第83話 メア視点 メア王女の考え

***メア視点***


「メア様。お話をされるだけではなかったのですか?」


 わたくしはユマ様の部屋から出て、ミリィを連れて自室へと向かう。


 ミリィはわたくしがそこまですると思っていなかったのか、顔を赤らめてそう問いかけてくる。


「……そのつもりだったのですが……ユマ様がとても素敵すぎましたので、もういいかなと」

「もういいかなって……。いくら婚約を結んだとはいえ、早まりすぎですよ」

「ですが、彼以上にいい方っていますか?」

「それは……ですが、順序というものがあるかと」


 そう言ってくるミリィの言い分もわからないではない。

 わたくしの立場などを考えたら、それこそこれからの乱世を考えれば必要なことだろう。


 でも、この気持ちは抑えられない!


「だってもう……止められなかったんですもの。しょうがないでしょう?」

「そんなしょうがないって……」

「ユマ様はわたくした望んだことを許してくださいましたわ」

「本当に……市政に出てもいいと?」

「ええ、言ってくださいましたわ。迷う様子もありませんでした」

「そんな……信じられません。王族が市政に出るなど、普通はあり得ないことです」

「わたくしもそう思いますわ。でも、思うからこそ出てみたいのです」


 ただ王宮の奥で隠れているのか、引きこもっているだけでは見えてこない何かは必ずある。


 王とは……生まれながらに王なのか?

 それとも、多くの人と関わり、その上で人の上に立つと認められるものではないのだろうか?


 生まれた時より王族だと決められ、周囲が祭り上げるから王族の仕事をする。

 それでうまくいくこともあるだろう。

 だが、わたくしはそれが本当に正しいのかわからないのだ。


 だからこそ、ただの市民の1人として働きたい。

 聞かなかったけれど、許されるなら普通の市民の家で住んでみたいすら思う。


 民達を率いるのに、その民達の生活を知らないのにどうやって導くことが出来ようか。


 わたくしはそう思うのだ。


「メア様のお考えは立派だと思います。ですが、そのお体の大切さもお考えください」

「わかっているわ。ここでわたくしに何かあればグレイルの方々が困る……そのことくらいはわかっています」


 わたくしはそう言って自室の扉をくぐる。


「メア様。まだ話は……」

「ならあなたも一緒に来なさい。少し……お話をしましょう?」

「よろしいのですか?」

「ええ……わたくしの護衛なのですから、ちゃんと守ってくださいな」

「わかりました」


 わたくしは彼女を部屋に入れ、お互いソファに座って語り合う。


「それにしても、ユマ様がわたくしのことを信じていると言ってくださったのは驚きました」

「そうなのですか? あの方なら信じてくださると思いましたが」

「でも、状況だけ考えたら普通の厄介ものすぎると思わない?」

「?」

「急進派の暗部を領内に引き込んで、街のいい宿を壊す結果になった。さらに、わたくしがいるせいでカゴリア騎士団が喧嘩売ってくるのよ? わたくしが領主だったらとんだ疫病神だと思うわ」

「……それは確かに」

「でしょ? でも……彼らは……ユマ様は受け入れてくれた」


 わたくし達のことを疑くことなく、助けてくれた。


 そのことをわたくしは一生忘れないだろう。


「ええ、そう考えたら、追い出されてもおかしくない状況に何度もなっていますね」

「そういうことよ」

「しかし、カゴリア公爵への扱いはよろしいのですか?」

「どういうこと?」

「話に聞いた限りですが、できれば会ったりするようなことを言っていたと聞きましたが……」


 わたくしはわかりやすくにっこりと笑みを浮かべて、彼女に答える。


「ミリィ。公爵様はここで教育を受けるの。それも必死に……命を懸けて、体力の限界まで」

「は、はい」

「わたくしのところに来る体力は残さない……とユマ様も約束してくださったわ。ただ、もう無理と限界になった時にやりなさいとケツを叩きに行くくらいはしないといけないけれど」

「メア様。品がありませんよ」

「あら失礼。でも、そうしておけばいいのです。あれだけ無能を晒しておいて命まであるのです。自分が何をしたか、今一度知る必要がありますわ。あれだけ強い騎士団をどれだけ殺し、守るべき領民をどれだけ死なせたのかを」


 わたくしは話すにつれて無表情になっていく気がした。

 話を終えると、首を横に振って元に戻す。


「いけませんわね。話が重たくなりすぎました」

「いえ、メア様の言う通りです」

「そうね。そういえば、他の領地はどうなったの? あまり他の場所の情報を聞くに聞けない状況だったから……」

「ああ、なるほど、セルヴィー騎士団長とヴァルガス副騎士団長、どちらも軽く一当たりしただけと聞いています。本命はカゴリア騎士団でしょうから、戦力を引き抜けるだけでよかった。万が一薄かったら殲滅しよう。という程度だったかと」

「そうなのですね。良かった……」

「ええ、ですが、問題も少しは浮かび上がったかもしれません」


 そう話すミリィの表情は暗い。


「どういうこと?」

「同じ穏健派の2人がそこまで戦力を保持していない。ということです」

「……」

「今回の件、その2人のどちらかが戦力を送ってくれるなどしていれば、もっと簡単な戦いだったでしょう」

「そうですわね」

「なので、これからの乱世になることを確信し、軍備を整えるように要請するように動く必要があるかと」

「それは……グレイル侯爵様の判断ですわね」


 わたくしは確かそうだったようなと言う感じで思い出す。


 ミリィは頷き、話を続ける。


「はい。侯爵は穏健派の旗頭ですし、そうやすやすと軍備と整えろとは言えなかったのでしょう。それに、穏健派もそれなりに豊かではありますが、兵も元々弱い所ですから。それを多少強化したとして……となっても仕方ありません」

「でも、このままでいいということはないでしょう。ユマ様もわかっておられると思います」

「だとは思うのですが、こちらからお話ししますか?」

「やめておきましょう。ユマ様ならそれくらいはわかっていると思います」

「かしこまりました」


 そう言ってミリィは報告は終わったとばかりに一息つく。


「では、コイバナでも始めましょうか?」

「メ、メア様? なんのお話ですか?」

「ふふ、わたくしに隠せるとお思い?」


 それから、彼女の主という立場を使って彼女から色々と聞きだしたりして、楽しい夜を過ごした。


 まぁ、彼女も聞かれることにまんざらでもなさそうだったので、別に問題はないだろう。

 カゴリア公爵領にいた時はいつ強引に入ってくるのか恐ろしかった。

 でも、今はそうなってもいいかもしれないとすら思う。

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