第17話
「セラフィナさん、こっちです!」
ルナとセシルに導かれてようやく、私は街の門へとたどり着いた。
門では無数の魔物が押し寄せており、冒険者たちが必死に応戦していた。でもこの量の魔物は、いくら冒険者がたくさんいたとしても厳しいだろう。
冒険者がうち漏らした魔物を私が始末する。
剣と魔法の閃光が飛び交い、轟音と叫び声が混じり合う中でギルド
「ルナさん……! 来てくれると信じていました! 助かりましたよ!」
「ああ、ルナさんがいればこの状況も押し返せるぞ!」
「ふーん、そういう状況ね。わかったわ」
昨日の
たしかにルナはSランクの冒険者の認定を受けることができた。でもそれだけで、急にここまで距離が縮むか?
もしかして昨日、どこかに行ってたのはこの二人が関係している?
今朝もまるで
「さあ、セラフィナ様も一緒に応戦しましょう! これは絶好のチャンスですよっ!」
チャンスって、どういうことだ。むしろ私はルナがこの惨状を起こした犯人なのではと疑っているくらいなのに。
でも、もしルナが犯人だったらどうする?
私はルナを裁くのか?
なんと言って?
彼女はなんのためにこんなことをしている?
理由はなんだ?
「セラフィナさん……? 大丈夫ですか?」
セシルに声をかけられてハッと顔をあげる。
「ずいぶん怖い顔をしていましたけど……」
そんなに顔に出てしまっていたのか。どうも私は顔に出やすい気がする。この旅が始まってから指摘されてようやくわかってきた。
……だとするとホムンクルスたちの前で
いや、今は考えないようにしよう。
「なんでもない」
今はこの街でこれ以上の犠牲者を出さないためにも、私にできることをやるまでだ。こんな魔物ども、すぐに片づけてやる。
私は一人、門の前に立つ。門に向かってくる魔物の群れと、門内に入った魔物。両方を一掃してやる。
深く息を吸い込み、体内の魔力を解き放つように練り上げると、周囲の空気が震え始めた。
周囲にとどめておける魔力の量が、いとも簡単に飽和し、
「な、なんだこれは……!?」
「何が起きている……!?」
ここにきて冒険者がざわめき始めるが、私はさらに魔力を込める。
「消えろ!!」
掛け声とともに、魔力の
「ふん、他愛のない」
そう言いつつ久しぶりに全力で魔力を使ってみて、なかなかすがすがしい気持ちになっていた。我慢していたわけじゃないが、全力でやるというのはモヤモヤを晴らしてくれるのかもしれない。
「……嘘だろ……」
「……すごすぎる……!」
「伝説の魔術師……か?」
すがすがしい気持ちになっていると、冒険者たちがざわめき始める。まあ今回の件については弁明することはない。やりすぎた、という自覚があるからね。
さて
これでもし、失敗したか、みたいな顔でもしていたら私はどうすれば――
「愚民ども! これこそ至高のお力! その偉大なる魔力の前では、神々すらもひれ伏し、世界の頂点に君臨する唯一無二の存在! その目で見よ! ただの魔法ではない、これはまさに奇跡!」
……私はこれにどう反応すれば良いんだろう。さっきまでルナが
ねぇ、ルナ。なんで家の屋根の上に立って演説を始めてるわけ?
「すべての生き物を救い導き、そのお力に比肩する者は天地において存在しない! この御力を知り、広めよ! この世の頂点に立たれるお方っ!」
周囲の冒険者たちはルナと私を交互に見ながら、ざわめいている。
「確かに……あんなことできるのはSランクの冒険者だって聞いたことない」
「アレクシスにあんなことできるのか?」
「いったい誰なんだ……!?」
私を有名にしたいの? もうルナが何をしたいのか分からないよ。
私は普通の冒険者。有名にして効果がありそうなのはSランク冒険者のルナなんだけどなぁ。私よりも上の立場に立つなんてとんでもない、ってこと?
