第90話 村の中では

 俺達は馬を走らせ、村に近づいていく。


 すると、斥候せっこうに行ってくれていたシエラが戻ってくる。


 彼女は俺の後ろに降りたので、俺はすぐに聞く。


「どうだった!?」

村中そんないに敵は見えないわ。家の中までは見てない。でも半分くらいの家は燃えているからもういないと思う」

「ありがとうシエラ。少し耳を塞いでいてくれ」

「ええ」


 俺は振り返り、彼女が耳を塞いだ後に叫ぶ。


「これより村中に突入する! ただし! 敵がいる確率は低い! 誰かと遭遇した場合、敵かどうか判断することを優先しろ!」

「は!」

「では行くぞ!」


 俺達がそう言って、村に突入した。


 村の中はひどいもので、死体がそこら中に転がっている。

 老若男女関係なく、徹底して殺されていた。


 敵も倒れているようだけれど、数人いるかどうかというレベル。


「これは……ダメかもな……」

「なら馬から降りて捜索?」

「そうだな。お前達! 生き残りがいないか捜索を……」


 俺がそう叫んでいる途中、俺達が来た方と反対の方から馬の足音が聞こえてくる。


「なんだ? 敵が戻ってきたのか? そんなこと……いや、警戒しろ!」


 俺が叫んだ次の瞬間、馬に乗った大柄の男が大斧を振りかぶっていた。


「クソ!」


 俺は手に持っていたハルバートでその大斧を受け止める。


 ガギィィィン!!!!!


