第11話
「さて、もう動いても良いぞ」
セシルはホっと胸を撫でおろす。緊張していたのか、少し背中が濡れているように見えた。
そんなセシルから目を離して部屋の中を改めて見渡すが――行き先がないように見える。
「……この先ってどうやって進むんだ……?」
私もそれなりにダンジョンを攻略してきたつもりだが、ボス部屋で行き止まりというのはあまり見たことがない。
でもアーティファクトの噂がある以上、先に進む道がある可能性が高い。もしかして隠し部屋があるのかな?
私が歩き回って調べていると、ルナとセシルも気になるところがあったのか、部屋の中を調べ始めた。
五分ほどたったころ、ルナが根をあげた。
「セラフィナ様ぁ、完全に行き止まりみたいなんですけど……本当にアーティファクトなんてあるんでしょうか」
「噂を確かめて欲しいという依頼だ。なければそう報告すればいい」
部屋の中を調べながらルナを見ずに答える。
そもそも私たちの目的はダンジョンの攻略じゃなかった。だから無理に調べる必要はない。
「あ、そういばそうでしたね。さすがセラフィナ様です! ではなかった、ということで帰りませんか? ダンジョンの中って薄暗いしジメジメしてるし……」
どの口が言ってるんだ。ここに来るまでの道中はずいぶんと張り切っていたのに。
とはいえ、ルナの言い分も分からなくもない。手掛かりがない以上、あまり長居しても仕方ないのはその通りだ。
そのときセシルが声をあげた。
「あの、二人とも少し良いでしょうか? どうやら、ここから先に続いているようです」
「はぁ? なんで余計なのみつけるのよ。セラフィナ様、もう帰りましょう?」
帰りたくて仕方ないルナは半眼になってセシルを睨んでいる。せっかくここまで来たので、もう少し奥まで見ておいても良いと思う。
「ルナさん、そう言わないでください。ダンジョン内でアーティファクトを見つけるということは、冒険者にとって
「
「でもここでアーティファクトを見つけて確実にSランクの冒険者になっておけばセラフィナさんの役には立てると思うんですけどね……Sランクの冒険者は信用度もすごく高いですし」
「それ、本当でしょうね?」
「はい、間違いないかと。それくらいSランクの冒険者は信用度が高いんですよ」
「ふぅん。セラフィナ様の為になるなら仕方ないわね。さあ、どこから先に続いてるの?」
ルナがセシルに近付いていく様子を見て、ずいぶんと現金なものだな、と思った。まあ私の考えている通りにするんでいるから、特に文句はないんだけど。
そういえばSランクの冒険者の信頼度というのはどれくらい凄いんだろう。セシルの言い方だと、パーティーに一人いれば私のギフト探しもかなり
もしそうならギフトなしとされている私やセシルでは絶望的なSランクを是非ともルナに目指してほしいところだ。
私もルナに続いて、セシルの近くへ行くと、たしかに。壁の模様に同化しているが、扉があった。
セシルとルナがなぜか扉の横にずれるので、私が扉を開ける。
扉の向こうにあったのはボス部屋よりもだいぶ小さな部屋だった。部屋の真ん中には、吸い込まれるような黒い球体が
「ほ、本当にアーティファクト!?」
「セラフィナ様! もしや依頼のアーティファクトでは!?」
「そうかもしれんな」
周囲の魔力が奇妙に歪んでいるのを見つつ、私は近づいていく。もしあの黒い球体がアーティファクトなら、魔力のゆがみの正体は簡単に想像できた。
「セラフィナさん! 罠かもしれませんっ!」
「わかっている」
奇妙に歪んだ魔力の感覚から、ある種の確信があった。これは先ほどのシャドウファントムが悪意をもって仕掛けた罠だ。ダンジョンの守護者として、秘宝を守るために仕掛けたんだろう。
私は罠に臆せず、アーティファクトに向けて一歩進む。すると影がどこからともなく現れ、勢いよく絡みついてきた。
「セラフィナさん!」
セシルが悲痛な声をあげるが、そんなに心配する必要はない。あえて罠を起動させたのだ。シャドウファントムが仕掛けたという確信があれば、対処方法はいくらでもある。少なくとも私よりも低い魔力で作られた罠であることは確実なのだから。
絡みつく影を分析する。シャドウファントムのときは分析するまでもなく倒してしまったが、やはり闇の魔力を強く感じる。
中和するために光の魔力を流し込むと、影は跡形もなく消えた。
「やはりこの程度か」
そう呟いて、そのまま真っ直ぐにアーティファクトへ向かうと、何事もなく目の前にたどり着いた。
やはり何もないか。おそらくシャドウファントムは、影の罠を抜けられることを想定できなかったのだ。だからこの道には他の罠を仕掛けていない。
「ずいぶんとあっけないものだな」
そう言いながら私はアーティファクトを手に取った。
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