第91話 ニジェール・ギドマン
「ちょっと待って? 次期領主って……」
シエラが失礼なことを言うので、俺がそれを止める。
「シエラ。失礼だろう」
「いやだって……ええ……? あの大斧で斬りかかってきた人でしょ?」
シエラがそう言うと、ニジェールは慌てて頭を下げる。
「そ、そそその節はまことに申し訳ありませんでした! あの時はちょっと頭に血が上っていて……」
「ちょっと……?」
「え、ええ……はい。ボクは……戦闘になるとつい……」
と、オドオドした感じで言っているが、彼がなる最終的なステータスはこう。
名前:ニジェール・ギドマン
統率:66
武力:94
知力:75
政治:77
魅力:61
魔法:83
特技:狂化魔法、猪突猛進、安寧
バランスは取れていてとても素晴らしい優秀な人材……と見えるが、実は癖が強く扱いが難しい。
猪突猛進はその最たるもので、突撃の能力は上がるが一度始めると止まれない曲がれないとだいぶ使い勝手が悪いある種デメリット能力。
安寧の方は統治する時に使える能力で、人心が落ち着きやすくなり、反乱などが起きにくくなる。
という純粋に使える物だ。
武力はあるが、それは狂化魔法を使った時になるステータスで、普段のままだったら50もない。
じゃあ狂化魔法の方でいればいいじゃんとなるが、その時だと統率は60を超えるようなことはない。
ギドマン家の主でありながら、兵を率いるのは向いていない。
まぁ……こっちのオドオドした方が政治がそれなりにできるのでいいのだが……。
そうなると武力が使い物にならなくてなんとなくもやる。
そして、ゲームでのユマはこのニジェールと心底相性が悪かった。
オドオドした方はオドオドするなと怒鳴り、もう片方は口だけの雑魚をひたすらに叩き落とす。
そんなことをずっと言っていた物だから後ろから刺されることもある。
ということがあったりしてあんまり会いたいとは思っていなかったのだけれど……。
「まぁ……よろしく頼む。俺は、ユマ・グレイル。後ろにいる彼女はシエラだ」
「はい。よろしくお願いします。ボクはニジェール・ギドマンです」
「あたしはシエラ。よろしくね」
と、軽い感じで会話をした後に、本筋に話を戻す。
「それよりも、ギドマン領主の所に案内していただいてもいいかな?」
「その件ですが……。こちらへどうぞ。ただ、静かにお願いします」
「? わかった」
静かに……? と思ったけれど、とりあえず言うことを聞いて彼の後に続く。
そうして案内された部屋は、領主の自室だった。
「ここは……いいのか?」
「……はい。ただ、覗いて父がどのような状況か、見ていただくだけでお願いします」
「……わかった」
彼の言葉でなんとなくは分かったけれど、部屋の中を見る。
中央のベッドでは一人の老人が寝転がっていて、枯れ木のような腕と顔色の悪い顔だけが出てきた。
「……」
俺達はそれを確認すると、ニジェールは扉を閉じる。
「容態は?」
「医者の話では1月は持たない……と」
「1月……」
俺がそう言うと、ニジェールはこらえるように口を開く。
「はい。ですので、今回の件も早急に解決し、父に報告して安心させたいのです。ユマ様。どうか……お力を貸してはくださいませんか」
「……ニジェール。俺はそもそも同盟関係にあるギドマン家を助けに来た。今更当然のことを言うな。すぐに作戦会議に移るぞ」
「はい! ありがとうごうざいます!」
ニジェールはそう言って、俺達を案内してくれる。
案内してくれた部屋は客間だった。
今は軍儀を開いているのか、中央にある大きな机を鎧を着た騎士が囲んでいる。
「ニジェール様」
騎士達は俺達が入ると直立に立って挨拶をする。
「いい。これからすぐに作戦会議をする。こちらにおられるのはグレイル領より援軍に来てくださったユマ様ご一行だ。情報などはボクと同じタイミングでいい。共有してくれ」
「かしこまりました」
ニジェールはそう言ってくれるけれど、騎士達の反応はちょっと固い。
まぁ……同盟関係と言っても普通は情報を主に上げてから……と考えるのはおかしい話ではない。
ニジェールがそれほど早くこの件を解決させたいと願っているからだろう。
それならお互いの挨拶をささっとして、情報を聞く。