「っく」


 思いのほか重たい。

 いつもならすぐに反撃できるが、後ろにシエラも乗っている。

 あまり無茶な動きはできない。


 なんとかシエラに飛んでもらって……。

 俺が考えていると、敵は叫ぶ。


「このクソ盗賊共がウチで何さらしとんじゃゴラァ! 探しに探し回ってやっと捕まえたぞ! テメーラ全員半分にしてリスの餌にしてやる!」

「は……」


 相手は男の声でそう言いながら、何度も何度も斧を振りかぶって叩きつけてくる。


 姿はかなり大柄で、馬に乗っているが下手をしたら2mに届くかもしれないほどに大きい。

 全身はフルメタルプレートで覆われていて、隙間から見える髪はくすんだ金髪だ。

 ただ、それよりも目を引くのは彼の目で、深紅に爛々と輝いている。


 「待て! 俺は……」

「じゃかしいわゴラァ! キサマの口はこれから地面に落ちて泥を受け入れるだけの穴になるんだろうがよぉ!」

「まじで待て!」


 俺は彼に向かってそう叫ぶけれど、彼が止まる気配がない。

 彼の後ろから増援などはないようなので、ひとまず意識を切り替える。

 というか、多分こいつの正体がなんとなくわかった。


「シエラ! 離れていろ!」

「えーこれ飛び出したらそのまま斬られそうなんだけど……」


 そう言われてみると納得できるほどの振りを大男はしてきていた。

 彼が一振りすれば風が巻き起こり、その大斧の一撃は受けるのにはかなりの慎重さを要する。


「ならタイミングを作る! その時にいけ!」

「わかったわ」


 そう決めると、彼は大きく振りかぶって再び叩きつけてくる。


「なーに食っちゃべっとんじゃあ! さっさと死んで草木の栄養にならんかい! それが貴様らの使い道として最善だろうがよぉ!」

「いや、だから……待て!」


 俺は少し慣れてきた彼の一撃を受け止め、大きく弾く。


「シエラ! 今だ!」

「ええ!」


 彼女は斜め後ろに飛んでいき、俺から離れる。


「糞が! 糞は糞らしくまとまっておけ! 飛び散ったら後始末が大変だろうが! 人のことを考えんかいこのゴミムシ共が!」

「うるさい! いいから待てと言っているだろうが!」


 その言葉に、俺は叫んで返す。


 すると、上からシエラが聞いてきた。


「ダーリン! 魔法でやっちゃう!?」

「ダメだ! むしろ周囲に誰かいないか見ておいてくれ! いてもくれぐれも攻撃するなよ!」

「どういうこと!?」

「こいつは敵じゃない! 他の奴なら話が通じるはずだ!」

「わ、分かったわ!」


 シエラが飛び去るのを見て、俺は目の前の相手に集中する。


 奴は目に炎を宿し、相も変わらず大斧を叩きつけてくる。

 こう何度も攻撃していれば疲れてきそうなものだが、その様子はまるでない。


「こうなったらやるしかないか……」

「じゃかしいわ! 貴様のような腕がありながらゴミになるとは! 何を考えている!」

「だから話を聞けと言っているだろうが!」


 俺は奴の攻撃に合わせてハルバートの向きを変え、そのまま巻き取るようにして武器を弾く。


「な! 貴様!」

「いいから聞け!」


 俺はそう言ってフルプレートの腹に籠手で一撃を叩き込んだ。


「ゲブファ!!??」


 奴は馬から吹き飛び、4,5m転がって止まる。


「ふぅ……まったく……」


 俺は馬から降りて、彼に近づいていく。


 すると、彼は何事もなかったかのように跳びあがった。


「貴様! 何という名前だ! そこまでの強さ……最強と言うにふさわしい強さを持つのではないか!?」

「……俺の名はユマ・グレイル。グレイル領の次期領主だ」

「何!? グレイルだと!? グレイルが我がギドマン領を荒らしていたというのか!?」

「違う! 第一俺達はこの村が襲われている形跡を見てきただけだ!」

「ではなぜオレと戦った!?」

「お前が斬りかかって来るからだろうが! 死ねというのか!?」

「むぅ、言うではないか」


 俺が頭を抱えたくなる。


「……」

「まぁ! グレイルの次期領主が来てくれたのだ! 歓迎したい気分は山々なのだがな! オレはこれからゴミカス共の掃除に行かねばならん! その後会うとしよう!」


 彼はそう言って走り去っていく。


「やっぱりああいう性格なのか……」

「ユマ様。今の方は……」

「そのことはいい。とりあえずこの村の生存者がいないかを確認。そのあとは……この近隣の村や町に任せて俺達は先を急ぐとしよう」

「かしこまりました」


 それから村の生存者を探し始めるが、シエラが飛んで戻ってくる。


「ダーリン。さっき来てたのはギドマン家の兵士だったみたい」

「だろうな」

「知ってたの?」

「さっき斬りかかってきたのはギドマンの次期領主だからな」

「え? あんな武闘派だったの?」

「ああ……そうだな」

「?」


 色々とギドマンの次期領主に思うことはある。

 が……とりあえずは領主に会いに行くことが先決だ。


 それから次期領主の兵士たち数人が残ってくれて、俺達の代わりにやってくれることになった。


「では全軍出発!」

「おお!」

「おー」


 俺達は出発するが、シエラはなぜか俺の後ろに座っている。


「なぜそこなんだ?」

「またさっき見たいな奴が出たら守ってくれるでしょー? ならちょうどいいかなって」

「あんな強い盗賊がいたら洒落にならないがなぁ……」


 そんなことを話しながら、数日移動したが襲撃に遭遇するようなことはなかった。



 俺達は領都に入り、領主のいる館に到着した。

 俺の後ろにはシエラを含めた数人が従っていて、他のメンバーは宿舎へと移動となる。


 そんな俺達を出迎えてくれるのは仕立てのいい服を着た数十人。


「よ、ようこそおいでくださいました。ユマ。グレイル様」


 俺の目の前には、くすんだ金髪で目を隠し、その立ち居振る舞いはオドオドしていると言うのが正しい。

 身長はそこそこ高いし、着ている服も当然貴族らしいいいものだ。

 深紅の瞳を持つ彼の名前はニジェール・ギドマン。


「お会いするのは初めましてかな? ギドマン家次期領主、ニジェール・ギドマン殿」

「うそでしょおおおおおお!!?? え? あの大斧振ってた人? 次期領主って2人いる!?」

「シエラ……その気持ちはわかるが……ギドマン家の次期領主は1人しかいない」

「うっそ………………」


 シエラの言葉がその場に染みわたっていく。


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今回で今年最後の更新となります。

皆様、よいお年を。

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