### 第6話:冷たい刃の向こうに

レンはステージを終えた後、控室で水を飲みな


がら、リラックスしようとしていた。そのと


き、携帯電話が鳴り、非通知の着信が表示され


た。いつもなら出ないが、何か不吉な予感がし


て電話に出た。


「レンさんですね?」


冷たい声が耳元に響き、彼の背筋が凍りつい


た。


「誰だ?」


レンは険しい声で問いただした。


「あなたの大切なサクラさんが、今僕のところ


にいる。彼女を無事に返してほしければ、指示


に従ってもらおうか。」


その言葉に、レンの心臓は一気に縮み上がっ


た。


「サクラさんを...どうして...何をしたん


だ?!」


レンは息を呑みながら問い詰めたが、返事は冷


淡だった。


「すぐに場所を送る。一人で来い。警察に通報


すれば、どうなるか分かるよな?」


その言葉を最後に電話は切れ、すぐに位置情報


がメッセージで送られてきた。



レンは震える手で携帯を握りしめ、何もかもを


放り出して彼女の元に駆けつける決意をした。


レンはツアースタッフに何も言わず、そのまま送


られてきた場所に向かう車に飛び乗った。


### 廃工場での対峙


指定された場所は、町外れの寂れた廃工場だっ


た。周囲は暗闇に包まれ、ひっそりとした雰囲


気が漂っていた。レンは震える手で工場の扉を


押し開け、中に入ると、薄暗いライトの下でサ


クラが倒れているのが見えた。


「サクラさん!」


レンは駆け寄り、彼女の体を抱き起こした。し


かし、彼女は意識がなく、その表情は無力で、


冷たい汗が彼の額を伝った。


「サクラさん、お願いだ、目を覚ましてく


れ....!」


レンは必死に彼女の頬を撫でたが、反応はな


い。その時、背後から聞こえてきた冷たい声が


彼を凍りつかせた。


「彼女は僕のものなんだ....レンさん、君が僕た


ちを裏切るから、彼女がこんな目に遭うんだ


よ。」


レンは振り返り、そこに立っている犯人を睨み


つけた。彼の目には狂気が宿り、片手にはナイ


フが握られていた。


「こんなことをして何の意味があるんだ!


サクラさんは君に何もしていない!僕を憎むな


ら、僕だけを狙え!」


レンは叫んだ。


「君が彼女に夢中になるなんて、許せないん


だ!彼女を奪われるくらいなら、僕は….」


犯人はナイフを持った手を振り上げ、レンに襲


いかかろうとした。


### 激しい戦い


レンはサクラを守るために、自分の体で彼女を


庇いながら立ち向かうしかなかった。


犯人がナイフを振り下るそうとした瞬間、レン


は咄嗟に彼の腕を掴み、必死に抵抗した。二人


はもみ合いになり、工場内に響く音は激しさを


増していった。


「サクラさんを...傷つけさせない!」


レンは必死に叫びながら、犯人の手首をねじ


り、ナイフを落とさせようとしたが、犯人のカ


は予想以上に強かった。ナイフが地面に落ちる


前に、犯人は再び刃を握り直し、今度はレンの


腹部に突き刺した。


「ぐっ...!」


レンは息を詰まらせ、苦痛に顔を歪めたが、そ


れでもサクラを守ろうと倒れないように踏ん張


った。


「これで終わりだ....」


犯人がもう一度ナイフを振り上げたその瞬間、


工場の外から警察のサイレンが響き渡った。犯


人は動揺し、レンの体から離れた。察が突入し


てくる直前、レンは最後の力を振り絞り、犯人を押し倒した。



警察が工場内に突入し、犯人はすぐに取り押さ


えられた。しかし、レンは傷口からの出血が激


しく、その場に倒れ込んだ。


### 命の危機


サクラは依然として意識を失ったままだった


が、レンの手は彼女の手を握りしめていた。彼


の視界は次第にぼやけていき、意識が遠のくの


を感じながらも、彼女を守り抜いたことにわず


かな安堵を覚えた。


「サクラさん...無事でいてくれ...」


レンはかすれる声で呟き、最後の意識を失っ


た。



救急隊がすぐに二人を搬送し、病院で治療が始


まった。レンは意識不明の重体で手術を受ける


ことになり、サクラもまた、目を覚ますかどう


かの瀬戸際にあった。


### 運命の分かれ道


数日後、サクラが意識を取り戻した。彼女はぼ


んやりとした視界の中で、白い天井を見上げて


いた。自分がどこにいるのか、何が起こったの


かを理解するのに時間がかかったが、徐々に記


憶が戻ってきた。


「レンさん....」


彼の名前を呟きながら、彼女は焦るように周囲


を見回した。


その時、看護師が病室に入ってきて、サクラの


目に涙が浮かんだ。


「レンさんは...どこですか?」


看護師は悲しげな表情を浮かべ、静かに言っ


た。


「レンさんは今、手術を受けています。彼の命は


まだ分かりません....でも、彼はあなたを守るた


めに必死でした。」


サクラはその言葉に、胸が締め付けられるよう


な痛みを感じた。


「どうか...レンさんを助けてください...私のた


めに、あんなに...」


涙が頬を伝い、彼女はただ祈ることしかできな


かった。レンが無事であることを、そして彼が


再び目を覚ますことを。何時間にも及ぶ手術の


末、レンの容態はようやく安定した。医師はサ


クラに、彼が一命を取り留めたことを伝えた


が、意識が戻るかどうかはまだ分からないと言


った。



サクラはレンの病室に入ると、彼の手をそっと


握りしめた。


「レンさん....どうか目を覚まして...あなたがい


ないと、私..」


彼女の声は震え、涙が溢れたが、それでもレン


の耳に届くことを願って、言葉を紡ぎ続けた。


「あなたがいてくれるだけで、私は幸せなんで


す。だから、どうか戻ってきて...」


その瞬間、レンの手が微かに動いた。サクラは


驚きと希望を胸に、彼の顔を見つめた。


そして、ゆっくりとレンのまぶたが開き、彼の


綺麗な瞳がサクラを捉えた。


「サクラさん... 君が無事で良かった...」


サクラはその瞬間、抑えていた涙が一気に溢れ


出し、レンの手を握りしめながら泣き崩れた。


「レンさん...本当に...本当にありがとう...」


「君を守るためなにも何だってするさ。」


レンは微笑みながら、サクラの手を握り返し


た。



二人は再び手を取り合い、どんな困難も共に乗


り越えることを誓い合った。これまで以上に強


い絆で結ばれた彼らは、愛と勇気を胸に、新た


な未来へと歩み出したのだった。


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