第87話 ジェリック商会

「邪魔するぞ」


 ドガァ!


 俺はジェリック商会の扉を蹴り開ける。


「あ!?」

「誰だてめぇ!?」


 俺が一人で扉の中に入ると、そこは商会か……? と思う程の柄の悪い奴らがいた。


「フォレストリア役場の関係だ。貴様らジェリック商会が盗賊とつながっているとの情報が入った。よって捜査をさせてもらう」

「はぁ! 裏口から扉を蹴り破っておいてそんなこと言うんじゃねぇよ! 表からきてくんねぇかなぁ!」

「表からもちゃんと来ているさ。俺が裏から来たのはお前達を逃がさないためだ」

「はぁ!? 逃げるたぁ……舐めたこと言ってくれるじゃねぇか。それに……逃げないようにするって……たった一人で俺達を止めるつもりか?」


 ジェリック商会の連中は20人くらいはいる。

 その全員が手に武器を持って立ち、今にも襲い掛かってきそうだ。


 俺はそのメンバーを全員見るが、名のある武将はいなさそうだ。

 そもそも、力があったら盗賊に身をやつしていることなんてほとんどないだろう。

 シュウはいたがあれは例外。


「お前達くらいであれば俺一人で問題はない。大人しく捜査に協力してくれると助かるのだが?」

「は! そもそもお前が言ってる表ってのも……」


 リーダー格の男が話している途中に、奥の方から商人らしき男が走ってくる。

 彼は慌てた様子で叫ぶ。


「旦那! 上の奴らがいきなり捜査にきやした! 仲間からの連絡はなかったのに……あ」

「てめぇ……後で覚えてろよ」

「す、すみません!」


 俺はその話を聞いて、口を開く。


「では、フォレストリアの内部に内通者がいるということか。まぁ、当然だろうな」


 でなければそんな何度も盗賊行為を続けることなんてできないだろう。


 俺がそんなことを思っていると、相手の目つきが変わる。


「はぁ……まぁ、しょうがない。死んでくれ」

「!」


 相手は剣を抜き、俺の首目掛けて振りぬいてくる。

 それなりの速度ではあるが、避けられないほどではない。


 一歩だけ下がってそれを回避して、彼に向かって最後通牒を突きつける。


「捜査員を殺したとなれば確実におしまいだぞ?」

「もう証拠があって来てんだろ? ならお前を殺してとんずらするのが一番生き残る可能性がたけーよ」

「なるほど」

「やれ! サクッとやって金持ってとんずらだ!」


 リーダーがそう言うと、彼の後ろにいた連中が一斉に襲い掛かってくる。


 俺は剣を鞘のまま持ち、敵をしばいていく。


「死ねやぁ!」

「その程度ではネズミくらいしか殺せない。次」


 俺は敵の剣を弾き飛ばし、みぞおちに剣を打ち込んで吹き飛ばす。


「な! こいつ強いぞ! 囲め!」

「おう!」

「連携が遅い。魚の群体の方がまだ見ごたえがあるぞ」


 連携の遅い奴ら一人一人鞘で吹き飛ばし、動けなくしていく。

 ちゃんと殺さないように気を付けて……だ。

 殺そうと思えばすぐに殺せるが、色々と情報を引き出してからでいい。

 俺がこの程度の奴らに負けることはないし。


「距離を取れ! 弓も使え!」

「任せろ!」


 そう言って店の奥から矢を放ってくる奴がいるが、俺は鼻で笑う。


「その程度の速度で何を狙うんだ?」


 俺はゆっくり飛んでくる矢を掴んで投げ返す。


「へ」


 スパン!


 頭を狙っても良かったが、弓の弦を斬るようにして投げたが上手くいった。

 いつもアーシャのこれより倍以上早く鋭いのを見ているからかもしれない。


「こ、こいつ……」


 今の動きを見て、奴らの身体が少しずつ下がっていく。


「おいおい、もう来ないのか? こっちから行くぞ?」


 俺がそう言って行こうとした時、奥から声がする。


「ダーリン! こっちは終わったわよー! そろそろ燃やしてもいいー?」

「シエラ……ダメに決まっているだろう」

「だってーこいつら歯ごたえなさすぎるんだよねー」


 奥から聞こえてきた相手はシエラで、彼女の後ろには首輪……の要領で炎の首輪をつけられた人達がいた。


 全員生きてはいるけれど、シエラの不用意な動きで首元が焼かれていて……正直ドン引きである。

 拘束しておいてくれと頼んだけれど、こんな拘束の仕方あるか……?


