第9話
依頼を受けた私たちはさっそくダンジョンへと向かった。道中はゴブリンが数匹現れたくらいで、すぐにダンジョンへと着いた。
中に入ると、外とは違う異様な雰囲気につつまれていた。ダンジョンとなっていた遺跡はかなり大きく、魔力の
ダンジョンにくるのはかなり久しぶりだ。昔はアーティファクトが創られることがあるので調べるためによく通っていた。創り方がわかってからはすっかり来なくなっていたが。
そういえば私の住んでいる地下にも、巨大なダンジョンを創っていたが今はどうなっているんだろう。最後に聞いたのはホムンクルスたちが、鍛えるために利用しているだったような気がする。
そんなことをぼんやりと考えていると、特に苦もなく二層へ到達した。
セシルは冒険者をやっていただけあってかなりスムーズに私たちを先導した。たしかにギフトは持っていない。でも冒険者としてはかなり優秀だと思う。
「セラフィナ様の前に立ちはだかるとは……どきなさい」
目の前に現れたゴーレムを、はりきっているルナが一撃で
私が欲しがっている魔道具が、この依頼で貰えると思うと自然と身が入るんだとか。
神の如く崇めた結果なのか、ルナが私との関係を一歩進めたいのかわからないが好意は受け取ろうと思う。
「それにしても本当に凄いですね」
セシルが感嘆の息を漏らすかのように呟いて、そのまま話をつづけた。
「セラフィナさんに初めて会ったときにいた女性たちも、ルナさんのように強いのでしょうか」
私と初めて会ったときに……ああ、ホムンクルスたちのことかな。ホムンクルスたちなら、一人一つ以上の能力を持っているから強いはずだ。
魔力操作についても私が見て回っている限りでは、今のところホムンクルスたちのほうが上手いと思う。
総合してみてもこの程度のダンジョンなら一人で余裕をもって攻略できるだろう。
「そうだな、みんな強い部類に入るだろう」
「強さの秘密ってあるんでしょうか……やっぱりギフト、ですかね……」
まるで不安な感情を吐き出しているように呟くが、今ところセシルが思うほどギフトの比重は大きくないと思う。
まだ完全には理解しきれていないので推測になるが、ルナの能力がギフトだとしよう。そうするとギフトとは、私がホムンクルスに与えることができる能力ということになる。
しかし能力とは、魔力の流れを制御しやすい道を最初から用意しているだけだ。つまり制御がやりやすいだけで人それぞれ限度がある。
だから
もっともこの推測だと、どうして私が元に戻るための能力が創れないのかわからない、という欠陥があるんだけど。
私はそんなことを脳裏に浮かべどう返すか迷った。さすがに推測でセシルに話すわけにはいかない。
わかっている範囲で答えておくか。少なくとも魔力操作の技術は廃れているのは間違いない。ここに来るまでの間にも魔力操作を行っているような人は見当たらなかったし。
「私はギフトについては詳しくない。だが私がここまでの人を見た限り、今の魔法のレベルはかなり低い。見返したいなら魔力操作——つまり魔法を鍛えろ。それが一番の近道になるはずだ」
「そう……ですか。セラフィナさんがそういうなら……頑張ります」
私とセシルが話している間にも、再び下級ゴーレムが現れる。そして現れると同時にルナが一撃で
ルナが魔物を勝手に倒すので、まるでダンジョン内にピクニックに来ているような気分にすらなる。
セシルも自信を無くしかけているし……そうだ。セシルに自信を取り戻してもらい、自分の成長を実感してもらう良い方法があるじゃないか。
私は自分の頬が少し上がるのを感じつつルナに声をかける。
「ルナ、次の魔物は倒すな。セシルに倒してもらう」
「え!?」
突然のふりに、セシルの声がダンジョン内に木霊する。ダンジョンの中で大声を出したら魔物がこちらに寄ってくるぞ。
「街に着くまでに魔力操作を教えただろう? かなりの時間を使ってきた。私は実践でも通用すると思う」
「……少しはできるようになりましたが……でも」
「危険なときはフォローするとも。ルナがな」
「え!? セラフィナ様……!? 私がですか!?」
私が手伝っても良いが、私よりも適任なのはルナだ。彼女の
「時間操作であればセシルが危ない状況からでも無理なく助けられるだろう? ルナ、お前にしかできないことだ」
「わ、私にしか……わかりました! セラフィナ様! ぜひ私にやらせてください!」
チョロい。まあルナが時間操作の能力が使える、ということは私も使えるんだけどね。私はあえて言わずに、
「頼んだぞ」
とだけ答えた。ルナが凄い張り切っている。
と、先ほどのセシルの声に反応したのか、さっそく魔物がこちらに向かっている気配がする。
「来たぞ」
ミノタウロスだ。セシルの力を考えれば悪くない敵だ。
セシルが私たちの前に出てミノタウロスと対峙する。どこかで水のしずくが落ちる音がした。それが合図になり、ミノタウロスがセシルへと突進する。
一方でセシルはやや緊張気味のようだ。額に汗が浮かんでいるのが見える
「セシル、落ち着いて魔力操作をすれば問題ない」
私の言葉にセシルは少し落ち着いたようで、身体強化が息を整えた彼女の身体を包み込む。
ミノタウロスの振り下ろされる巨大な斧。セシルは身体の軸をずらし斧を紙一重で避けた。
しかしミノタウロスは避けられることを予想していたのか、すぐに動きを変え、拳で地面を叩きつける。
ドゴォォン!!
セシルはその拳も額に冷や汗を浮かべながらも綺麗に避ける。そして次の攻撃の隙を探っていた。
悪くない動きだ。魔力操作の基本である身体強化もよくできている。
一方のミノタウロスは、避けられるとは思っていなかったらしい。頭に血が上ったのか、牛の頭を真っ赤にさせ、狂ったように斧を振り回しながらセシルへと突進した。
「ぶふぉ!!! ぶふぉおおおおおお!!!!!」
その雑な動きに生じた隙をセシルは見逃さない。変な方向に勢いがついた斧をセシルは低い姿勢で避け、懐へと滑り込んだ。
「はぁ!!」
かけ声と共にミノタウロスの脇腹へ鋭い一撃が入る。しかし態勢が悪かったのか上手く力が入らず浅い。
浅かったせいか攻撃を受けてもなお、ミノタウロスの振りまわす斧の勢いは衰えない。セシルの態勢も悪い。さすがにここまでか。
私が諦めかけたそのときセシルの身体が一瞬ぶれた。そしてその決定的だった。ミノタウロス斧がギリギリセシルの横を通って地面へ突き刺さる。
ミノタウロスは勢いよく斧が突き刺さり、すぐには抜けずに焦っている。だがその隙をセシルが見逃すわけがない。
セシルによって強化された短剣がミノタウロスの核を貫いた。
「ごぼ、ごぼぁぁぁぁ」
断末魔と共にミノタウロスが崩れ落ち、光の粒子となって消える。残ったのは魔物の核となる魔石のみだ。
「か……勝てました……」
勝利の声が、ダンジョン内に小さく木霊した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます