが一連の出来事で、それ以来個人制作をしているんですよ。今じゃ無料で使えるゲームエンジンもありますしね、気楽なものです」
彼は苦笑いしながら言うが、やはりどこか寂しそうな顔をしていたような気がした。
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