 それは相手も同じように感じていたらしい。


「なんだあれ……人を家畜とでも思っているのか?」

「失礼ね。ダーリンにやってって言われたからやったのに、ねー?」


 そこで俺に同意を求めるな。

 俺がこうやるように指示したみたいじゃないか。


 実際そう思っているのか、商会の奴らの俺を見る眼に恐怖が宿っている。


 ただ、別のことを考えている奴がいた。

 最初に話しかけてきたこいつらのリーダーだ。


「シエラ……ということは……あんたは……」


 リーダーの言葉に俺が答える前に、違う人が答える。


 シエラの奥から出てきたナセランだ。


「グレイル様。証拠は押収いたしました。流石です。本当につながっていました」

「グ、グレイルということは……お前、ユマ・グレイルか!」

「その通り。俺はユマ・グレイル。このグレイル領の次期領主だ」


 俺がそう言うと、リーダーを含め全ての敵が武器を目の前に投げ出していく。


「これは勝てん。降伏する」

「俺もだ」

「あのカゴリア騎士団を叩きのめした相手に何ができる」


 俺はそういうことであればと、彼らに話をする。

 ちゃんと彼我の戦力差を分かっているなら、話ができる可能性が残っているからだ。


 これが馬鹿で何もできない連中であれば、後先を考えずに斬りかかってきていただろう。

 そうなったら殺していたが、そうでないなら可能性くらいはある。


「お前達。どうしてここで盗賊をしている」

「……そりゃ、ここなら盗賊ができるって聞いてきたからな」

「盗賊ができる? いや……そもそもお前はどこの誰でどうしてここに来ることになった?」


 俺は話を聞いておくべきと思って聞く。


 彼は諦めているからか素直に話す。


 その内容は、彼らはここよりも東にある様々な諸侯が治める土地の出身だと言う。

 いつもであれば、ケラン公爵との取引で食糧が入ってきていたが、入って来る量が減っていると言う。

 ということで、領内の事情がだいぶ悪いことになっているらしい。


 それなら、盗賊をしやすそうな場所として自分達の領内で話を聞き、ここに来たのだという。


「殺されても仕方ありません。一思いに首を刎ねてくれませんか」

「ダメだ」

「……そうですか」

「お前達はグレイル領に損害を与えた。よって、その命は全てグレイル領のために使え」

「……? それは……どういう……?」

「生きていくのが苦しいのだろう? 盗賊にならなければ生き残れなかったのだろう? 確かに貴様らは悪だろう。だが、その悪にだって使い道はある」


 こいつらは殺した方がいい。

 そう叫ぶ自分もいるのは分かる。

 大事な大事な領地を荒らし、そこにいる守るべき者達を傷つけたのだから。


 だが、これからの戦争を生き抜くために、戦える奴は一人でもほしい。

 先日の戦争で減った兵士の代わりになるなら猫の手も借りたいくらいだ。


 それに、あの公爵を生かしている。

 多少の盗賊を生かすことくらいは問題ないだろう。

 まぁ……こいつらが戦場で生き残れるかは分からないが。


「いいんですか……」

「ああ、だが当然二度とこんなことをするな。破れば今度こそ首を刎ねに行く」

「ありがとうございます……俺達は……一生ついて行きます!」


 その場にいる全員が頭を深く下げる。


 反抗的な者もいないようだった。


「ナセラン。こいつらをグレイロードに移送してくれ。それ以降はヴァルガスに今回のいきさつと指導方法は任せると伝えてくれ」

「かしこまりました。その任、ワシが行ってもいいでしょうか」

「いいが……いいのか?」


 ここで仕事があるんじゃ……と思っていると、彼は思いがけないことを言ってくれる。


「はい。そして、できればワシも使ってくれないでしょうか。ユマ様の今回のご判断など、ワシはあなた様に忠誠を尽くしたいのです」

「そう言ってくれるのであれば否はない。そうしてくれ。父上に伝えるための書状も書いておこう」

「ありがとうございます! 最後の骨になるまで働かせていただきます!」

「頼りにしている」


 まさかナセラン本人からそう言ってくれるとは思わなかったがちょうどいい。

 俺はすぐに許可を出す。


 それから、諸々の後処理をしてから、次の町に向かう。

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