写真の女
ミカミさんはその晩、高速道路を結構なスピードで飛ばしていた。時間ばかりかかる出張が終わり、一刻も早く自宅に帰り酒を浴びるように飲みたかった。今回は顧客が無茶な要求を平気でしてくる連中だったのでそのくらいは許されるべきだと考えていた。
ガソリンが減ろうとコーポレートカードでガソリンを入れられるので、燃費など無視してアクセルを踏み込み車を飛ばす。高速を降りるとイライラしながら信号を待ちつつようやく会社に社用車を返すとさっさと帰宅した。
帰ったら酒の缶のプルタブを開けてごくごく飲む。五百ミリの缶なので一気に酔いが回る。二三本飲んだところで疲れていたせいもあるのだろう、気絶するように寝てしまった。
気が付いたら目が覚めたのは部屋の床、ひんやりした感触が床から体に伝わってくる。起き上がると頭がズキズキ痛むのでアスピリンを一錠飲んで出社した。
それから数日は平和な業務が続いたのだが、あるところで上司から呼び出された。どこか不機嫌そうにしていたので何かお説教かと思いながらいやいや向かった。
呼び出された会議室では自分の上長が不機嫌そうな顔をしており、席に着くなり一枚の写真を差し出された。
「これに写っているのはお前で間違いないな?」
萎縮するような不機嫌さを感じる声だったが、写真を見るとモノクロで社用車が写っている。ああ、オービスに引っかかったのかと後悔しながら上長の言葉を肯定した。
「まあお前も面倒な仕事をやらされて機嫌が悪かったのは分かる。そりゃスピードも出るだろう、で、お前は何故女を連れているんだ?」
意味が分からずキョトンとしていると、コンコンと写真の助手席の部分を指で叩かれた。そこに目をやると、影の薄い女に見えるものが確かに写っていた。
「いや、スピード違反は謝りますけど女は連れていませんよ! 信じてください!」
上長はその言葉を聞いて頷いてから言う。
「女は連れていないんだな? わかった、ならそれでいい。ただ、お前はもうここへの出張は無いからな」
怒っているのとは少し違う。呆れというか諦めというか、残念そうな声をしてそう言う。
「たまにな、あの地方に行かせると妙なヤツを連れてくるヤツがいるんだ。だからお前はあそこに行くな、これ以上あの車に乗せられても困る。後午後は有休を取って置いたのでここに行け、話は付けてある」
そうして部屋から出され、上長に言われた地図の場所に行くと、そこには立派な神社があった。鳥居をくぐると少し体が軽くなった。そして神主が自分を見るなりすぐに来て、『○○社の人ですね、話は伺っております』と言われ、案内されるままに行くと、お祓いを受けて、もう大丈夫だろうと言われ帰された。
某県で何があったのかは知らないが、もうあそこにいく必要がないということで、一安心して後で違反金を払って、それ以来幽霊とは縁が無いそうだ。
「まったく、○○県で何をやったんでしょうね? 社用車を処分した方が良いんじゃないかと俺は思ってるんですけど、まあ会社の資産ですからねえ……」
今も彼はその会社で働いているそうだが、某県には本当に一度も行かされることは無かったという。
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