第86話 フォレストリア

 俺達は領内の顔見せに出発し、目的地にたどり着いた。


 その場所はフォレストリア。

 山で森がちな北部の主要都市で、長い間盗賊に頭を悩ませていた町だ。

 そのせいでグレイル領一治安が悪いとされている場所になる。


 セルヴィー騎士団長とアルクスの里の弓兵団が来て、盗賊の殆どを殲滅してからは治安は回復しているが。

 ゲームだと、この後……本編だったかな?

 とある商会が盗賊達を裏から操っていて、その商会を何とかしないとずっと盗賊が出続けるとかいう仕様だった。

 レックスルートでは盗賊を2,3回しばいたら盗賊が商会の存在を吐いてくれるが、ユマルートだと最低20回は盗賊をしばかないと吐いてくれない。

 そして、盗賊にそれを吐かせないと商会を調査できないというクソ仕様だ。


 そんな嫌な思い出がありつつも、意識を現実に戻す。


 俺達は伝令で伝えていたこともあり、すぐに役場へと向かう。

 歓迎はいらない。

 ただ、出来る限り早く責任者と話せるようにということだけを伝えていた。


 ここでの目的は3つ。

 俺の顔見せと、メア殿下の仕事のサポート。

 そして、ナセランという文官の登用だ。


 この人物のステータスはこう。


名前:ナセラン

統率:34

武力:26

知力:80

政治:81

魅力:54

特技:能吏、監査


 という感じで十分使える優秀な文官なのだ。

 ゲームではレックス視点で急に広がった領地を統治する時に、登用をしたら大体来てくれる優秀なキャラだ。

 でも、ここにいると知っている俺からしたら、さっさと登用した方がいいだろう。


 なので、役場での顔見せを終わらせてナセランを探しに行こうと思っていたのだけれど……。


「初めまして、ワシはナセランと申します。このフォレストリアで副町長の職を拝命しております」


 目の前には40過ぎのナセランが頭を下げていた。


 俺達は役場の執務室に来ていて、説明をするという副町長と対面していた。

 こちらのメンバーは俺、シエラ、メアにミリィで、相手は副町長とその秘書だけ。


 まさかナセランがここで仕事をしていたとは……。

 まぁ、好都合だしいいか。


「うむ。それで、ここの働きぶりを見させてもらうためにきた。問題はないかな?」

「次期領主様に隠し立てするようなことは何一つございません。お好きなようにご覧ください」

「ああ、そうさせてもらおう。それと……メア。何か聞きたいことなどはあるか?」


 俺は俺の後ろに立っているメア殿下にそう話しかける。


 彼女は自分から市政に出るのだから、普通の格好をしたいということで一般女性の格好をしているのだが……一般人とは明らかにオーラが違うように感じる。

 姿勢がいいからか……美人だからか……。

 何にしても、こいつ絶対一般人じゃないなオーラが凄い。


 それなのに一般人ということで呼び捨てにしろと言われていて、ちょっと困っている。

 俺が彼女に様をつけたらそれ一般人じゃないじゃんとバレるので当たり前だけれど、王女を名前呼びはちょっと気が引けた。


 そんな彼女は気にした風もなく答える。


「そうですわね。では、ここの特産やそれについての扱いなどを伺ってもよろしいでしょうか」

「ええ、ここは山ですので、基本的には木を切ってそれを加工して販売しています」

「なるほど、ではその際の販売価格の割合などを……」


 メア殿下の言葉にナセランは頷き、詳しく話をしてくれる。


 こうやって話を振ったのは彼女が仕事をする上で、市政のトップ達と話すのも有用だと思ったからだ。

 そのことを彼女に提案したら、二つ返事で参加してくれた。


 それからは2人の会話を聞いていて、俺は楽しんでいた。

 ゲーム知識で知っていた部分もあれば、知らないこともあったからだ。


 そういった話はメア殿下が満足するまで続けられ、気づけば5時間は経っていた。


「ここまで丁寧に教えていただいてありがとうございます」

「いえいえ、ここまで真剣に聞いてくださる方は中々おられません。他にも聞きたいことがあればいくらでも聞いてください」


 ナセランがそう言ったので、俺は思いだしたように聞く。


「そういえば、町長はどうしている? 忙しく来れないと言っていたが……問題でも起きているのか?」

「……ええ、実は……最近また盗賊が活発化し始めているのです」

「なに? セルヴィー団長とアルクスの弓兵団で解決したと聞いたが……」

「はい。その通りです。ですが、それから新しい盗賊が現れ始めたのです。町長はその対処に忙しいのです」

「なんだと……」


 俺がこれからどうしようかと考えていると、暇だったのかうつらうつらしていたシエラが口を開く。


「ならさっさと燃やしましょう。マルコス平野の時は消化不良だったのよね」

「いや、聞いてなかったのか? この町は木々の輸出をしている。それを燃やしたら生きていけないだろう」

「むぅ……じゃあどうするのよ。アーシャ達でも呼ぶ?」

「そうだな……」


 盗賊団を裏で操っている奴等。


「ジェリック商会だったか……」


 確かそんな名前の商会だったはず。


「ユマ様はご存じなのですか?」

「ん? ああ、当然だ」


 原作で何度も潰した商会だからな。


「ここ最近大きくなっている商会ですが、領都にまでその名前が伝わっているのですか?」

「盗賊と繋がっているはずだからな。知っているさ」

「!?」

「……あ」


 やっべ。

 長時間続いた話で考えていたことを適当に言ってしまった。


 ナセランは目を見開いて驚いているし、メアは隣に座ってどうしてわかったのか聞きたい様子だった。


 あかん。

 ゲーム知識で知っているとはいえ、言ったらあかんかったかもしれない。


 どうする……。

 ここからは入れる保険はあるのか?


 そう思っていたら、シエラが手を叩いて叫ぶ。


「ああ! シュウからの情報で分かったのね! 流石だわ!」

「! そ、そうだ。まぁ……はっきりとは書いていなかったがな」


 サンキュー! シエラ!

 と俺は思いながらも、それに乗っかる。


「そうよね! 行くって言われる前からそこまでやっていたのね! きっと今も夜まで待って敵を一網打尽にする予定なのね! さ、分かったらさっさと燃やしに行きましょう!」


 なんでだよ。

 と思いつつも、都合がとてもいいのでわざとらしく頷く。


「ああ、今夜中に片を付けるぞ」


 ということで、俺達はジェリック商会の強制捜査を行うことになった。

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