第88話 バーン

 俺は平和な町中をシエラと一緒に歩いていた。

 時間はまだ昼過ぎで、町中には多くの人通りがある。


「やー! ダーリンが話の分かる人で良かったー!」

「俺は俺で外に用事があるからな。顔見せも終わったし、問題ないだろう」

「だよねー。でもあたしと2人キリになりたかったのよね? 全くも―素直じゃないんだから」

「楽しそうな所悪いがこれから行く所はシエラが望むような場所じゃないぞ?」


 俺達はフォレストリアを出て、次の町に到着していた。


 そして顔見せなどをした後に、メア達を残して町に出てきたのだ。


 話は少し聞きたかったけれど、それよりもこの町で仲間にしなければならない者がいる。

 ということで出てこようとしたら、シエラも護衛でついて行くと言って出てきた訳だ。


 そんなシエラは口を尖らせて不満を訴える。


「えー」

「悪いな。今は……遊んでいるような場合じゃないんだ」

「そうなのー? じゃあこれから何をするの?」

「探している奴がいる。多分そいつの周りは騒がしいからすぐに分かると……」


 俺がそう言いながら歩いていると、ドガシャーン! と近くの酒場から人とテーブルなどが飛び出してきた。

 飛び出して来たのは私服の男だが、受け身は取れているのかその後は店内をにらみつけている。


「え? なになに。反乱? 力ずくでやっちゃう?」


 シエラはそう言って杖を掲げるので、俺は彼女の腕に手をそっと乗せて止める。


「待て、少し様子をみたい」


 俺がそう言うとシエラは頷いて杖をそっとおろした。


 それから何が起きたか見ていると、数人の男が店から出てくる。

 先頭の男は熱血漢のような、オレンジと赤い髪を適当に切った細身だけれど筋肉質な男だった。


 彼は吹き飛んできた相手に怒鳴る。


「てめぇ! ただ黙って聞いてりゃオラの仲間にふざけたこと言いやがって! 許さねぇぞ!」

「き、貴様! 俺はこの町の衛兵だぞ! こんなことしてどうなるか分かっているんだろうな!」

「あぁ!? 関係ねぇ! てめぇがふざけたこと言うからだろうが!」

「よそ者の分際で!」


 そう言ってお互いは譲らず、一触即発。


 だが、これはちょうどいい。


「その話……詳しく聞かせてもらえるか」

「誰だあんた」

「俺達の話に入ってくるんじゃねぇよ」

「まぁそう固いこと言わずに、どうして争っているんだ?」

「こいつがオラの仲間にふざけたことを言ったからだ」

「ほう、なんと言ったのだ?」


 俺は尋ねるように衛兵? の方を向く。


「よそ者は出ていけと言っただけだ! あんな風貌で……この町で問題を起こされてはたまらん! フォレストリアでも盗賊が出ていると聞く! どうせその仲間なのだろう!」


 衛兵は彼が悪とでも言うようにそう叫ぶ。


「だからオラ達はそんなんじゃねぇ!」

「ではなんだ!」

「士官しに来ただけだ! オラ達の領地で問題があって、いられなくなったから……」

「ふん! どうせ女子供に乱暴でも働いたのだろう! それで追い出された、違うか?」

「な! オラ達はそんなことしねぇ!」


 そう彼が叫び返す。


 俺はそんな話を聞いていて、にこやかにウンウンと頷いていた。


「ちょっと、これどう収集をつけるのよ」

「何、簡単だ」


 俺は声を潜めて聞いてきた彼女に行動で応える。


「そこのお前、名前は」

「オラか? オラの名前はバーンだ」

「ほう、バーン」


 ビンゴだ。

 ちょうど欲しかった人材だ。


 ちなみに彼のステータスはこう。


名前:バーン

統率:82

武力:71

知力:23

政治:11

魅力:76

魔法:34

特技:鼓舞、求心、乾坤一擲けんこんいってき


 という感じで、統率がとても高く、軍勢を率いるにはとても優秀なキャラだ。

 鼓舞はその名の通り士気を上げ、求心も不利な時などでも脱走が減るというもの。

 乾坤一擲は負けそうな時に一か八かの選択で、逃げることができるか敵将を討ち取れることがあるという運だけやろうだ。


 俺はなるべくこういう運に左右されそうなキャラとは戦いたくない。


 それに、彼が領地で問題を起こした……ということも本当ではあるが、正しくはない。

 彼は領主にある提案をしたけれど、それが領主に受け入れられず、なんならそれが領主の側近の利益を害するものだった。

 よって側近に罪を捏造され、投獄されていた所を仲間に助け出されて逃げてきた……という設定だったはずだ。


 ということで、自陣に迎え入れようという訳だ。


「バーン。お前、士官をしようとしていると言ったな?」

「ん……今その話をするのか?」

「ああ、どこで士官をしようとしている?」

「そりゃあ、できればグレイルで」

「よし、では貴様を登用しよう。いいな?」

「へ? いや、お前さんはどちら様で?」


 バーンは間の抜けた表情をしているが、俺はにやりと笑って答える。


「ユマ・グレイル。グレイル領の次期領主だ」

「へ……そ、そんな方がなんでまたこんな所に」

「まぁ……次期領主としての顔見せと、有能そうな人材を探していてな。お前の部下からの信頼も厚いようだしな」

「本当にいいんですかい?」


 俺は懐から手紙をだし、彼に差し出す。


「これを持ってグレイロードにいけ、俺達は少し寄るところがあるからな」

「はぁ」

「バーン。これからお前の力が必要になる。助けてくれ」

「……そこまで言ってくださるのでしたら、オラ達の力、あなたに預けます」

「期待している」


 ということで、バーンは仲間を連れてすぐにグレイロードに向かってくれることになった。


 ただ、少し話さなければならない相手がいる。


「貴様はこの町の衛兵だな?」

「はい! あ、あの……あの、次期領主様におかれましてはこの度のご来訪まことに……」

「そんなに固くならなくてもいい。それよりも、お前の仕事を邪魔して悪かった」


 俺はそう言って軽く頭を下げる。


「ユマ様!?」

「お前達衛兵が職務に忠実で、仕事外なのによそ者を警戒するのはとても大事だからな」

「はい……中小諸侯の領地から度たび怪しい奴らが来ているので……」

「なるほど、それならお前は職務を忠実にこなしているのだな。まぁ……今回はいきなりよそ者と言って喧嘩を吹っ掛けてしまったのはよくないが、この町を大切に思っていること。俺はうれしく思う」

「はい」

「これからもこの町のことを頼む」

「はい! 必ずや守り切ってみせます!」


 俺の言葉に彼は目に涙を浮かべていた。

 俺が勝手に邪魔してしまったかもしれないが、彼は彼でこの町のことを考えていたからに違いない。


 バーンは優秀な奴だが、見た目からどうしてもチンピラに見えるからな……。

 普通に盗賊と間違えてもおかしくはないのだ。


 そして、衛兵の行いも認めておかなければ、今後チンピラや盗賊相手でも待ってしまうかもしれない。

 なので、先ほどの行いをほめておいたのだ。


 俺はそれから店に修理代を払って後にする。


 すると、シエラが話しかけてくる。


「あの男が優秀って知っていたの?」

「なんとなくそんな気配がしただけだ」

「そんな簡単に見抜くのすごくない……? 目を交換してみない?」

「できないからお断りだ」


 そんな会話をしつつ、他に誘えそうな者がいないか見て回る。


 俺の目にかなう人はいなかったけれど、シエラとしゃべりながら歩くのはとても楽しかった。

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