第77話 マルコス平野の戦い③

 俺はあまりの絶望感に思わず笑ってしまう。


 敵は落とし穴にはまっている仲間を見過ごし、こちらに向かって突撃をしてくる。

 その圧力は先ほどの比ではない。

 さっきの攻撃はお遊びだったと言われてるような圧力を放っている。


 兵士達の中には手や足がガクガクと震えている者もいる。

 俺はそんな彼らを励ますようにして叫ぶ。


「総員! 槍衾やりぶすまを作って敵に向けよ! できるだけ周囲の味方と固まれ! 50人以上でだ! 多少の道は開けてもいい! 突撃に飲まれないように気をつけろ!」

「お、おう!」


 俺は味方にそう指示して、防御態勢を整えさせる。


「シュウも入っていろ!」

「ユマ様はどうされるのですか!?」

「敵の硬さを確かめる!」


 俺は馬に乗り、正面から……は流石に無謀な者やることだ。

 だから、敵の端の方をそぎ落とすように向かう。

 突撃してくる敵の本当に端の端。

 数人だけといった感じだ。


「!」

「はぁぁぁ!!!」


 ズバッ!


 敵は防御魔法がかかっているため、とても硬い。

 だが、俺であれば割と簡単に斬れるレベルだ。

 流石にゲームの時よりバフを受けていることもなく、少し安心した。


 敵はそのまま俺と味方を通り抜け、反対側に出る。

 急いでシュウの元に向かうが、敵が通りすぎた跡は洒落にならない状況だった。


「どれだけやられた!?」

「1000は持っていかれました!」

「たった一度でか!?」

「はい!」


 被害状況を改めて確認すると、今の突撃で死者、負傷者も含めて1000人くらいだろうか。

 戻ってくる途中に思っていたけれど、あの硬さを生かした徹底した突撃。

 これが本気のカゴリア騎士団かということを身をもって思い知らされる。


 8000の兵の8分の1が持っていかれた……。

 防御を固めさせて、これ。

 やはりたまらない。


 だけれど、敵が落とし穴を回り込んでこちらに来るまでまだ時間はある。


 今のうちにできることを整えておく。


「騎馬は騎乗しろ! 敵側面をつく! 急げ!」

「は!」

「シュウは歩兵の指揮をとれ! 何としても敵をやり過ごすんだ!」

「わかりました! やり方は任せていただいてもいいですか!?」

「任せる! 歩兵は好きに使え!」


 俺がそう叫ぶと、シュウが頼んでくる。


「ありがとうございます! それと、ユマ様! 敵の速度を落とすようにお願いします!」

「もとよりそのつもりだ!」

「はい!」


 俺は味方をまとめながら、敵のことに思いを馳せる。


 敵はカゴリア騎士団それも、騎士団長がガチで率いている。

 先ほど見たときに、敵の先頭にその姿を確認したからだ。


 ちなみに、彼のステータスがこちら。


名前:マーカス

統率:95

武力:92

知力:71

政治:46

魅力:80

魔法:85

特技:突撃、鼓舞、防御魔法、破軍


 というもので、破軍とは突撃の上位互換のような性能。

 敵陣に突入した時、打ち破りやすくなるというもの。


 しかも、壮年のためこのステータスと同じか、これよりちょっと低い程度はある。


「集まりました!」


 と、それから、俺はまとめ上げた500騎の騎兵を歩兵から離す。


「敵が回ってきた時の側面をつく! 俺が先陣を斬り開く! ついてこい!」

「おおおおおお!!!!」


 500人とは思えない喊声をあげ、敵の側面をついていく。


****喊声


***マーカス視点***


「団長! 敵500騎が側面より突入してきました!」

「放っておけ! 我々にはあの程度の数は敵ではない! まずは主力の歩兵を潰す!」

「はっ!」


 俺はそう指示して、敵陣に突入をかける。


「突撃!」

「おおおお!!!!」


 俺達は再び突撃をかけるが、何か違和感を感じる。

 前回よりも倒す数が減った気がするからか?

 先ほどの一回の突撃でもう慣れたからか?

 なんとなく進路を左に左にと取らされているような……。


 それから少し経ち、俺は慌てて進路を変える。


「全軍! 進路を右に取れ!」

「は!」


 部下達は優秀で、俺の言葉に即座に行動に移す。


 ただ、行動には移すが、疑問があるのか副官が聞いてくる。


「どういうことでしょうか?」

「敵は守りながらも俺達の進路を落とし穴の方に誘導していた。あのまま突撃していれば、敵を抜いた直後に落とし穴に落とされていただろう」

「そんな……たったこの短い時間でそこまで?」

「やったのだろうさ。本当に嫌になる……なぜこのような優秀な味方と戦わねばならんのか」

「団長?」

「何でもない。気にするな。攻めているのはこちらだが、油断はするなよ」


 俺は考えを頭から振り払う。

 今は突撃に集中しなければならないからだ。



 こうして俺自身がきて、10000もの兵士を連れてこれたのはケラン公爵のおかげだった。

 彼の領地が今は落ち着き、その兵士をカゴリア公爵領の治安維持に使っているのだ。

 だが、ケラン公爵はヘルシュ公爵に多大な借りがあると聞く。

 自分達の領地を急進派や他の中立派から守るためにも、今回の戦は早急に終わらせなければならない。


 話し合いで解決できればよかったが、我が主も俺達の戦いを見てるはず。

 だから適当に戦って話をするということもできないだろう。


 こんな所で手塩にかけた味方を失いたくはないが……主の命令であれば仕方ない。


 落とし穴にはまった味方は少しずつだが上に這い出している。

 時間さえあればこちらの戦力はさらに増えるだろう。

 歩兵にも指示を与えているので、今も想定通りに動いているはずだ。

 そして、このまま敵を削り取っていけば、いずれはこちらが勝つ。



 俺達は敵陣を抜き、少し余裕ができた所で、情報を集める。

 そして、先ほどの500の騎馬の突撃の詳細を受け取った。


「団長! 先ほどの騎馬の横撃による被害! 100人は持っていかれました!」

「何!? そんなに持っていかれたのか!?」

「はい! 先頭の男が異様に強いです! 第3隊長も討ち取られました!」

「くそ……話が変わってくるな」

「先に500騎の騎馬を潰しますか?」


 副官の提案に首を横に振る。


「いや、当初の予定通りだ。このまま敵を包囲して消す」


 俺は視線を向けた方を見て、9割方勝ったと判断する。

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