### 第6話:冷たい刃の向こうに
レンはステージを終えた後、控室で水を飲みな
がら、リラックスしようとしていた。そのと
き、携帯電話が鳴り、非通知の着信が表示され
た。いつもなら出ないが、何か不吉な予感がし
て電話に出た。
「レンさんですね?」
冷たい声が耳元に響き、彼の背筋が凍りつい
た。
「誰だ?」
レンは険しい声で問いただした。
「あなたの大切なサクラさんが、今僕のところ
にいる。彼女を無事に返してほしければ、指示
に従ってもらおうか。」
その言葉に、レンの心臓は一気に縮み上がっ
た。
「サクラさんを...どうして...何をしたん
だ?!」
レンは息を呑みながら問い詰めたが、返事は冷
淡だった。
「すぐに場所を送る。一人で来い。警察に通報
すれば、どうなるか分かるよな?」
その言葉を最後に電話は切れ、すぐに位置情報
がメッセージで送られてきた。
*
レンは震える手で携帯を握りしめ、何もかもを
放り出して彼女の元に駆けつける決意をした。
レンはツアースタッフに何も言わず、そのまま送
られてきた場所に向かう車に飛び乗った。
### 廃工場での対峙
指定された場所は、町外れの寂れた廃工場だっ
た。周囲は暗闇に包まれ、ひっそりとした雰囲
気が漂っていた。レンは震える手で工場の扉を
押し開け、中に入ると、薄暗いライトの下でサ
クラが倒れているのが見えた。
「サクラさん!」
レンは駆け寄り、彼女の体を抱き起こした。し
かし、彼女は意識がなく、その表情は無力で、
冷たい汗が彼の額を伝った。
「サクラさん、お願いだ、目を覚ましてく
れ....!」
レンは必死に彼女の頬を撫でたが、反応はな
い。その時、背後から聞こえてきた冷たい声が
彼を凍りつかせた。
「彼女は僕のものなんだ....レンさん、君が僕た
ちを裏切るから、彼女がこんな目に遭うんだ
よ。」
レンは振り返り、そこに立っている犯人を睨み
つけた。彼の目には狂気が宿り、片手にはナイ
フが握られていた。
「こんなことをして何の意味があるんだ!
サクラさんは君に何もしていない!僕を憎むな
ら、僕だけを狙え!」
レンは叫んだ。
「君が彼女に夢中になるなんて、許せないん
だ!彼女を奪われるくらいなら、僕は….」
犯人はナイフを持った手を振り上げ、レンに襲
いかかろうとした。
### 激しい戦い
レンはサクラを守るために、自分の体で彼女を
庇いながら立ち向かうしかなかった。
犯人がナイフを振り下るそうとした瞬間、レン
は咄嗟に彼の腕を掴み、必死に抵抗した。二人
はもみ合いになり、工場内に響く音は激しさを
増していった。
「サクラさんを...傷つけさせない!」
レンは必死に叫びながら、犯人の手首をねじ
り、ナイフを落とさせようとしたが、犯人のカ
は予想以上に強かった。ナイフが地面に落ちる
前に、犯人は再び刃を握り直し、今度はレンの
腹部に突き刺した。
「ぐっ...!」
レンは息を詰まらせ、苦痛に顔を歪めたが、そ
れでもサクラを守ろうと倒れないように踏ん張
った。
「これで終わりだ....」
犯人がもう一度ナイフを振り上げたその瞬間、
工場の外から警察のサイレンが響き渡った。犯
人は動揺し、レンの体から離れた。察が突入し
てくる直前、レンは最後の力を振り絞り、犯人を押し倒した。
*
警察が工場内に突入し、犯人はすぐに取り押さ
えられた。しかし、レンは傷口からの出血が激
しく、その場に倒れ込んだ。
### 命の危機
サクラは依然として意識を失ったままだった
が、レンの手は彼女の手を握りしめていた。彼
の視界は次第にぼやけていき、意識が遠のくの
を感じながらも、彼女を守り抜いたことにわず
かな安堵を覚えた。
「サクラさん...無事でいてくれ...」
レンはかすれる声で呟き、最後の意識を失っ
た。
*
救急隊がすぐに二人を搬送し、病院で治療が始
まった。レンは意識不明の重体で手術を受ける
ことになり、サクラもまた、目を覚ますかどう
かの瀬戸際にあった。
### 運命の分かれ道
数日後、サクラが意識を取り戻した。彼女はぼ
んやりとした視界の中で、白い天井を見上げて
いた。自分がどこにいるのか、何が起こったの
かを理解するのに時間がかかったが、徐々に記
憶が戻ってきた。
「レンさん....」
彼の名前を呟きながら、彼女は焦るように周囲
を見回した。
その時、看護師が病室に入ってきて、サクラの
目に涙が浮かんだ。
「レンさんは...どこですか?」
看護師は悲しげな表情を浮かべ、静かに言っ
た。
「レンさんは今、手術を受けています。彼の命は
まだ分かりません....でも、彼はあなたを守るた
めに必死でした。」
サクラはその言葉に、胸が締め付けられるよう
な痛みを感じた。
「どうか...レンさんを助けてください...私のた
めに、あんなに...」
涙が頬を伝い、彼女はただ祈ることしかできな
かった。レンが無事であることを、そして彼が
再び目を覚ますことを。何時間にも及ぶ手術の
末、レンの容態はようやく安定した。医師はサ
クラに、彼が一命を取り留めたことを伝えた
が、意識が戻るかどうかはまだ分からないと言
った。
*
サクラはレンの病室に入ると、彼の手をそっと
握りしめた。
「レンさん....どうか目を覚まして...あなたがい
ないと、私..」
彼女の声は震え、涙が溢れたが、それでもレン
の耳に届くことを願って、言葉を紡ぎ続けた。
「あなたがいてくれるだけで、私は幸せなんで
す。だから、どうか戻ってきて...」
その瞬間、レンの手が微かに動いた。サクラは
驚きと希望を胸に、彼の顔を見つめた。
そして、ゆっくりとレンのまぶたが開き、彼の
綺麗な瞳がサクラを捉えた。
「サクラさん... 君が無事で良かった...」
サクラはその瞬間、抑えていた涙が一気に溢れ
出し、レンの手を握りしめながら泣き崩れた。
「レンさん...本当に...本当にありがとう...」
「君を守るためなにも何だってするさ。」
レンは微笑みながら、サクラの手を握り返し
た。
*
二人は再び手を取り合い、どんな困難も共に乗
り越えることを誓い合った。これまで以上に強
い絆で結ばれた彼らは、愛と勇気を胸に、新た
な未来へと歩み出したのだった。
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