第82話 夜の訪問客
あれからメア王女はカゴリア公爵の恋心を逆手にとって次々と要求を飲ませていった。
カゴリア公爵はそのまますぐにマーカスに命令をするし、貿易にも署名をするという割と頭スカスカな行動をしていた。
まぁ……こちらとしてはありがたいのだけれど。
そんなことをしていたら、夜になった。
俺は1人部屋で今後の行動について考えていた。
領内をもっとちゃんと回らなければならないということや、他の穏健派ともしっかりと顔合わせをしておかなければならないとも。
父上がつないでくれているとはいえ、いずれ俺が穏健派の盟主としてふさわしいと認めてもらわなければならない。
そう考えると、家で引きこもっている訳にはいかない気がしてくる。
コンコン。
「ん? 誰だ? 開いているぞ」
夜に来るならシエラだろうか?
とも思うけれど、彼女はノックをしない。
なら……と思うが、彼女はすぐに入ってきた。
「失礼いたします」
「メア殿下……!?」
彼女は昼間とは打って変わって、薄い紫のネグリジェだけをまとっていた。
きれいな金髪は緩く後ろでまとめていて、風呂上りだからか頬は上気している。
俺は流石に王族のそれを見るのはまずいと思い、視線を逸らす。
「ユマ様。お気になさらないでください」
「しかし」
「それに、わたくしはあくまでお話に来たのです。よろしいですか?」
「……わかりました」
こんな夜遅くにわざわざ話をしに来るのだろう。
それだけ大事な話に違いない。
俺は部屋の中にあるソファを勧める。
そして、俺は斜め向かいにあるソファに腰を下ろした。
彼女は勧められた通りにソファに座り、話を始める。
「ユマ様。こんな状況ですることではないのかもしれません。ですが、わたくしとしてはもう耐えられないのです」
「な、なんでしょう?」
メア王女がすごく真剣そうな目で俺を見つめてくる。
でも、なんかこの状況どこかで見た記憶が……。
「実は、市政で働いてみたいのです」
「ん? 市政で? 誰がですか?」
「当然わたくしが、です」
「メア殿下……?」
まさかの発言に意識が記憶から目の前の彼女に注がれる。
彼女はじっとうつむいているが、それでも手をギュッと握りしめて俺に向き直った。
「ユマ様。もう一度言います。わたくしを市政で一度働かせていただけませんか」
「……メア殿下。理由をお聞きしてもいいですか?」
「理由は……わたくしに、王族としての風格があるかを知りたいのです」
「!」
その言葉でピン! ときた。
別に犯人という訳じゃない。
王族……と言っているが、ここでもう一度王女のステータスを見ていただこう。
名前:メア・ライル・バントレティ・ノウェン
統率:27
武力:15
知力:86
政治:94
魅力:88
魔法:30
特技:魅了、駆け引き、交渉、求心、王の風格
大体がこのようになっていて、その中でも最後の特技、王の風格。
というのが、割とまじでやばい。
これがあるだけで治世は安定するし、民からの求心力も上がるし、入って来る税収もなぜか増える。
そんな内政を担当するキャラだったら絶対にほしい特技。
それを彼女は将来的に取得する……はず。
ただ、これはちゃんと適切な選択肢を選び、ある程度彼女を自由にさせてやらないとこの特技は取得しないからだ。
今回の話し合いも、レックスが結構いい所まで行ってから起きたイベントだったはず。
それで市政で働くことにより、自身が王族として認められるべきなのかや、どうしたら民達の声をしっかりと聞けるのか。
ということを彼女自身が思いつく。
それによって、彼女は成長して上で挙げた特技を得ることができるようになるための必須の選択肢なのだ。
だからここは当然こちらの選択肢だ。
「かまいません」
「本当ですか!?」
「はい、メア殿下のなさりたいようにするといい。もちろん、覆面の護衛を最低2人は連れていっていただきますが、構わないですか?」
「……いいのですか? わたくしはここに来たばかりで、正直に言いましょう、信頼などないのでは? もちろん、先ほどの交渉などでグレイルのためにしかいたしませんでしが、信じていただけるのですか?」
「? もちろんです」
あれ? そんな裏切るとか怪しい話あったっけ? と思い出そうとしてみるけれどなかった気がする。
というか、彼女は襲われてこちらの領地に来て、襲われているところを助けて、さらにその身柄を求めて俺達が戦うことになった。
……そう言われると、こちらを引っ掻き回すために来たんじゃないのか。
と思われてもおかしくはないかもしれないけれど、こちらが助けるために動くことを期待するなんて馬鹿がやることだろう。
俺達にはメア王女を見捨てるという選択肢もあるにはあったのだ。
それに、カゴリア公爵は純粋に彼女を欲していた。
もしもの話だが、俺達が彼女を差し出していれば、すぐに終わっていただろう。
しかし、メア王女はそれが信じられないのか。
じっとじっと床を見つめる。
「メア殿下?」
「……わたくしは、不安でした。信じられる者は幼いころから一緒だったミリィくらいのもの。他の者達はわたくしを駒としてしか見ていません」
「王族として……ですか」
「ええ、ですので、わたくしに、本当に王族としての資格があるのか疑っています。ただ民の作ったものを利用し、民達の上に立っているだけなのではないか……と」
「だから、市政で働いてみたいと言うのですね」
「はい。決してユマ様やグレイル領のみなさんにも迷惑はおかけしません。ですからどうか」
そう言って彼女は頭を下げるけれど、俺は聞く。
「かまわないと言ったでしょう? 俺はメア殿下を信じています。それに、将来自分の妻になる者を信じずに、誰を信じるというのですか」
「……ありがとうございます」
メア殿下はそう答えてすっと立ち上がった。
「では、詳しいことは明日父上も交えてお話ししましょう。安全面には配慮します……メア殿下?」
俺が話していると、彼女は俺に寄ってきて、そのまま俺の膝の上に腰を下ろす。
うおおおおおおおおお!!!!