もしかして無理やりSランク冒険者に押し上げようとしてる?
「その名も――……ぐっ! あんたたち……!!」
苦し気にルナがうずくまった。そんな彼女を見下ろすように
アレクシスの手には血に染まった刃。
「
「こいつが家の上で演説を始めたのも予想外だろう、アレクシス。おかげで大勢に見られてしまった」
「はん、全員始末すりゃいいのさ。あのバケモンみたいな魔力もいくらなんでも連発はできねぇぜ。さて、ルナ。良い演説だったぜ。さっさと消えな」
アレクシスはそういうとルナを蹴飛ばして家の上から落とす。
「ルナ!」
500年も近くにいた人に情が移らないわけがない。
ルナが苦しそうに口を開く。
「セ、セラフィナ様……申し訳ありません」
「良い、しゃべるな」
ルナの傷口を見ると、かなり深くまで刺されたらしい。アレクシスがどういう力で刺したかわからないが、骨を切断されているようにすら見える。
ルナは人族をベースに作られたホムンクルスなので、寿命を除いて普通の人とあまり変わらない。つまりこれは致命傷だ。たぶん話すのも辛い。もしもあの高さから地面に落ちていたら、ルナはもうこの世にいなかっただろう。
ルナを抱きかかえながら治癒魔法をかけると、血色が見る見るうちによくなっていく。
「ルナ、答えられるようになったらで良い。あの二人とは昨日なにかあったのではなかったのか? あの二人と組んでいたのではなかったのか?」
「……私が、ですか……? 組んで……? いえ、組んでいませんね……」
「……そうか。ではもう一つ。あの二人は私の敵か?」
「も、もちろんです……あの二人は、セラフィナ様にあだをなす敵です……!」
「そうか。わかった」
ルナの答えで理解した。つまりこの騒動を起こした犯人。それはあの二人だ。
ルナが昨日どこで何をしていたのかは分からない。たしかに今朝は意味深な発言もあったかもしれない。それは後でルナに聞けばいい。
それよりも今、この場に必要な真実は一つ。あの二人は私の敵。そしてルナを傷つけたということ。
治療を終えた私はゆっくりとルナを降ろす。家の上ではアレクシスと
満足そうにしている顔も今のうちだ。その顔を絶望に染めてやろう。風で体を浮かせて屋根の上へ降り立つ。
「さて、二人とも。覚悟はできているか?」
「ふん、よく言う。ここまで登ってくるだけで精一杯の魔力しか残っていないだろう。先ほどの魔法で貴様は魔力を使い切っているはずだ。もはや我々の敵ではない」
「ああ、ガルドの言うとおりだぜ。へへ、冥途の土産に俺らのギフトを教えてやるぜ。俺は剣豪、そしてガルドは重力操作だ」
剣豪に重力操作、ね。そんなギフトもあるんだな。剣豪はともかく、重力操作は私の魔法で容易にできる。そもそも重力操作はギフトというよりは魔法の一部な気がするんだけど。
ともあれ、自分からギフトを言ってくれたのだ。しかもそれが私の求めていた男に戻るギフトではないことを考えても――生かす価値はない。
どうせこいつらは私の魔力が切れていると思っているんだ。ひと思いに消し去ってやる。
その瞬間だった。空からなにかが降りてきた。重い衝撃音と共に屋根が揺れ、私と二人の間に影が立ちはだかる。家が崩れ落ち、
なにが起きた?
「「エ、エルミナ様!?」」
エルミナ?
なんでエルミナの名前が今、出てくるんだ?
私の知っているエルミナ……?
いや、そんなはずはない。だってエルミナは待機のはず……あ、そういえば私の計画を手伝うとかで、外出を許可していた。
背筋に嫌な汗が伝うと同時に、煙が晴れる。
その瞬間、私は目を見開いた。真っ赤な目、雪のように美しい銀髪、口から小さく出る八重歯。
見間違えるわけがない。
私の知っている第三のホムンクルス――エルミナが、まるで
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