ゲーム体

 コタローさんはRPGが好きで、子供の頃から日本人の多くが知っているタイトルをプレイしているそうだ。中にはマニアックなタイトルもあったが、一つどうしても怖いものがあったそうだ。


「有名なタイトルなんですけど、名前は伏せて○○としておきましょう。そのゲームに小学生の頃ハマったんですよ」


 時間のある小学生だった彼は好き放題にゲームをプレイしていた。まさに寝る間を惜しんでという状態だったそうだが、学校には通っていたし、授業にもついていっていた。だから親も文句を付けられず、深夜までゲームをやって適当に予習だけして登校する生活をしていた。


 やりこみって知ってます? 有名ですもんね、知ってますよね。当時としては珍しかったんですが、やりこみに挑戦したんですよ。今のソシャゲと違って買ってしまえばいくらでも極められるゲームでしたから、いろいろとやっていました。


 RPGなら大抵やってたんですが、とあるRPGでの事になるんですよ。ソイツを平日だっていうのにゲーム屋に並んでカセットを買った身としてはひどく親から怒られましたが、それでもゲームをプレイしたんですよ。初回は通常通りクリアしようと仲間を探しながらレベル上げをしていたんです。


 それはマップ上の森を進んでいたときのことになる。今ほど豪華なグラフィックではなく、シンプルに木が数本描かれたタイルが敷き詰められて、ここは森であると主張している。


 森の中を歩いているとモンスターが現れた。雑魚だったのでサクッと倒すことができたのだが、戦闘中に敵が毒攻撃をしてきたので毒状態になった、しかし魔法の使えない主人公が毒消し草を持っていなかったので仕方なく回復アイテムを買いに引き返そうとした。そこで『ご飯よ!』と母親の声が響いてきた。これに逆らってゲームを出来無くされると困るので、『触らないで』と書いたノートの紙片をゲーム機の前に置いて夕食に向かった。


 その日の夕食を食べて、お風呂に入ったとき、そのときはまだ早春で寒気があるはずだったのだが、何故か妙に温かい。早めに風呂を上がって寝間着に着替え、就寝することにした。ゲーム機に触られなければそのままの状態で続けられるはずだ。そう思って寝たのだが、朝起きたときには体が汗でびっしょりしていた。


 それだけ汗をかいたのに体は熱っぽい。親に体温計を持ってきてもらうと熱が出ていた。『ゲームなんてやってるから』という小言を聞きつつ横になった。


 少しして両親が出勤していった。そのおかげでゲームが出来る状態になる。果たして風邪をひいて居るであろう状態でゲームをしていいのかとは思ったものの、このままゲームをつけっぱなしで中断するわけにもいかない。そこでコソコソとゲームをプレイすることにした。


 テレビをつけて外部入力に変えると、きちんとバグっていない昨日の画面が映る。一安心して、キャラをダンジョンから出してすぐに帰還魔法を使った。町に一瞬でついたので一通りの回復薬を購入して主人公を完全回復した。そのとき、ふっと自分の体から熱が引いていった。


 ぼやけていた意識もすっかり明瞭になり、念のため薬箱から取り出した体温計で測ると平熱だった。


 ゲームとの嫌な一致を感じてそのゲームのセーブデータを消すことにした。それからは普通の生活を送れたという。


 私はその話を聞いて、何故セーブデータを消したのか尋ねた。


「実は俺、当時はキャラ名にデフォルトって無かったので自分の名前を使ってたんですよ。それからは公式が名前を決めてくれるようになったので助かりましたね」


 そう言い笑うコタローさん。今でもスマホに舞台は変わったが最新のRPGをプレイしているそうだ。

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