柔らかい! 柔らかいものが足に!
そんなことを思っていると、彼女はそっと身体を俺に寄せてくる。
当然彼女の薄いネグリジェ越しに胸が当たっていた。
大きさだとシエラ>メア殿下>アーシャという感じだろうか。
……殺気が飛んできたようだが……気のせいか?
と、そんな感じではあるが、大きさだけですべてが決まるわけではない。
何が言いたいかというと、いいものはいい、それだけだ。
そんなことが頭の中でぐるぐる回っていると、彼女は耳元でささやきかけてくる。
「ユマ様」
「!」
「わたくしの全てをあなた様に捧げますわ。あなたが望むなら、なんでもいたします」
「な、なんでも……」
「ええ、つま先から心臓に至るまで、ユマ様が求める全てを差し出せますわ」
そう言って彼女の顔が俺に近づいてきたところで、扉がバン! と開かれる。
「ダーリン! そろそろご褒美を……」
「シエラ殿! 少し待ってください! あ……」
「………………(殺意)」
扉にはシエラ、ミリィ、アーシャが立っている。
シエラは飛び出したまま固まり、ミリィは顔をシエラに抱き着いたままこちらに目を向けたり背けたり、アーシャは真っ赤な顔で弓矢に手を伸ばしている。
「ちょっと待とうか。今日は疲れたんだ。一度部屋に帰って休もう」
「あら、皆さんもご一緒にいたしますか?」
「「「「!!!????」」」」
メア殿下の言葉に彼女以外の全員が固まる。
いち早く我に返ったミリィが叫ぶ。
「姫様! 一度お部屋に帰りましょう! いくらなんでも急ぎすぎです!」
「あら、わたくしはもうユマ様のものですから、一緒でもいいと思うのですが」
「「「「!!!!!!??????」」」」
「ダーリン……それならあたしも誘ってよ!」
「シエラ!? そっちの意味で怒っているのか!?」
「それ以外にどんな理由があるのよ!」
「おい!? 魔力を練るな! 魔法を使おうとするな!?」
シエラが魔力を練って魔法を使おうとし始めるので、ミリィが大変だとそれを止める。
しかし、気配のない方に目をやると、アーシャが座った目で俺かメア殿下にじっと狙いをつけていた。
「アーシャ。待て、話せばわかる!」
「問答無用」
シュパッ!
彼女の返答と共に、俺とメア殿下の間を通り、椅子に矢が突き刺さる。
今の少しでもずれていたら絶対大変なことになっていた。
まぁ、アーシャだから狙って外したのだろうけど。
そんなことを思っていると、メア殿下は俺の上からひょいと降りる。
「ま、婚約者の座はお譲りできませんが、わたくしはユマ様が何人囲っても気にしませんからね。最初もわたくしでなくてかまいません。今は……お願いごとの方が先ですからね」
ああ、市政で働くことかと思う。
「ではユマ様、いい夜を。いつでもお呼びください。望む格好で向かいますわ。先ほどのように」
そう言って彼女はミリィを連れて部屋から出ていく。
ここでふぅとならないのが今の2人だ。
「ちょっと……ダーリン。お願いごととか、先ほどの望む格好って何?」
「ユマ様。エッチ」
それからなぜか俺が問い詰められ、好きな衣装の話をさせられた。
なぜだ……。
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