話してくれるのは、ギドマン家の騎士団長をしている男だった。
彼は地図を指しながら話す。
「まず、敵は東方に位置するスルド男爵、セモベラ子爵、ソーランド騎士爵等と思われます」
「思われる?」
「はい。まだ断定はできません。どの家が敵で、どの家が軍を送っていないのか。詳しいことはまだ分かっておりません」
「……そうか」
状況はだいぶ悪そうだ。
こちらに援軍要請がきてからそれなりに経っているはずなのに、敵の手がかりさえ掴めていない。
彼らが使えないのか……それとも敵が想像以上に狡猾なのか。
もう少し話を聞いてみなければ。
「では被害はどうなっている?」
「はい。既に30の村や町が焼かれました。たまたま助かった者たちは近隣の村や町で匿っていますが、それでもかなりの損害です」
「30……」
それだけの人が殺されているということか。
しかも、それに対して有効な手を打てていない。
「今はどんな対策をしているんだ?」
「そちらの方にできるだけ兵を張り付けています。そして村々に兵士を駐留させ、近くの村で襲撃があった際には殲滅するべく兵を派遣しています。ですが……こちらが到着する前に焼き払って撤退をしていて、どうにも……」
そういう騎士団長は悔しそうだ。
俺は机の上の地図に書かれている戦力配置図を見て考える。
地図の上には村々が描かれていて、その村々のちょうどいい場所に兵士が置かれている。
ただ、攻められた場所を見ると、兵士の救援が厳しい場所ばかりを狙っているように見えた。
まるでこちらの兵士の配置を知っているかのようだ。
「敵がこちらの配置を知っている……という可能性はないよな?」
「その可能性は低いかと、部隊配置の全てはここにいるメンバーしか知りませんし、それぞれの部隊長には自分の場所しか教えていません。助けにいく村の場所はここだと教えていますが……」
「それは……避難民がその情報を聞いている可能性は?」
「避難民が……? それは……あるかもしれませんが、なぜですか?」
「どこどこから逃げて来たが、○○の村は大丈夫ですか……そこに知り合いがいるから、教えて欲しい。等と言われたら教えてしまうのではないか?」
「それは……」
「先日、我が領にもその辺りの諸侯から逃げてきた連中がいた。なら、この領地に来ていてもおかしくないし、計ったように来てもおかしくはないだろう」
「……」
騎士団長は黙り込み、頭の中で考えているようだった。
「では……部隊長達には避難民に聞かれても答えないようにと伝えればいいでしょうか」
「いや、せっかくだ、どこの部隊からもギリギリ時間のかかる村に伏兵として俺達が潜伏する。敵が同じ手を使うというのであればちょうどいいだろう」
「バレないでしょうか」
「作戦会議をしている。とでも伝えておけ。それに、ここにまでは敵が入っていないはず。その辺りはシュウがやってくれているはずだ」
「かしこまりました……」
「ということでいいかな? ニジェール殿」
俺は確認のために彼を見る。
彼はブンブンと大きく首を縦に振った。
「よし、では少数で潜伏するぞ。俺とシエラ、それに俺の兵士の中から5人。くらいでいいだろう」
「少なすぎませんか?」
騎士団長が驚いて聞いてくる。
「いや、これだけいれば十分だ。あの領地に……将軍クラスの猛者はいない。それに、撤退も考えるとそこまで多数で来ている可能性もほぼない。だからこれくらいでいい」
「かしこまりました」
「あ、あの!」
「ニジェール殿?」
「ボクも……ボクも連れていっていただけませんか! 個人戦闘でしたら自信があります!」
「……ああ。そうだな」
ちょっとまたあれと会うのかぁ……と思ってしまった。
ただ彼がいうことは確かではある。
個人戦闘力では、確かに彼は優秀だ。
それに、ここはギドマン家の領地。
同盟関係にある俺が解決したというより、領主自らが解決した。
という方が今後の領地経営的にも役に立つ。
「ありがとうございます!」
「よし……では、早速行動開始だ。すぐに奴らの首を刎ねる」
ということで、俺達はすぐに行動に移す。
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